第18話 ~その魂(アニマ)をゆっくり咀嚼してやる~
「感謝しろ、今すぐ貴様の魂も取り込んでやるっ」
敵神官の言葉を聞き、不意にノイシュは熱く黒い内面が胸から湧き上がってくるのを感じた。
彼は弱き者のために行動すべき聖職者でありながら、国に殉じた魂達を軽んじた挙句にその遺骸を弄び、さらに義妹の命まで奪奪おうとした――
「ぐっあぁぁァ……ッ」
ノイシュは激痛に耐えながらも立ち上がった。自分の呼吸は既に早く、浅くなっている――
「ノイシュ……ッ」
傍らからミネアの不安げな声が届くが、ノイシュは腕を水平に突き出して応えた。
「どうしてっ……」
義妹の問いに、ノイシュは沈黙を守りながら眼を細めた。
――ごめんね、ミネア……
「――エスガルッ、お前だけは、僕は許さない……ッ」
そう叫んだ直後にノイシュは喉から込み上げるものを感じ、咳き込むとそのまま血を吐き出した。
すぐに口許を拭うが拳や爪の色までもが蒼白となっているのに気づく。
ノイシュは激しくかぶりを振って恐怖を払いのけると、舌中に広がる血の味に構うことなく詠唱を始める――
「……ふん、度胸だけは認めてやる。遊んでやるから全力でかかってこい」
エスガルの頬が鋭角に吊り上がった。
「その魂をゆっくり咀嚼してやるっ……」
ノイシュは術句を紡ぎながらも懸命に思いを巡らせた。
先ほどの言動から、間違いなく魂を吸収しに来ることは容易に想像できる。
もし互いに術を放出すれば、その圧倒的な霊力差から勝ち目がないのは明らかだった。
負傷した身体では回避さえ難しい。では、エスガルを倒して仲間達を救う方法は――
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手
エスガル……レポグント王国の大神官。バーヒャルト救援部隊の指揮官。男性。術士。