第7話 ~自分の命に代えても守らなくちゃいけない人が、僕にはいるんだ~
「お前は邪魔だ、ここで死ね」
暗紅の悪魔の唇が動き、術句を紡いでいく。
彼女の身体から仄かに光りが溢れ出していくのが分かり、ノイシュは静かにうつむいた。
胸の奥でガラスが突き刺さった様な痛みを覚える。
それが鼓動を打つ度に疼いた――
――どうしても、僕達は戦わなくちゃいけないの……ミネアッ…… ――
「お義兄様……っ」
後ろから聞き覚えのある声が耳に届き、ノイシュは振り返った。
そこには長い銀髪を襟足から結わえた少女がたたずんでいる。
その髪と同じ色彩の瞳が、真っ直ぐにこちらへと向けられていた――
――エルン……ッ
ノイシュはそっと眼を細めた。
そうだ、自分の命に代えても守らなくちゃいけない人が、僕にはいるんだ――
「――エルン、術増幅を……っ」
静かにそう告げると、腰の後ろに差した鞘から大剣を抜刀していった。
胸中には痛みとは別に、打ち震える感情が湧き上がってくる。
瞼が熱くなり、不意に視界が滲んだ――
「はい……っ」
ぼやけた視界の先で、義妹の声が耳朶を打つ。
袖で涙を拭い、ノイシュは再び彼女を見すえた。
義妹は両掌を組み、その場で屈んでいく。
その両眼を強く閉じた途端、彼女の足許が輝き出していく。
義妹が超高位秘術を発現させたのだと分かる――
――ありがとう、エルン……ッ
ノイシュは自らも術の詠唱を始めると、静かに頭上へと視線を向けた。
そこにはかつての義妹が不敵な笑みを浮かべており、その身体から発する光の明度をさらに強めている――
――ミネア……ッ
目の前で別の輝きに気づき、ノイシュは両眼を細めた。
自らの身体もまた驚くべき強い光に包まれているのに気づく。
その足許では幾何学模様が煌きながら浮かび上がっていた。
間違いなく義妹の術増幅によるものだろう――
――エルン、君を絶対に死なせたりしない……っ
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹かつエルンの義姉。魂吸収術という超高位秘術の使い手。通称『暗紅の悪魔』