UFOの日の真実 その11
2ヶ月ぶりの投稿です。セールだった月姫リメイクをやり始め、FF14パッチ6.0をやり始め、グラブルで半額と古戦場と半額を走ってました(本音)
……もとい、戦闘シーンにめっちゃ難航していました(建前)
青い狩人が、青い燕の後を追った。
発艦後、イクス・ローヴェ・イエーガーが最初に取った行動は、実に奇妙な動作だった。左手に持つ巨大なシールドに、まるでバイクにでも乗るかのようにまたがったのだ。前傾姿勢を取れば、風防によって機体の姿がすっぽりと隠れる。露出しているのは、空力カウルを取り付けた頭部だけだ。まるで水上バイクのようだった。
その状態で、10基の大型イオンブースターが起動し、ドール・マキナとは思えぬ速度で飛翔した。
これは、このシールドは、シールドなどではない。巨大な、空中バイクとでもいうべきものだった。もっとも、バイクといっても、これ自体に推進装置は搭載されていない。単にドール・マキナが戦闘機相当の速度で飛ぶためだけに、空気抵抗を削減することを目的とした装備、―――エアロブレイカー。
先行する燕撃にすぐに追いつき、燕撃もイクス・ローヴェ・イエーガーに合わせて更に速度を上げた。発艦したヴァイスエルフと、その隣、海上に浮かぶ黒の原子力空母の姿がみるみる小さくなる。
「ガハハハハハ! 複雑な可変機構なんざ搭載しなくてもなぁ! こうしてやりゃあドール・マキナは高速で飛べんだよぉ!!」
『ち、力技過ぎる……! ドイツは本当にそれでいいのか!? そんなやり方で戦闘機から空を取り返すつもりなのか!?』
「勝ちゃあいいんだよ勝ちゃあよ! このやり方なら空飛びながらでも武器使えるだろうが!」
ドール・マキナが空を飛ぶようになってから、約五百年。現代では、第二次世界大戦で活躍した戦闘機により、飛行用ドール・マキナ不要論までが出てくる始末である。
「だいたい戦闘機っつう呼び方が気に入らねえ! 戦うのは! ドール・マキナの! 役割だろうが!! 飛行機風情がデケェ面してんじゃねえぞゴラァ!!」
『オレにそんなことを―――いや待て! 貴様まさか米軍空母と通信を繋げてたりしないだろうな!? 今は協力下だぞ!?』
「ガハハハハハ!!!」
『笑ってごまかすなぁー!!!』
「んなことよりもよぉ、これ見よがしだとは思わねえか?」
『これ見よがし? 何がだ?』
「フー・ファイターの出現傾向だよ。3週間ぐれえ前までは連日出てたっぽいんだが、それからぱたりと出なくなった。おかげでオレサマたちは船の中で缶詰め生活だ。カツ丼が食いてえ」
『学園での食事は贅の限りが尽くされているからな。アレに慣れると帰国ってからが辛そうだ。……確かにこれ見よがし、か。3週間ぶりの出現が、よりにもよってUFOの日だ』
「ま、考察は連中を捕まえてからだな。もうそろそろ―――」
ライナスの言葉の途中だった。イクス・ローヴェ・イエーガーと燕撃、それぞれの機体のセンサーが、ほぼ同じタイミングで感を得たのだ。
「来た! 数は2!」
メインカメラも、その姿を捕らえた。黒い三角形のメインボディに、オレンジ色が点在している戦闘機。輸送機のように妙に分厚い。
『1人1機だな。足を引っ張るなよ!』
「そら手前もだ! 散開!」
前方、2機のフー・ファイターから、大量の小さな飛来物が発射された。
「ミサイルか!? そいつが飛んで来ることは重々承知よ!」
イエーガーがハンドルから片手を離し、飛来物へと腕を向け、
「撃ち落としゃあ! アンバス!!」
腕のコンテナから、極細のビームが幾重にも発射された。AMBS―――アンチミサイル・ビームシャワー。その名の通り、ミサイル迎撃用のウェポンコンテナ・モジュールだ。特に熱誘導式のミサイルには効果が高く、迎撃するだけでなく誘導効果も期待できる武装である。
アンバスから放たれたビームと、フー・ファイターから放たれた飛来物が接近し、
―――飛来物が、ジグザグに動きながらビームを避けた。
「……あ?」
『なんだ、今の動きは!?』
飛来物が接近する。だがその軌道は、ガーランや詩虞の知るミサイルのものとは全く異なっていた。あまりにも三次元的過ぎた。普通、ミサイルというものは前に向かって飛ぶだけであって、この飛来物のように、真横に移動したり、あるいは後ろに下がったり、まかり間違ってもその場に滞空したりするものではない。
(コンピュータ制御で攻撃を探知して自動的に回避させている? ―――無理だ。カメラとセンサー、そして映像処理用のコンピューター。どう考えてもあのサイズには収まらねえ!)
サングラスを外し、注視した。戦闘機から発生するオーラが、薄く、長く伸びている。知っている。あれは電波ではない。搭乗者の触覚、つまり五感だ。そして、それらは飛来物の半分ずつに繋がっていた。その伸びた線が一瞬太くなると、飛来物の軌道が即座に変化する。
まさか、という可能性がガーランの脳裏に過ぎる。ありえない。だがそれ以外に説明できるものがない。
今から四百五十年前、ドイツの英雄マリア・フォン・ゴルディナーが使ったと言われる、思考遠隔操作型攻撃端末。そして、以降は人類が四百年の時間をかけて未だに再現出来ていない、ガーランがいずれ乗り越えようと目論んでいた、旧世代にして次世代の技術。
T・ナーゲル。
四方八方から反撃が飛んできた。各ナーゲルが細いビームを発射してきたからだ。イェーガーはエアロブレイカーを大きく振り回しながら回頭し、燕撃は人型と戦闘機の変形を繰り返すことで急加速と急停止を組み合わせてそれぞれの方法で回避方法を取った。だが、ビームの数はあまりにも多い。無数の細い光が機体の表面を舐め、耐ビームコーティングによって弾かれていく。
不幸中の幸いは、ナーゲルの攻撃手段がビーム射撃だったという点だ。ミサイルのように突撃されていたら、ABCでは防ぐことが出来ない。
無数のビームに晒され、ABCの施せないガンセンサーやカメラ部を庇いながらも反撃に転じる。当たらない。一つもナーゲルを減らせない。だったら、
『リントヴルム!』
「わぁってるよ!!」
イクス・ローヴェ・イエーガーと燕撃が、強行気味にビームの雨を突き抜けた。狙いは―――
「本体を潰せば!!」
エアロブレイカーの下部、二ヵ所からビームが連射された。裏側に保持されたビームマシンガンによるものだ。燕撃も、イエーガーが狙ったものとは別のフー・ファイターに向かってビームライフルを発射する。
そして、それらの攻撃が当たる寸前、それぞれのフー・ファイターが二つに分かれた。
「な……!」『に……!?』
二機の戦闘機が、気流干渉が発生するギリギリの距離まで接近し、一機に見えるように偽装していたのだ。
この大量のT・ナーゲル、そのからくりの一端をガーランは理解した。二機ではなく四機でナーゲルを操作している。操作にどれだけの負担がかかるかは分からないが、単純に考えても必要な労力は半分で済む。
だが同時に、ガーランは一つの矛盾にも邂逅した。妖精の目が写す五感のオーラは、指紋や網膜のような特徴を持っている。人毎に色や波紋の広がり方が異なるのだ。そして複数の人物が近い位置にいたとしても、それらは絵の具のようにひとつに混ざりあったりするものではない。だが、ガーランが先ほど見たオーラは一つだけだった。それどころか、
(四機全て、同じオーラだと!?)
先ほどは気付かなかった。単に、偶然よく似たオーラの持ち主がそれぞれの機体に乗っているだけだと思い、見落としていた。
理由を考える間もなく、ナーゲルから発射されるものよりも強力なビームが飛んで来た。どこから、なんて考えるまでもなかった。フー・ファイター本体に搭載されたビーム砲によるものだ。
2対4。それも、
『―――こいつら……! 速いぞ!? それに飛び方も巧い!』
「クソッたれ! な~にが『ハハハ、数が少ないからきっと偵察だろう。ちょっと飛んできて捕まえてきてくれないか』、だ! 帰ったらあのクソ米軍戦術士ブン殴ってやる!! つーかあの麗奈はまだか!?」
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一方、その頃……
「……おかしいですわね。どれだけ飛んでも誰の姿も見えませんわ」
≪やっぱお前これ方角間違えてるって。ローズ・スティンガーの方位情報指示器もとっくに壊れてるしなー≫
「あら、遠くに島が見えますわ!」
≪報告:形状から算出するに、マリアナ諸島北端の島、ファラリョン・デ・パハロス島です≫
「……つまり?」
≪感想:やはり、移動方向が少しずれていたようですね≫
「急いで戻りますわよー!!!」
どうやら頼みの綱が登場するには、もう少し時間がかかりそうだ。




