UFOの日の真実 その6
「両者、入場ぉぉおーーー!!!」
リングが中央に置かれた大部屋と繋がったドアから、先にライナスが姿を現した。パープルのボクシンググローブとヘッドギアを装着し、長い髪は後頭部で一つに纏められている。服装はボクシングパンツではなく体操服にジャージの上着を羽織っていて、密かにライナスの半裸が見れるのではないかと期待していた周防一派と新聞部女子と放送部女子から溜息が漏れた。
「にぃ~~~しぃ~~~! ライ~~ナス~~ロンゴミニアドぉぉお~~~!」
そして反対側からは、ライナスに決闘を申請した鍋島が姿を表す。こちらは赤のボクシンググローブとヘッドギアで、服装はやはり体操服にジャージを羽織っていた。
「ひがぁ~~~しぃ~~~! なべ~~しま~~~きぃ~~ちぃぃぃ~~~!」
ライナスが青コーナーから、鍋島は赤コーナーからリングに上がった。
「止めてください、ライナス様! 鍋島君! 私のために争わないで!!」
二人の姿を見た周防が叫び、対角線上の六華や有栖はあきれ顔でその様子を見ていた。
「凄く自分に酔ってるねー周防先輩」
「でも気持ちは分かるよねー。女の子なら人生で一度は言ってみたいセリフだもん」
≪分かる。トップ10には絶対入ってるよな。俺も狙ってたんだけど結局死ぬまで言う機会には恵まれなかったんだよな~。あ、でもあれは言ったぜ。『わたくしで童貞捨てたくせに……』はアメリカ探検してる時に言った!≫
麗奈はマリアの言葉を無視した。
「決闘の前に、最終確認を執り行う! 此度の件、鍋島喜一の婚約者、周防鈴里をめぐり、両者の間で決闘が合意された! これに相違ないか!?」
「ああ」
「はい、ありません」
「では次に! 勝者が敗者に要求する内容について確認する! 鍋島喜一! 貴様はライナス・ロンゴミニアドに勝った暁には何を求むるか!?」
「決まっている! 二度と鈴里に近付かないでもらおう!!」
六華と有栖は小声で、
「どっちかというと周防先輩たちが追っかけまわしてるだけだよね」
「でもほら、ライナスちゃん、逃げはするけど拒否まではしないから」
≪痴情のもつれあるある~~~≫
「まぁ迫られたとしても全力で拒絶しろって効力を発揮するんじゃねえか? そうなりゃ相手も安心は出来んだろ」
ガーランのその言葉で、二人はそう言う考え方もあるか、と納得した。
「ライナス・ロンゴミニアド! 貴様はこの内容を承服するか!?」
「はい、それで構いません」
「では次に、貴様は鍋島喜一に勝った暁には何を求むるか!?」
「私からは特に何もないのですが、ああ、いえ、そうですね……。婚約者さん、えーと、スオウさんとどうか末永くお幸せに、というあたりでどうでしょう?」
「鍋島喜一! 貴様はこの内容を承服するか!?」
「浮気を公認しろ、という事か……!? なんたる卑怯者! だが勝てばいいだけの話だ! 俺もそれで構わん!!」
六華と有栖は小声で、
「ライナス君は本心から言ってるんだろうけど、鍋島先輩はまた変な解釈しちゃってるねー」
「これきーちゃん勝っても負けても地獄なんじゃないかな?」
鍋島が勝った場合、ライナスは自分から周防に近付いているのではなく、周防の方からアピールをされている訳で、約束の不履行とはならない。
ライナスが勝った場合、鍋島は周防と結ばれたとしても、常にライナスの影に怯えることになる。
≪なんつーか、六華よりあっちのモブメスの方が乙女ゲームの主人公っぽい気がしてきたな……。もう原作ゲーム理解系クソ転生者のムーヴだろこれ≫
「最後に行動規則についての確認を行う! 行動規則はK-1のものに準拠する! 3分戦うごとに1分の休憩を取り―――」
小漆間が細かいルールを説示するのを聞きながら、麗奈は「どうしてボクシングじゃなくてK-1なんですの?」と五十鈴や春光に向かって問うた。五十鈴が答える。
「最初はボクシングっつー話だったんだけど、ライナスがK-1参戦格闘技は一通りやったことがあるって言って、それを聞いた鍋島先輩がボクシングだけだと自分が有利過ぎるからハンデだー、って言いだして」
「ふむ、自分から決闘を言い出しておいて、でも相手にハンデを与えるなんて、鍋島先輩にはどういう意図があるのでしょうね? どう思います、五十鈴?」
「いや、麗奈さぁ、お前そういうところあるよな。いいか、男と男の戦いだぞ? お前が思うような変な策略なんて何もねえっつーの。ボクシングじゃなければ勝てました~なんてライナスに言わせないようにする以外になんもねえだろそんなんよ」
「そうなんでしょうか……。ガーラン様と丁さんはどう思います?」
「知らん! 馬鹿が何を画策しようとオレサマの溢れる知性とパワーで粉砕するのみよ!!」
「戦うのはお前ではなくライナスだろう……。俺も五十鈴と同意見だな」
麗奈たちがそうやって雑談しているうちに、小漆間によるルールの再確認が終わった。
「―――以上! この規則を準拠することを双方誓うか!?」
「誓おう」
「誓います」
≪なんかここだけ見ると結婚式みたいだなこれ≫
「ならばよし! この戦い、この小漆間破骸が見届け人を務めさせていただく!」
≪この場面で急にハゲって言葉が飛び出てくると笑いそうになるからやめてくんないかな≫
「両者、構えい!!」
ライナスが、鍋島が、羽織っていたジャージを脱ぎ捨てリングの外へと放る。互いに構えた。ともにオーソドックスな、左拳を前にしたスタイルだ。
「もはや待った無し! 見合って見合って! はっけよい!!」
≪相撲かよ。いやでも膝とか尻餅付いたらダメって考えると相撲もボクシングといえるのでは? 俺は訝しんだ≫
麗奈はマリアの言葉を無視した。
そして、
「―――のこった!!!」
ライナス・ロンゴミニアドと鍋島喜一。二人の戦いが始まった。




