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UFOの日の真実 その1

地球を舞台としたロボットものにおいてUFO、つまり宇宙人の存在は切っても切れないものだと思います。

というわけで、今回はUFOの話です。


ちなみにまだプロットがふわふわしてるので途中途中で止まる可能性が高いです。UFOを呼び出すときの期待感くらいの気持ちでお待ちください。


  良心という神聖な火花を、胸の中で消さないように努めなさい。

         ―――ジョージ・ワシントン(1732 - 1799)


   ●


 六月二十四日は、全世界的に、UFOの日だ。


 一九四七年六月二十四日、場所はアメリカ合衆国ワシントン州。アメリカ人ケネス・アーノルドがレーニア山付近高度約三千メートル上空を、自家用飛行機で飛行していた時のことである。


 午後二時二十九分、ケネスは見た。レーニア山上空、北から南へ向けて高速で飛行する、九個の奇妙な物体を。それらはソーサーのような形状をしており、ジェットエンジンの音も聞こえず、飛行機ともドール・マキナとも思えぬジグザグ飛行を披露し、時おりオレンジ色の光をまといながら、やはり飛行機ともドール・マキナとも思えぬ速度で移動していたという。


 公的記録において、世界で初めてUFOが観測された日である。


 これこそが、かの有名なケネス・アーノルド事件。そして、この事件をもって、六月二十四日は、全世界的に、UFOの日となったのだ。


   ●


 よく晴れた日曜日のことだった。六月四日、天気予報によれば次の週末からは天気が崩れ、本格的な梅雨に入ると予測されていた。


 雨の日に買い物に出ることを(いと)った獅子王麗奈は、そうなる前に本屋に行こうと思った。近隣で最も大きな書店である森林堂は、約二ヶ月前に戦闘に巻き込まれて、イギリス王子の悲鳴と共に、炎の中へと消えていった。その森林堂がつい先日、無事に営業を再開したらしいのだ。良い機会だからと麗奈は行き先を森林堂に決めた。


 午前中は鷹谷(たかや)五十鈴(いすず)との鍛錬を行う。鍛錬を終えると昼食を取り、それから護衛兼秘書の在須(あれす)有栖(ありす)と共に電車で移動を始めた。


 ロシアからの留学生であるエレオノーラ・ペトロフなどは、花山院学園の生徒が学園の外、街中に遊びに行ったりすれば戦闘なり誘拐なり何かの犯罪に巻き込まれるに違いないと考えている節があるが、何の問題も起きることなく、二人は無事に森林堂に到着した。そして、



「「あ」」



 そこでつい数時間前まで一緒にいた五十鈴と、再び顔を見合わせていた。日本中のどこにでもいそうな、平凡的平均的な顔付きの、中肉中背の少年だ。なんてことはない。五十鈴も麗奈と全く同じ理由で、森林堂に来ていたのだ。


「こうなるんだったら最初から一緒に行けばよかったね、麗奈ちゃん、五十鈴ちゃん」


 有栖が言う。背は低く、ショートボブの黒髪をした、可愛らしい容姿の少女だ。


「いえいえ」


「なんでいちいち麗奈にどこ行くか言わなきゃなんねーんだよ」


 軽口を叩きながら一緒に店内を回る。お互いの目的の本を買い終え、自動ドアの動作音を鳴らしながら外に出た。出入り口の周りには新装開店のスタンド花がいくつも並んでおり、その中には【レムナント財閥総帥 獅子王麗奈】と書かれたものも混ざっている。


「ねーねー、二人はお腹空いてない? 軽く何か食べてく?」


「わたくしは構いませんわ」


「ああ、俺もいいぜ」


「とは言ったもーのーのー、ボクたち、この辺りはあんまり詳しくないんだよねー。五十鈴ちゃんは何処かいいお店知ってる?」


「あー……、知り合いがやってるコトなら」


「どんなお店?」


「セーフティAプラス」


「よし、じゃあそこにしよう! 麗奈ちゃんもそれでいいよね」


 有栖の言葉に麗奈は頷き、


≪待って待って待って。なんか今変な言葉聞こえなかった? え、なんて? セーフティ???≫


 麗奈の頭の中に、男の声が響いた。麗奈に取り憑いた先祖の霊、自称この世界の創造主にして異世界転生者、マリアの声だ。


 セーフティ、というのは店の安全面のグレードのことだ。Aプラスともなれば、大物政治家が護衛無しでも安心して利用できるレベルである。


 五十鈴におおよその場所を聞き、徒歩で移動を開始した。有栖が数歩先を進み、その後ろを麗奈と五十鈴が並んで歩く。


 道行く人々の多くが、まず麗奈の美貌に目を奪われる。金髪碧眼の美女が豪奢な和服を身にまとっているのだ。視線を集めるのは自然なことだった。


 そして麗奈に注目した後、遅れて隣の五十鈴を認識する。そうすると、誰も彼もが首を傾げることになる。なんであんな不釣り合いとしか思えない男が、金髪碧眼和服美女の隣を歩いているんだろう、と。


 麗奈は自分が注目を集めることを自覚しているし、同時に慣れてもいる。けれども今日の視線に限っては、なぜだかいつもに比べて妙に不快に感じられた。どうしてかと疑問を抱いていると、先を行く有栖が足を止めていて後ろから追い付く。


「有栖? どうかしましたの?」


「あ、うん。ねぇ五十鈴ちゃん。あれって詩虞(シーユー)ちゃんじゃない?」


 そう言って有栖が指差すのは、首の後ろ側で三つ編みの黒髪を伸ばした、赤い拳法着に黒のカンフーパンツを着ている男だ。腕に何かが入ったコンビニのビニール袋を抱えて、警戒するように周囲を見回している。


「へ? あ、本当だ。何やってんだあいつ。しばらく学園にも来てねえのに」


 中国の空軍学校からの留学生、(ディン)詩虞(シーユー)特務大尉。麗奈が部長を(ついでに五十鈴が副部長を)務める留学生との文化摩擦を解決するための部活動『異文化部』の部員であり、麗奈を中心にドール・マキナ先進国の留学生を主戦力として構成された特殊部隊『ラプソディ・ガーディアンズ』の隊員でもある。


「おーい、詩虞(シーユー)


「五十鈴! それに獅子王たちも……!」


 声で麗奈たちに気付いた詩虞(シーユー)が、大股で麗奈たちに近付いた。そして五十鈴へと顔を寄せて、声量を落としつつも、はっきりとした声で、こう言った。



「頼む、()()()()()()()!」



 麗奈は思う。もしかしたら、エレオノーラの主張は案外的を得ているのかもしれない、と。


   ●


 五十鈴が一行を案内したのは、アパートの一室だった。机や椅子、冷蔵庫など、今すぐにでも住めるような家具が一通り用意されている。しかしながら使用されている痕跡は全くない。けれども掃除はされているようで、埃が積もっていないことが、逆に不気味な雰囲気を醸し出していた。


「ここは……?」


「セーフハウス」


 なんてことないように五十鈴が言う。が、詩虞(シーユー)の頭の中は疑問符で一杯だった。


「セ、セーフハウス……? なんだってそんなものを用意している……?」


「いや、街によく遊びに行く生徒なら大体持ってると思うぜ? 遊び過ぎて終電逃したりとかするからさ。つっても俺も、ここのを使うのは初めてなんだけど」


「五十鈴ちゃんの初めてを、麗奈ちゃんと一緒に使ったんだね……!」


「そこ、変な言い方をするんじゃありません。どうりで鍵を開ける時、妙に手間取っておりましたのね」


「もしかして鍵持ってくるの忘れたかと思って、ちょっと焦ったわ」


「そもそもの話、それはホテルでは駄目なのか?」


「あー、ホテルはセキュリティはともかくセーフティがな。例えばだけど、普通のホテルは窓ガラスが防弾ガラスじゃないし、間取りも簡単に分かるから壁越しに狙うことも出来るし」


「お前たちは何を仮想敵にしているんだ……?」


「あとこれが一番の理由なんだけど」


「まだあるのか!?」


「未成年だけだと、ホテルは借りるのがすげー面倒くさい」


「……なるほど。確かにそれはそうだな」


「ほら、玄関に突っ立ってないで上がれよ。詩虞(シーユー)、荷物くれ」


「あ、ああ」


 詩虞(シーユー)が五十鈴にコンビニ袋を渡した。もともと詩虞が持っていたものではない。麗奈たちと合流した後、五十鈴がカモフラージュに必要だと言い出して、途中でコンビニに寄って買ってきたお菓子やジュースだ。


 五十鈴は袋からロックアイスと1.5リットルのコーラのペットボトルを取り出すと、棚からグラスを用意し、氷を入れてコーラを注いでいく。


 その様子を見ながら、麗奈は自身の失策を悟った。麗奈は、炭酸が飲めないのだ。しかもその弱点を五十鈴には知られないようにしていたのに。


(よもやこのような形で発覚させられるとは……!)


 こんなことなら自分もコンビニに入ればよかったと、麗奈は今更ながらにそう思う。五十鈴と詩虞(シーユー)がコンビニで買い物をしている間、麗奈と有栖は何者かに追われているらしい詩虞のために、店の外で周りを見張っていたのだ。


≪でもお前、この間ペットボトルのミルクティー飲んで、あまりの不味さに噴き出してたじゃねえか≫


 麗奈はマリアの言葉を無視した。全ては過去。終わったことである。ちょっとあの味を思い出して気持ち悪くなってきた。なお件のミルクティーは五十鈴に処理さ(全部飲ま)せた。


≪スタッフが美味しく頂きましたってか≫


 そんなことを考えていると、五十鈴は最後のグラスにはコーラを注がず、代わりに袋の中からミネラルウォーターの500mlペットボトルを取り出した。


「……? 五十鈴、どうして最後のはお水なんですの?」


「え? いや、だってお前、炭酸飲めねえだろ?」



 ―――世界が、停止した。



 否、それは錯覚だ。麗奈がマリアに憑り憑かれた際に獲得した超高速での思考能力、マリアによってパンテーラと名付けられたその異能(ちから)が発動したのだ。世界が停止したわけではない。麗奈の知覚する情報が、著しく遅くなっているだけだ。


≪ってこんなことでチート能力暴走させてんじゃねぇー!? メンタル激弱か!?≫


 パンテーラが解け、遅延知覚が元の速度に戻った。


「し、知っておりましたの……!? いつから!?」


「いや逆に聞くけどさ、なんで知られてないって思ってたの?」


 思わず膝を着いていた。がっくりと項垂れる。ワックスがよく効いたフローリングの床が、愕然とした麗奈の表情を映していた。


森林堂が焼失した話書いたのが半年くらい前で、焼失したこと普通に忘れてましたね……ってもう半年も前? 嘘でしょ……


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