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馬鹿が裸でやってくる Cパート&次回予告


 海上に浮かぶルスタンハイツ・ヴァイスエルフの甲板から、サソリの形状に戻ったローズ・スティンガーが海へと潜っていった。10メートルを超える巨大な金属のサソリであるが、驚くほど静かだ。


 麗奈はそれを見送った。バニーガールの格好で。頭のウサミミカチューシャだけが欠けた姿で。曾祖父の形見、市松模様の織物を畳んだものを抱きながら。


「おーい、麗奈ー、お疲れー」


 先に着艦し、艦内に収容された燕撃(イェンジー)から降りていた五十鈴が、麗奈を迎えに甲板へと出てきていた。麗奈の元へ、大きく手を振りながら近付き、


「って何だお前その恰好!?」


 途中でビビッて立ち止まった。それを麗奈は、死んだ魚のような目で、油を差すのを怠った関節部のようなぎこちない動きで首を回し、



「―――脱ぎなさい」



「……は?」


 直後、織物を放り出して五十鈴へと飛び掛かった!


「脱げっつってんですのよ! その上着を寄越しなさいまし!!」


「うおあああっ!? おい、止めろ馬鹿麗奈! 脱ぐ脱ぐ! 脱ぐからアヒィン! 乳首はらめぇ!! きゃ~~~犯される~~~!」


「その口を閉じなさいな! お望み通りお尻の穴に腕突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやりますわ!」


≪しれっとフィストファック改変やめろ。というか悪役令嬢なんだからそんな言葉使いするんじゃありません≫


「お~い、麗奈ちゃ~ん!」


 五十鈴に遅れて有栖が、その後ろには着物姿のままの六華やエレオノーラ、エーリカにハリシャが甲板に出てきた。


「だらっしゃ~~~!」


 麗奈が五十鈴の革ジャンを強奪した。即座に羽織る。


「全く……どうしてバニーガールの格好で戦わなければなりませんの」


「そりゃこっちの台詞だよ……!」


 床に転がる五十鈴が、身を起こしながらそう言った。


「ていうかさ、アタシらまで一緒に来た意味あった?」


「ペトロフお前さ、せっかく綺麗な恰好してんだからもうちょっと表情柔らかく」


「は? 何口説いてんの殺すわよ」

「は? 何口説いておりますの殺しますわよ」


「クッソ仲いいなお前ら!?」


「まぁまぁ、五十鈴ちゃん。ほら麗奈ちゃん、ちょっと屈んで? はいこれ、忘れ物」


 小さな体で織物を抱きかかえるように保持した有栖が麗奈の元へと近付く。麗奈は言われた通りに身を屈め、有栖と同じくらいの高さになる。


 スッ、と、有栖が麗奈の頭に、ウサミミカチューシャを装着した。


「よし! これで完成!!」


「Oh! Perfect!」


「ってわたくしの服を持ってきてくれたわけではございませんの!?」


「あー、一応だけど、中等部の制服なら持ってきてるわよ」


 エレオノーラや六華に卑猥だと評された一品である。


「ごめん獅子王さん。高等部の制服は探す時間がなくって」


「……いえ、ありがとうございます。背に腹は代えられませんわ」


≪中等部制服の麗奈……こっちは周年限定排出ガチャだな。ちなみにバニーガール麗奈は期間限定。あれ、バニーガールの季節ってなんだ? Heyドライコイン、バニーガールの季語教えて?≫


感想(レビュー):検索するのも馬鹿らしいので無視してよろしいですか?≫


「あ、みなさんこちらにいたんですね」


 艦内に繋がる扉から、ライナスが姿を現した。


「せっかくキューシューまで来たので、どこかに遊びに行かないかという話になっておりまして」


「この状況で!? 本気ですの!?」


「本気っぽいんだよなぁ」


 未だに地面に座ったままの五十鈴が、上着のすそから見える麗奈の尻をチラ見しながら言った。


「ちなみに私は水族館に行ってみたいですね。なんでしたっけ、たらんちゅら水族館?」


「とんでもねえ水族館が出てきたな」


「日本にはクモの名前を付けた水族館があるのね……。まぁ、あの化けサソリを守護神として崇めてるんだから、それくらいのはあってもおかしくはないけど」


「……いえ、あの、おそらくですがライナス様がおっしゃっているのは、沖縄の(ちゅ)(うみ)水族館のことではありませんの?」


「そう、それです! 以前読んだラノベでそこをモデルにした水族館が出てきまして、一度行ってみたいと思っていたんですよね。ガルの前では大きな声で言えませんが、これが聖地巡礼……!」


「どうすんの? 行くの? ていうかオキナワってどこ?」


「オキナワ、ここからサウスウェストにグーンと遠くの群島(アカペラゴ)デス」


「知っているのアンタ!? クソッ、よりにもよってこいつに知識で負けるなんて屈辱だわ……!」


「沖縄には昔から日本最大級の日米同盟軍基地がありますから、エーリカが知っていても何もおかしくはありませんわ」


「そんなことは関係ないのよ……!」


「日米基地ならヴァイスエルフの逗留も大丈夫でしょうし、ここから距離もあります。旅行先にはベスト。そうは思いませんか?」


 キラキラと、絶世の美男子がそう言って微笑んだ。モブ女たちなら誰しもがライナスの意見に賛同すること間違いなしの笑顔。だが、この場にいる女性陣たちはライナスの美貌が効かない者たちばかりだった。


≪よし行こう麗奈。ライナスきゅんの喜びは全てに優先する≫


 麗奈はライナスの美貌が効いて知能が下がったマリアの言葉を無視した。


「だいたいですね、ライナス様が沖縄の地に降り立って御覧なさい。即座に観光どころではなくなりますわよ」


「あっ……」


「ゴールデンウィークだから普段より観光客も多いだろうしな」


「むぅ……」


「諦めな顔だけ男。だいたいアタシらはレポートやら勉強やらやることあんのよ。さっさとコイツんちに帰らせな」


「くっ、なんたる無念……!」


 ライナスが膝を付いた。直後、後ろの扉が勢いよく開く。巨漢が上半身だけを覗かせる。


「おっしゃ手前ら! ラーメン食いに行こうぜ!」


「いいですねライ! お供しますよ!」


「帰らせろっつってんのよ!! だいたいこんな格好でラーメンなんて食いに行けるか!!」



 本日は西暦二千年五月三日水曜日。現在時刻は午後零時二十四分三十二秒。ゴールデンウィークは、まだ始まったばかりだ。


 この後別件で沖縄に行ったり北海道でラーメンを食ったり四国でうどんを啜ったりもしたのだが、それはまた、別の話である。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


≪次回予告!!≫


≪ラプソディ・ガーディアンズに来た、新たな依頼≫

(街中、建物の影で何かを抱えて走る詩虞(シーユー)


≪それは、太平洋で最近目撃される幽霊戦闘機(フー・ファイター)への調査だった≫

(フローリングの上に広げたいくつもの新聞)


≪オレンジ色の軌光を追い、青き狩人が空を駆ける≫

(紫色のボクシンググローブを装着し、ファイティングポーズを取るライナス)


≪そして狩人を追い抜いたのは、オレンジ色の光を纏う別の黒鳥だった≫

(リプライシング・アーマー・システムで青い装甲を取り付けられていくイクス・ローヴェ)


≪次回、ドール・マキナ・ラプソディ、第六話。『UFOの日の真実』≫


≪次回も、悪因には悪果あれかし!!≫


≪お、俺は悪くねえぞ。こうなるなんて思ってなかったんだ! 俺は悪くねえ! 俺は悪くねえ! 俺は、俺は悪くねぇー!!≫


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