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馬鹿が裸でやってくる その10


『なんだ!? 何があった麗奈!』


「これは……地平線の向こうから、攻撃されていますわ!」


 ローズ・スティンガーが海へと進む。宙に浮き、高速で左右に移動しながら幾度となく剣を振るって砲弾を切り払った。その度に海や人のいない砂浜へと突き刺さり、水柱や砂柱が立ち上がる。


≪ほれみろ()()()だ! お前らここしばらく戦ってなかったからな! つまりこのバスジャックはお前らをおびき寄せるための餌って訳よ≫


(わたくしたちに責任があるような意味不明なことを言うのはやめていただけます!?)


 深刻な雰囲気から一転、どこか嬉しそうなマリアに麗奈がキレ気味に反論する。


 砲弾を切り払うこと自体は簡単だ。麗奈が有する高速思考能力(パンテーラ)によって、飛んでくる砲弾が非常に遅く見えるからだ。


 後方、何が起きているのかをようやく理解したマスコミたちが騒ぎ始めた。自分たちを守れと警官に要請する者もいれば、離れた場所にある自分の車に戻ろうとして、途中の道路に着弾したのを見て慌てて戻ってくる者もいる。


(厄介ですわね……!)


 ローズ・スティンガー目掛けて砲弾が飛んできているわけではないのだ。ここいら一帯に、おおよその検討を付けて砲撃しているようだった。大きく外れた場所に着弾する場合も多い。


 大量の砲弾が飛んでくるが、よくよく見ると三つで一セットになっているのが分かる。恐らくは三連装砲で、複数の機体が各々勝手なタイミングで砲撃しているようだった。


『離れると守り切れませんわよ! 一ヶ所に集まりなさい!!』


 麗奈が外部出力音声で注意したことで、散りかけていた人々がバスの残骸を中心に集まってきた。無意識がそうさせるのか、バスだったものをせめてもの盾にしようとする者たちの姿が見える。服装からしてマスコミだ。無駄なことを、と麗奈は思う。砲弾のサイズを見てもいないのか。バスの薄っぺらい鉄板程度では、何の防護効果も発揮できないのは自明の理なのに。


『これは……まさか駆逐機身(チィクゥチィシェン)による砲撃か!?』


『ちぃく……何だっけ聞いたことはある気がするけど正直分からん! NATO軍で付けたコードネームで言ってくれ!』


 五十鈴と詩虞(シーユー)の会話が外部出力されている。詩虞は五十鈴の言葉に少しばかり躊躇したものの、こう言った。


全裸男(フルフロンタルマン)、だ……!』


全裸男(フルフロンタルマン)だって!?』

全裸男(フルフロンタルマン)ですって!?』

全裸男(フルフロンタルマン)だとぉ!? ……で、全裸男(フルフロンタルマン)って何?≫



 説明しよう!


 全裸男(フルフロンタルマン)。それは第一次世界大戦の後に開発された、中国初の完全自国生産ドール・マキナだ。


 今でこそ中国は戦闘機、戦車、潜水艦の現代新型三大兵器との変形機構を有するドール・マキナ、機体カテゴリー・超機臣(チョウキジン)の研究・開発において、世界で最も進んでいる国家である。だがそれはここ二、三十年の話だ。第二次世界大戦や1962年に発生したインドとの中印国境紛争においては、中国はまだドール・マキナ後進国の一つとして数えられていたのだ。


 そんなドール・マキナ後進国時代の中国が生み出したのが駆逐機身(チィクゥチィシェン)、NATOコードネーム・全裸男(フルフロンタルマン)である。


 ドール・マキナとしては非常に珍しい水上専用機。なんと足に当たる部分が船になっている。


 目立つ特徴として、頭部が無い。胴体側の肩と本来頭部があるべき部位に、代わりに装備しているのが、巨大な三連装砲である。全長はおよそ24メートル。ドール・マキナとしてはかなりの大型だが、それはこの主砲を搭載するために大型化したことが理由だ。


 多くのドールマキナが胴体に動力やコックピットを内蔵しているのに対し、全裸男(フルフロンタルマン)は胴体内部を主砲の弾薬庫として使用している。そのため動力は船型足部のプロペラと直結できるように脚部に搭載されているのも特徴の一つだ。


 そして全裸男(フルフロンタルマン)と呼ばれる最大の理由こそが、コックピットが存在する場所にあった。


 なんと、股間である。股の下、ぶら下がるように球状のコックピットが外付けされている。加えて股間前方部分には対空防御用のバルカン砲が搭載されている。



 すなわち、男性が全裸で股間をいきり立たせたような卑猥なシルエットをしているのが、全裸男(フルフロンタルマン)である。



≪この世界の中国軍は馬鹿なの?≫


(ところが、海での戦争の在り方を根底から変えた傑作機なんですのよねぇ……)


 全裸男(フルフロンタルマン)が誕生する以前、海上での戦争のやり方といえば、軍艦による艦砲射撃とドール・マキナ同士での空中戦が主だった。


 これに対し、中国は簡易な構造にすることで非常に安価に量産できる全裸男(フルフロンタルマン)を開発、数十機を並べて大量砲撃を行うという方法を編み出したのである。


 当時一般的なドール・マキナの射撃兵装では到底届かない距離から、戦艦に対しては面制圧によって。全裸男(フルフロンタルマン)によって、数多くのドール・マキナや軍艦が一方的に撃墜・轟沈されたのだ。


 このため、全裸男(フルフロンタルマン)はこう呼ばれることもある。―――世界最小の戦艦、と。


 もっともそう呼ぶのは当の中国人くらいのもので、他国の当時を生きた軍人たちの大部分は当然ながら蛇蝎の如く嫌っており、頭部を持たないことから脳無し(ブレインレス)、視認すら困難な超長距離から一方的に砲撃する戦い方から腰抜け(Coward)、多くの軍艦を破壊したことから強艦魔、といった具合に、侮辱的なあだ名をいくつも付けられていたりする。


 そして様々な紆余曲折を経て、対全裸男(フルフロンタルマン)として生み出された戦い方が、全裸男(フルフロンタルマン)よりも安価に生産でき、全裸男(フルフロンタルマン)よりも習熟が容易な戦闘機を、全裸男(フルフロンタルマン)の砲撃が届かない場所に航空母艦を待機させて、数の暴力で爆撃・雷撃するという方法であった。


 そう、全裸男(フルフロンタルマン)によって、ドール・マキナではなく航空機を搭載した航空母艦運用理論が誕生したのである。これ以降、海での戦いはドール・マキナ(ドール・)同士の空中戦(ファイト)や大艦巨砲主義から、航空機主兵論へと移っていったのだ。


 戦術論に間違いなく多大な影響を与えた傑作機、それが全裸男(フルフロンタルマン)である。



『ってお前の国の機体じゃん!?』


『馬鹿を言うな! 我が国では生産も運用もとっくの昔に終わっている! アフリカや南アメリカではデッドコピー機が大量生産されていると聞く。そちらから持ってきた機体に違いない!』


『そんなことはどうだっていいんですわよ~~~!』


 ローズ・スティンガーが残像を残しながら数十発の砲弾を全て迎撃した。


『どうにかならねえのか!? ちょっと飛んで行って爆撃したりとかよ!』


『あいにくだが今の燕撃(イェンジー)は完全非武装だ。ビーム粒子生成コア(ドラゴンスフィア)まで外したからビームバルカンすら使えない』


『マジかよ!? なんでそんなことに……』


『民間人を乗せる必要があったからな』


『って俺のせいかー!!!』


『う~ん、これ、持久戦ですわねぇ……。生身の皆様には相手が弾切れするまで待ってもらうしかないのではありませんか?』


 ふざけるなー! とか、とっとと切り殺してこい! なんて声が下々から聞こえる。が、


『そうしてもよろしいのですけれど、もしそちらに直撃コースで飛んできた場合、あなた方はそろって仲良く御陀仏ですわよ?』


≪ヤダヤダ、生殺与奪の権を誰が握っているのか理解できない馬鹿な連中って≫


 実際、手詰まりを感じていた。すでにローズ・スティンガーが慣れてきて、麗奈がいちいち指示しなくとも自身の判断で迎撃できるようにまでなってきている。


『だったらオレサマに任せなぁ!!!』


 その時、この場にいない者の声が燕撃(イェンジー)から響いた。ガーランだ。ラプソディ・ガーディアンズ用の通信をタイムラグ無しに麗奈に聞かせるため、詩虞(シーユー)が外部に出力するように設定していたのだ。


馬鹿が裸でやってきましたわ~~~!(サブタイトル回収)

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