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馬鹿が裸でやってくる その5


「「やきゅ~う~すぅるならぁ~こういう具合にしなしゃんせ♪」」


 場所は再び学生寮、五十鈴の部屋へと戻る。サングラスは装着しているがパンツ一枚になったガーランと、服装一枚脱いでいない五十鈴が音頭を取っており、


「「アウト! セーフ! よよいのよい!!」」


 五十鈴がグーを、ガーランがチョキを出し、


「ちっきしょぉーーー!!!」


 負けたガーランが一息で最後の一枚を脱いだ。つるっつるだった。生えてないのではなくヨーロッパの風俗がら剃っているのだ。


 ガーランの脱ぎっぷりに周りから大爆笑が沸き上がる。誰も彼もが脱いでいた。靴下一つ残さぬ全裸である。ちゃんと服を着ているのは五十鈴と春光だけだ。


 なんでこんなことになったのかというと、話の流れで五十鈴が滅茶苦茶にじゃんけんが強い、というのが話題に上がったからだった。じゃあちょっと確かめてみようぜということになり、普通にやるだけじゃつまんねえよなということになり、折角だから野球拳しようぜということになった。


 そこいら中に衣服がまき散らされていた。五十鈴が脱いでいないのは全戦全勝したからで、春光が脱いでいないのは五十鈴がどれだけじゃんけんが強いかを知っているから最初から挑まなかったからだ。


「ごばぁん! がらぁん、りんとぶるむ、裸踊りやるぜぇ~~~!!!」


 両手に持ちたるは空になったカップ焼きそばの容器である。ぶっちゃけガーランの手の方がまだ大きい。それを交互に股間に当てるのだが、やはり股間のモノの方が大きいので全く隠し通せていない。再び大爆笑が起こる。


 そして、ノックも無しにドアが開け放たれた。そこにいたのは五十鈴たちの学級委員長にして学生寮高等部一年代表、近藤葵である。


「うるっさい! ちょっと鷹谷(たかや)君!? 周りの部屋から苦情が―――」


 そして近藤はズカズカと部屋に踏み込み宴会現場に足を踏み入れ、


「あ」


 という言葉とともにガーランがカップ焼きそばの空容器を落とした。


 近藤は見た。


 ちゃんと服を着た五十鈴を。


 ちゃんと服を着た春光を。


 全裸のガーランを。


 全裸のライナスを。


 全裸の詩虞(シーユー)を。


 全裸のルドラとアージュンを。


 そして、


「っきゃあああああああ!!!?」


 学生寮の一室に、近藤の悲鳴が響き渡った。


   ●


「きゃあああああ~~~♡♡♡♡」


 獅子王家の客室にて、エレオノーラが嬉しい悲鳴を上げた。用意された浴衣を着ている。どこからともなく取り出した一眼レフカメラでバッシャバッシャと被写体を撮影している。被写体が驚いてはいけないからフラッシュは炊いていない。


 猫。


 白猫と、黒猫だった。二匹は布団の上で仲良くじゃれ合っている。


 白猫は獅子王家の愛猫(あいびょう)のペコだ。


 だが、もう一匹の黒猫は、普通の猫ではなかった。


 毛が無い。けれどもハゲ猫というわけでもない。その体表は天井からの灯りを、猫を上から覗き込むエレオノーラの顔を、体表のラインに沿って歪ませて反射していた。


 金属製の肉体を持つ特殊個体。Metal Absorb Notably Trait Identify。その頭文字を取ってマンティと呼ばれるもの。その一匹だった。けれども世界で最も有名なマンティであるローズ・スティンガーが10メートルを超える大サソリなのと違い、この黒猫は普通の大きさだ。


「エレンちゃん、猫好きなの?」


「猫が嫌いな人間なんて人間じゃないわ!!」


 そこまで言うか、と六華は思う。エレオノーラはこれまで見たこともないほどに頬を緩ませている。この姿を普通の学校の男子生徒が見てしまえば、愛の告白のために連日呼び出されるだろうことは想像に難くない。


「どしたのコレ!? ここで飼ってるの!?」


「こちらの白猫、ペコはそうですわ。有栖、黒猫の方はどうしたんですの?」


「みんながお風呂入ってる間に、米軍の空母から届けられたんだって」


「イエス! South Islandで飼ってるラキです! 100年くらい生きてマス!」


 ちゃんと浴衣を着たエーリカが、元気よく手を挙げて話を引き継いだ。ちなみにだがこの浴衣は、規格外の肉体を持つ麗奈用の特注品である。体格が近いこともあって、エーリカにはこちらが用意されていた。そのおかげで露出量は一般的な範囲に収まっている。


「へーすっごい長生き……ん? 100年!? 猫ってそんなに生きるっけ!? なんだっけ、猫又?」


「M.A.N.T.I.だと、若い方らしいデース」


 エーリカの言葉に麗奈は頷く。


「マンティは長寿、というより基本的に不老不死ではないかと言われていますわ。無論、外部からの攻撃を受ければそうはいかないでしょうけれど。例えばですが、ローズ・スティンガーは二億年以上生きているのではないか、とも言われておりますわね」


「はー、アンタそんなちっこいのにアタシらよりおじいちゃんかー。……おじいちゃんか?」


 疑問に思ったエレオノーラは、ラキの後ろ足に指をひっかけて股を開き、


「おばあちゃんだったわ」


「何確認しておりますの……。だいたいマンティは生殖しませんから、雌雄の区別は無いと言われておりますわよ」


「ほーん」


 生返事のエレオノーラは二匹の猫をつついて遊んでいる。マンティ、金属生命体とも言われるラキは、触ってみると普通の猫のように温かいし、柔らかい。本当に金属で出来ているのかは疑わしいが、指先に毛皮の感触は全く伝わってこない。


 ふと気になって、エレオノーラは二匹の手を左右の指ですくい、それぞれの肉球を親指で同時にぷにぷにしだした。


 ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。ぷにぷに。


 本当に金属なのか疑わしい程に肉球は柔らかかった。けれども爪の先で肉球を叩くと、硬質なものを叩いたような音と感触がするのだから脳が混乱しそうになる。


 銀河。


 猫。


 宇宙の全てが……、うん わかって…… きたぞ……


 宇宙とは


 マンティとは


 しかしてエレオノーラが宇宙の真理の扉に手を掛けるその直前に、


「Oh! エレン、ワタシとも遊んでくだサーイ!!」


 と、飛びついてきたエーリカによって現実に引き戻された。勢いに耐え切れずエレオノーラが姿勢を崩す。二匹の猫は押しつぶされまいとペコは麗奈の元へと駆け寄り、ラキは器用にエーリカの体に飛び乗った。



 夜が更けていく。


 麗奈は六華に勉強を教え、有栖とエーリカは二匹の猫とじゃれ合っている。お風呂でリラックスし、加えて腹も膨れたエレオノーラはすっかり船を漕いでいた。姿勢が崩れたところでハリシャに支えられ、そこから流れるような動きで膝枕をされていた。


 男子たちは二人を除いてパンイチ姿で全員正座させられて、顔を真っ赤にした学級委員長の近藤葵に説教を食らっていた。


 夜が更けていく。



 こうして、彼ら彼女ら異文化部の、ゴールデンウィークが始まった。



ローズ・スティンガー以外のマンティを出したかったという話。

10メートルを超える大サソリもいれば普通の猫と大差ないものもいます。だいたい長く生きているほどデカい。

ラキは1000年くらいでライオン並みのサイズになります。

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