獅子王麗奈の憂鬱 その5
「高校入試の時の話だけどね、面接があったんだよね」
「うん?」
放課後の教室で、六華が五十鈴に話しかけた。
「定員は200人で、倍率が1.8倍だったから、えーと、360人もいたはずでね」
「ああ」
「360人の面接を一日で終わらせるのって、先生たち、頑張ったんだなぁって……」
「……面接って、一人何分だった?」
「えーっと、5分だったかな」
「となると1時間辺り12人、いや、ロスタイムもあるだろうから10人だとして、校長と教頭で分けたとしても……18時間、か」
「三人足したら? ほら、三学年分の学年主任」
「じゃあ5人で360人だから……72人、7時間ちょい。……なるほど、確かに重労働だな。これ見ると、俺にもそうだと確信できる」
二人の目の前には、疲れた顔で机の上にぐったりと突っ伏した麗奈の姿があった。その左右には、同じような状態の有栖と春光もいる。
名門花山院学園の生徒としては、いささか相応しくないたたずまいだった。とはいえ目を瞑って頂きたい。南アメリカからの留学生12組との顔合わせが、つい先ほど、ようやく終わったところなのだから。それに放課後になってからそれなりの時間が経過しており、最後の面談が終わった今、教室に残っているのはこの5人だけだ。
朝のホームルームの前に20人。その後は休み時間の度に2人から3人。昼休みになると五十鈴は六華に誘われて食堂に、ついでに麗奈たちにパンを買うために席を外した。この時点で、もう留学生の人数が分からなくなっている。
「全部で何人?」
五十鈴がそう言うと、春光が右手を上げ、指を4本立てることで答えた。直後に力なく腕が垂れ下がる。
「40人、か。授業もあったし、そう考えると相当ハイペースだったんじゃね?」
「でも来週はアフリカからも来るんだよね? 何人だったっけ」
六華がそう言うと、春光が両手を上げた。右手は5本、左手は4本。直後に力なく両腕が垂れ下がる。
「……人数っつうか、国の数だよな。一国から二人ずつ来るだけで100人越えだぞ」
麗奈が気だるげに顔を上げた。
「ガーラン様たちみたいに、少数の代表者だけが来ていただければよろしいんですけれど……。せっかくアフリカ統一機構なんてものがありますのに」
「あのモドキどもにンな知恵あるわけねえだろ」
麗奈のぼやきに言葉を返したのは、この場にいないはずの者だった。発信源は教室の出入口だ。
巨体。2メートルを軽く超える、高校生とは思えない巨漢がいた。ドイツの皇子、ガーラン・リントヴルムだ。目には愛用のサングラス。さらにその後ろには、ガーランの親友にしてイギリス王子、ライナス・ロンゴミニアドもいるのだが、巨躯に隠れてほとんど姿が見えていない。
「OAUは共通の外敵……つまりヨーロッパ様に対抗するための組織だからな。設立当初はともかく、今となっちゃ内情はもうガッタガタさ。もう何年もしねえうちに解体するだろ。カスの集まりなんぞに期待するだけ無駄ってもんだ」
「それでレイナさん。彼らとの面談はもう終わりましたか?」
「ええ、一先ずはですが」
「それは良かった。彼らが来る度に席を外していた甲斐がありました」
「ライナス君たちがいると何かあるの?」
六華の疑問に、ガーランはあからさまに呆れた顔になった。サングラスで目元が見えなくても分かる程だ。さらに他に生徒がいないのをいいことに、懐からライターと煙草状薬を取り出して吸い始めた。周辺に煙草らしからぬハーブチックな香りが漂う。映像化したら謎の黒い光による修正間違いなしの本物の煙草などではなく、ガーランの有する特異体質、『妖精の目』の反動による頭痛を緩和するためのものだ。
「歴史の勉強してねえのか? ンなもん、オレサマたちがあいつらのゴシュジンサマだったからに決まってんだろ。シツケのなってねえ駄犬どもの分際でよぉ、一丁前に機嫌悪くなりやがる」
≪ヘイトスピーチ……! えーこれはこのキャラクター個人の思考であり、決してそういうものを許容するものではうんぬんかんぬん≫
≪補足:安心してください、マスター。ガーラン・リントヴルムの感性は、西暦2000年頃の白人種としては一般的な範疇のものです。ですので今すぐその奇行をおやめください。マスターを選択した当機の評価が疑われます≫
「ちなみに私は女生徒たちから逃げ続けていました」
「ああ、うん。聞こえてたよ……。秩序は死んだなって」
今日は休み時間になるたびに、大勢の生徒が廊下を走り回る音がしていたのだ。そのことが六華にはつい気になってしまう。中学三年間の風紀委員活動で染みついた癖だった。
……が、ライナスを追いかける女生徒たちの足音は、廊下を走るなどという言葉では表現できないと六華は思う。そう、あれは何年か前にテレビで見たことがある。
「猛牛の大暴走って感じ」
「ははは」
そう笑うライナスを尻目に、麗奈は首を傾げた。
「それで、何か御用ですの?」
「ライから相談があるそうだ。詳しい内容はオレサマも知らん」
「相談?」
「はい」
ライナスは、まるで演説でもするかのように両の手を広げる。女性100人中95人が一目惚れする呪いのごとき耽美な顔に、物凄く楽しそうな笑みを浮かべる。こうなると100人中95人が1000人中999人にレベルアップするほどの情緒&常識破壊力を発揮してしまうので普段はライナス自ら封印しているのだが、幸運なことに、不思議なことに、この場に残る女生徒たちには魅了の魔貌が効かない面々だった。
≪何々? なんでも言っちゃって。おばちゃん何でも聞いちゃるけんね~~~♡≫
……ただ一人、麗奈に取り憑いたマリアを除いてではあるが。
「部活を作りませんか、レイナさん」
≪で、出たァーッ!!! 2000年代に爆発的流行を起こした謎部活展開だぁーーー!!!≫
(謎部活ってなんですの……?)
≪説明しよう! 謎部活とは≫
(あ、いえ、結構です。本人に直接訊くので)
≪しょぼん≫
「また土日の間に変なモン読みやがったな……」
「拾い食いしたみたいに言わないでくださいよ、ガル。あとで押し付けますね」
「お前の貸すは押し付けるにルビ振られてるんだよなぁ……」
「……それでライナス様。部活って、一体どんな内容を考えておりますの?」
「アホウ、訊かんでいい訊かんで」
「よく聞いてくれました、レイナさん! 今日だけで40名。そして来週には55もの国があるアフリカからも大勢の留学生が来ます」
補足しておくと、西サハラ地域はモロッコに実効支配されている関係で、日本は西サハラを国家として認めていない。だからイギリス人であるライナスとは、認識している国家数に差異があった。
「国が違えば文化が違う。在学生だけでなく、留学生同士でも軋轢が発生することは想像に難くありません。ですので先んじて、そういった問題を相談できる組織を作るべきだと思うのです」
「ライ、お前……案外マトモなことも考えられるじゃねえか!」
「脳の回路が飛びまくっているガルほどじゃあありませんよ。……おや、シュンコウ?」
机の上に身体を預けたままだった春光がむくりと起き上がる。まるでゾンビのようにのろのろズルズルとライナスの前に移動し、がっしりとその両肩を掴み、
「素晴らしい!! 是非ともやりましょう!!!」
血走った瞳で、唾を飛ばさん勢いで同意した。
「なんかやる気あるな春光のやつ……」
「ええ、珍しいですわね。面倒ごとは嫌いと言いながら結局は面倒ごとに巻き込まれてますます面倒ごと嫌いに拍車がかかった春光さんが、自ら面倒ごとに首を突っ込もうとするなんて」
「だからだよ麗奈さん! もし何か問題が起きたら十中八九、いや百パーセント、間違いなく、僕に丸投げされるに決まっているんだ……!」
「説得力籠ってますわねぇ……」
「まぁ実際、初等部中等部とそうだったしな。俺も何度も巻き込まれたし」
「春光ちゃんって責任感も強いから、一回頼まれたら途中で投げ出したりもしないんだよねー」
ちなみに麗奈は巻き込まれたことは無い。レムナント財閥の家系という立場から、下手に介入すると国内産業のパワーバランスにまで影響が出かねないからだ。近年は衰退の一途をたどっているとはいえ、まだその程度の影響力くらいは残っている。
「ていうか春光君、もう丸投げされてない? 獅子王さんに紹介するために事前に全員と会ってたんだよね?」
「そういや師匠、息子に仕事押し付けて自分は酒盛りしてたんか……」
「あー、昨日のは父さんは無関係なんだよ。豊菱先輩経由で来たからさ」
≪なんか久々に聞いたな豊菱の名前。原作だと攻略キャラの一人なんだけどな≫
「オレサマの方にも話は来てねえからな。ま、南アメリカなんてどこもかしこもドール・マキナ後進国。カスみてえな機体を持ってこられたって邪魔なだけだ。その方がいい」
「なんでガーラン君も関係あるの?」
「ラプソディ・ガーディアンズに参加する機体は、基本的にオレサマの御召艦、ヴァイスエルフに搭載することになってんだよ」
「つーことは戦力の増強は無しなのか。……いや、待てよ? ヴァイスエルフに乗せてもらえば参加している機体を見放題!?」
すると五十鈴は揉み手をしながら、
「へへへ、ガーラン殿下……そのヴァイスエルフの観光ツアーの予定はあったりしやせんかね……?」
「あるわけねえだろ馬鹿かお前! 民間人風情がしゃしゃり出るな!」
「そこをなんとか頼むよ~、俺たちの仲だろ~?」
「レイナの金魚のフンだろうが!?」
「この際麗奈のウンコでも構わん! 俺を連れていってくれ!!」
麗奈は後ろから五十鈴の頭頂部と顎を掴み、勢いよく回転させた。五十鈴の首から鈍い音がすると同時、その身体から力が抜けて床に崩れ落ちる。カーペットの敷かれたスロープに沿って、ゆっくりと下へ流れ落ちていった。
五十鈴の身体が教卓にぶつかって止まったのを見て、改めてライナスは麗奈の方へと顔を向け、
「で、どうでしょうレイナさん。実はですね、もう部活の名前も考えてあるんです」
「名前、ですか?」
「はい。数多くの国と関わることになりますからね。やはり世界的に共通したサインを名前に使うべきだと思うのです。ですので国際的な救援信号を冠し、学内国際問題を解決するための団体。名付けて、SOS団―――」
≪やめろ! それはマジでヤバい!!≫
(なにが危ないんですの? 言ってみてくださる?)
≪思考が……読めるのか? まずい……≫
(読めるも何も、随分と前からお互いに筒抜けですわよね……?)
相も変わらずマリアの言葉の意味を麗奈はよく理解できてはいなかったが、いつもふざけ全部で飄々としているマリアから、これほど危機感を抱いた声色を聞くのも初めてだ。とりあえず、やんわりと別の方向へと誘導することにした。
「……それは、逆に分かり辛くありませんの? 何を目的としているのか伝わらないのでは?」
「む、そうですか……。四年くらい経ったらキョンキョンと大流行しそうな気配をそこはかとなく感じる名前だったのですが」
≪怖ーよこいつ……。異世界転生者か? 超えちゃいけないライン考えろよ……≫
≪感想:マスターも人のことを言えないと思いますが……≫
「まぁ、名前については実際に発足する時、改めて相談しましょう」
「ま、好きにしろや。オレサマはパスさせてもらうぜ」
「えっ、ガルは参加してくれないんですか!?」
「忙しいに決まってんだろが。オレサマは天才のガーラン様だぞ? 暇人どもの程度の低い争いなんぞにかかずらわせんじゃねえ」
「むぅ、それは残念ですね。ガルの巨体があれば、広い空き部屋を優先的に部室に回してもらえるんじゃないかという目論見もあったのですが」
「待て」
「どうしましたか、ガル?」
「部室―――っつーことは、好き勝手出来る部屋が手に入るっつーことか?」
「と、思いますけれど。レイナさん、シュンコウ。この学校ではその辺り、どうなんです?」
「まぁ、貰えると思いますわよ。活動内容を考えると運動部ではないでしょうから、部室棟ではなく、どこかの空き教室になるのではないかと」
「旧校舎だと教室も余りまくってるからね。囲碁部とか将棋部とか、教室を丸々一部屋使わせてもらってるらしいよ」
「何してやがるマヌケ共! 部活を作りに行くぞ! オイこらそこのレイナのフン、いつまで伸びてやがる!!」
「その品のない呼び方を使うのはやめてくださる?」
「また見事な手のひら返しですね、ガル」
「あたぼうよ。ヤニ吸うのにあのクソ長ぇ階段を毎回昇り降りするのが面倒でかなわん。バッティングもあるしな」
「ヤニ?」
「階段?」
「バッティング?」
麗奈と有栖と六華が首を傾げた。
「薬! その薬の事ですよねガーラン殿下! 事情を知らないと煙草を吸ってるようにしか見えないから隠れて吸える場所が必要ってことですよね!」
「おうよ、そういうこった」
春光の言葉に麗奈と有栖は納得したが、六華だけが若干疑わしい目でガーランと春光を見ていた。三年も風紀委員活動をしていたのだ。隠れて煙草を楽しむ不良を見つけたことは一度や二度ではない。初めて六華がガーランの合法ハーブを目撃した瞬間には案の定、未成年者の喫煙は駄目だと突っかかっていった。その時には煙草などではなくドイツで使われている煙草によく似た薬であると説明を受けて納得したのだが、長年の勘で何か引っかかる部分があったらしい。
「で、どうすりゃ作れるんだ」
「そうですわね、まず創部届を取りに行って、―――あ」
鞄を開け、中からクリアファイルを取り出す。ファイルにはいくつかのプリントが挟まれていて、他のプリントとは一枚だけ様式が異なるものを取り出した。
「そういえば、持っていましたわね」
「随分と準備がいいですね。はっ、さては未来予知能力……!? あるいはフリューゲル・ヌルみたいに未来を推測する機能がローズ・スティンガーには搭載されているのですか!?」
なお、フリューゲル・ヌルとは1995年に日本で放送されたロボットアニメに登場する機体のことである。
「いえ、以前に入手したものの使わず仕舞いで、処分するのを忘れていただけですわ」
女子ドール・マキナ・マーシャルアーツ部の創部のために、五十鈴が麗奈に持ってきたものだ。何となく捨てることが出来ず、鞄に入れたままにしていたのだが、
「部活名は後にするとして、創部には最低五名の部員が必要となりますわ」
「余裕で足りるな」
ガーランは周りを見渡す。この場には麗奈、有栖、床で伸びたままの五十鈴、春光、六華、そしてガーラン当人と発案者のライナスの七名がいる。
「ですが……」
と、麗奈は言葉を濁した。生徒手帳を取り出すとペラペラとめくり、目的のページで手を止める。
「ああ、ありましたわ。部の設立、及び活動には五名以上の部員が必要。ただし、留学生はその数に含めないものとする」
「あん? なんだそりゃ?」
「安全政策の一つですわね。留学生同士で結託して、学園内に公然と秘密結社なんて作られては堪りませんもの」
「……なるほど、当然の制限だな。ま、オレサマたち抜きでも五人いるから問題ねえだろ」
「え、あれ? 私も参加する流れ!?」
「参加していただけないのですか、リッカさん?」
「いや、待って、待ってライナス君。落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
一万人の女性のうち9999人が思わず言う事を聞いてしまいたくなりそうな愁いを帯びた表情を向けられた六華は、その懇願をレジストしながら、静かにこう言った。
「―――私、英語喋れないんだけど」
そう。先週転校してきた者たちはみな、当たり前のように日本語で話していたのだが、今日来た留学生たちは、六華が知る限り全員、英語で麗奈と会話していたのだ。
六華の告白にガーランとライナスが揃って目を見開き、
「そんな、お前、義務教育を受けれなかったのか……!?」
「一体何が、……ああ、いえ、言わなくて結構です。つらい過去というのは、思い出すだけで苦痛を伴うものですからね」
「受けてるよ、義務教育! そんな悲惨な過去なんてないからね!? 英語喋れないのなんて普通だよ普通! ねぇ獅子王さん!?」
「あ、いえ……。我が校では英語は必修でして、日常生活に支障がない水準でなければ、初等部の卒業すら認められませんの」
「そういえばペラペラ喋ってたーーー!!! ……ちなみにだけど、もし水準に満たない場合ってどうなるの?」
麗奈はフッと、沈鬱な表情で、
「卒業式の直前の転校生って、きっと扱いに困られるんでしょうね」
「あ、ちなみに特待生の場合はこの条件ないから安心してね、六華ちゃん」
「安心、していいのかなぁ……?」
「ま、オレサマは別に構やしねえよ。平民の能力に最初から期待なんぞしちゃいねえ。幽霊部員でいいじゃねえか」
「げしゅ……?」
「それもそうですわね。名前だけ貸していただくでもよし、英語でしか会話出来ない方が来たら他の人を呼んでもらうでもよし」
「ていうかさ、私以外の当てはないの?」
麗奈は無言で目を逸らした。それを見ながら有栖がフォローする。
「前はいたんだけど、みんな他の高校に進学しちゃったんだよねー」
「……いや、あの子たちが一緒だと、たぶん創部自体が受理されないと思うよ」
苦笑、というには随分と苦みが強い表情で、春光が言った。過去、その当て達が、創部三日で部室棟を吹き飛ばしたことを思い出したのだ。
そして春光は六華の前に創部届を回した。五つある枠の中には、既に四人分の名前が書かれている。一番上に獅子王麗奈、二番目にはなぜか本人がまだ伸びたままなのに鷹谷五十鈴、三番目にはなぜか二番目と非常によく似た筆跡で在須有栖、四番目には石川春光と並んでいた。
「みんないつの間に……」
ジト目になりながらも、まぁいいかなと思いながら、六華は自分の名前を五番目に書く。風紀委員は、というよりこの学園には、委員会自体が存在しないと以前に聞いた。特に入りたい部活もない。であれば、困ってる人の助けになれるであろうこの活動に参加するのも悪くは無かった。
「ありがとうございます、野亜さん。さて、あとは生徒会に提出するだけなのですが、この時間だと活動されているか怪しいですわね。ですので、向かうのは明日の昼休みといたしましょう。それと各自、部活の名前を考えてくるのをお願いいたしますわ」
「SOSだ」
「それ以外でお願いいたしますわ」
「じゃあそろそろ帰ろっか。私、五十鈴ちゃんを気付けしてくるねー」
有栖が五十鈴の元へと向かうのを見ながら、麗奈は何と無しに思ったことを問う。
「そういえばライナス様。部活を作るにしても、どうしてこのように厄介ごと間違い無しの内容を? ラプソディ・ガーディアンズの活動もありますし、もっと平和的なものでもよかったのではなくて?」
「やだなぁ、何を言ってるんですか、レイナさん。それでは退屈に殺されてしまうじゃないですか。せっかく厄介ごとの方から、それも自分たちが当事者ではない内容でやってきてくれるのに、見逃すなんてもったいないですよ」
ライナスの言葉に、春光が信じられないものを見るような目になっている。ライナスはその視線に気付いているのかいないのか、10万人の女性が見れば99999人が発情する笑みを浮かべ、それに、と言葉を続けた。
「世界を正しい形に導くのは、ブリテン人の義務なのですから」




