≪tips≫ ナーゲル(遠隔操作攻撃端末)について
ナーゲルとは、ドール・マキナが使用する遠隔操作攻撃端末、及びそれらを含む機能の総称。遠隔操作されるものに限られ、誘導ミサイルなどの自動追尾機能を有するものはこれに含まない。
思考のみで操作するテレキネシス・ナーゲル(※)と、手動によって操作するマニュアル・ナーゲルの2種に大別され、それぞれTナーゲル、Mナーゲルと省略する。
(※テレキネシスとは超能力の一種で、手を触れずに物を動かす能力を表す。念動力、念力とも言う)
ナーゲルという名称は1551年、イタリア戦争の最中、マリア・フォン・ゴルディナーによって世界で初めて使用された同分類兵器、『フライエルルナーゲル』に由来する。
各語はドイツ語で、
フライ :飛行
エルル :魔
ナーゲル:爪
を意味し、フライシュッツェ(魔弾の射手)にちなんで『魔爪の射手』と翻訳される場合もある。
このフライエルルナーゲルが初投入された戦闘では、フライエルルナーゲル搭載機が、単機で百を超える敵機を撃墜、並びに揚空艦五隻を轟沈したという凄まじい記録が残されており、極めて強力な兵装であると考えられたことから、ドール・マキナ先進国では研究が盛んであった。
……盛んであった。過去の話である。
研究が進むにつれて判明したことは、テレキネシス・ナーゲルは常人には扱いきれない兵器である、ということだったからだ。
フライエルルナーゲルは同時に四つの端末が、全く異なる動作を取りながら戦場を縦横無尽に暴れまわったという記録が残されており、このことから手動ではなく、思考によって操作されていると考えられた。
(なお、実際にどのような操縦方法であるかは、現代に置いても不明である。
これは研究が始まったのがマリア・フォン・ゴルディナーの死後であるということと、フライエルルナーゲル搭載機がローズ・スティンガーによって取り込まれ、現物が存在しないこと。さらに、製造に関与した者たちが、マリア・フォン・ゴルディナーの国外追放に同行したことと、対策を講じたり同一兵器を製造できないように全ての設計図を破棄したことが理由である。また、この『フライエルルナーゲル搭載機』の機体名すらも判明していないことからも、徹底的な情報の削除が行われた背景が見て取れ、辛うじてフライエルルナーゲルの名称のみが、当時の戦闘で生き残った者たちの証言を集めた記録から判明している)
よって思考で攻撃端末を操作するという方向で研究が始まったのだが、思考のみでナーゲルを動かせる人間は、ただの一人も見つからなかったのである。
元々、ドール・マキナは、ミスリルを通じて、思考のみで操作することが可能なものである。ゆえにナーゲルも思考のみで操作することは難しいことではないと、当時の研究者は誰もがそう考えていた。
後になって考えれば、ナーゲルを思考操作できる人間が見つからないのは当然のことであると言えるだろう。ドール・マキナにバルカン砲やビーム砲を内蔵しても、人間にはバルカン砲やビーム砲がないため、思考のみで発射することが不可能であり、そのために操縦桿に発射用のスイッチが取り付けられているように、普通の人間は、自分の体の外にある物体を、念じるだけで動かすことは不可能なのである。
次に行われたのは、国中から、あるいは近隣国から、念動力者をテスターとして集めるという事であった。だが、本物の念動力者はもちろん、広義の超能力者さえも一人として見つからず、その全てが偽物であった。
ここに来てようやく、思考ではなく手動による遠隔端末の操作という方向性が模索され、テレキネシス・ナーゲルとマニュアル・ナーゲルという分類が誕生するに至った。
その後、Tナーゲルもしばらくは研究は続けられていたのだが、Mナーゲルに研究費や人員が割り振られ、最終的にその大半が凍結、あるいは一部の物好きだけが研究を続けるのみとなり、完全に下火となっていった。
そしてTナーゲルであるが、こちらも開発に難航。というのも人の腕は2本しかなく、指を全て合わせても10本。加えて、指一本につきMナーゲル一つを操作させるというのは、インターフェース的にみても不可能であり、さらには指の全てを使ってナーゲルを操作するとなると、ナーゲル操作中は機体の挙動が単純化しやすく、回避行動が難しくなるという問題もあった。
問題の解決策として、ナーゲルの操作数を減らす対処が挙げられた。だが、そもそもとしてナーゲルの研究が始まったのは、実戦投入された戦闘で、多数のナーゲルを縦横無尽に操り、戦場を蹂躙した、という戦歴に由来するものであり、操作端末数を減らして運用するということは、開発コンセプトの根幹を揺るがすものであった。
加えて、ナーゲルの本数を減らしても、そもそもとして操作難易度が高く、ナーゲルの操作に集中すれば機体の操作がおろそかになり撃墜されやすく、機体の操作に集中すればナーゲルの動きが単調になり迎撃されやすいというジレンマに悩まされることとなった。
研究者たちはこのジレンマを解決することが出来ず、加えて「こんなオモチャに金を使うくらいなら、誘導ミサイルの性能を少しでも上げる方に使った方がいいのではないか」という意見が外部から出始め、Tナーゲルに続き、Mナーゲルの研究も規模が縮小されるに至る。
現在では「ナーゲルが優れた兵器というわけではなく、ナーゲルを運用したマリア・フォン・ゴルディナーが異常な能力を有していた」「ナーゲルを搭載するくらいなら、その分ミサイル類を搭載した方が有益」という主張が主流となっている。
(ドール・マキナの歴史書より一部抜粋)




