竜獅相搏 Cパート&次回予告
「それって、ドール・マキナを持ち込んだら私たちでも参加できるのかな?」
六華の疑問。父親の職場の地下には、30メートルという超大型ドール・マキナが隠されているからだ。それを持ち出せば、自分も参加できるんじゃないか。ふとそう思った。だが、
「無理! ですわね」
麗奈は、強く断言した。ただしこれは、六華を絶対に参加させないためという意図ではない。隣、天井を見上げたままでいる五十鈴に言い聞かせるためだ。
「ドール・マキナを用意する程度のことなら、花山院に通う家なら、ほとんどの方が出来るでしょう」
「出来るんだ……」
出来る。その必要が無いのでやらないが。
「ですので、部隊に参加するには、それなりに厳しい条件を満たす必要がありますわ」
「どんな?」
「そもそも多国籍部隊ですからね。少なくとも、籍を置いている国から参加許可程度は取り付けてもらう必要がありますわ」
「チッ」
五十鈴の舌打ち。よほどの特例でもない限り、学生の参加は不可能だろうと理解したからだった。
例えば、世界最強のマンティ、ローズ・スティンガーを有しているだとか。
例えば、警察庁長官の息子だとか。
例えば、イギリス王族やドイツ帝族だとか。
例えば、現役軍人の、他国の将軍の息子だとか。
例えば、皇族の一人、瑞器親王殿下その人だとか。
少なくとも、呉服屋の息子なんて立場では、参加することが不可能であることは自明だった。
「……あら? 何かあったのかしら」
麗奈が真っ先に気付いた。シェルターの出入口から、慌てた様子で女性警察官が中に入ってきた。誰かを探すように中を見渡している。
そして、麗奈たちの方へと駆け寄ってきた。
「ご歓談中にすみません、獅子王様」
「何かありましたか?」
「近くを未確認ドール・マキナが一機、徘徊しているようでして。もしよろしければ排除をお願いしたいのですが」
「警察や軍のクルスはどうしたんですか?」
起き上がった五十鈴が警察官に質問した。
「大半が東京湾の警備に回されていたんです。こちらまで来るには時間がかかります」
「敵の数は?」
「確認されたのは一機だけです」
「……分かりました。対応してきますわ」
麗奈が立ち上がった。
「ありがとうございます!」
「おっしゃ、じゃあ行くかぁ」
五十鈴も立ち上がった。
「……何で五十鈴も行く気になっておりますの?」
「いや、ほら。お前ひとりだけ出ていったら、外で何かありましたって周りに言ってるようなもんじゃん。二人で行けばその辺誤魔化せそうなんじゃないかなって」
「なんて言ってるけど、五十鈴は単に、ドール・マキナが戦うのを見たいだけだよね?」
そして六華も立ち上がった。
「野亜も行く気満々じゃん」
「当たり前じゃん! だってあのローズ・スティンガーが戦うんだよ!? 私学園では見れなかったんだから絶対ついてくよ!」
「……二人とも、遊びに行くんじゃありませんわよ」
「まぁまぁ」
「まぁまぁまぁ」
五十鈴と六華が麗奈の後ろに回り、背中を押して出入口へと向かう。麗奈は呆れながらも、されるがままに三人で外へと出た。そのまましばらく歩く。
「あっ、あれじゃない?」
シェルターから少し離れ、三人で周囲を見回していると、最初に発見したのは六華だった。
「遠目だから判別しにくいが、マキャヴェリーのパッチワーカーくせえなぁ」
機体がその場所から移動する。建物の影に入って頭部近辺しか見えなくなる。
「ドール・マキナってもっと大きいイメージあったけど、建物より少し高いくらいしかないんだね」
「ああ、そりゃあれが中型だからだな。大型だと大体12メートル以上はあるから、あれよりかはもっとよく見える。……ん? おい、ありゃなんだ?」
五十鈴が空を指差した。曇り空の下、黒い点のようにしか見えない何かが、ドール・マキナの方角へと近付いてくるのが見える。
「鳥かな?」
シルエットが見えてくる。
「飛行機ではありませんの?」
その飛行機が、突如として空で急停止し、変形した。
「ドール・マキナだ!!」
戦闘機から人型へと変形した、青いドール・マキナが急降下する。地上を歩く中型機を上空から強襲する。数秒後、再び空へと上昇しながら姿を現し、戦闘機に変形して飛んでいった。
「見たか?」
「いや全然。建物の影だったから戦ってるところ何も見えなかったよ」
「そっちじゃねえ。変形したよな、戦闘機から人型に。俺の見間違いじゃねえよな?」
「ええ。三大兵器との可変機構を持つドール・マキナ、超機臣。……どうやら中国軍も、ラプソディ・ガーディアンズに参加するようですわね」
麗奈の言葉を聞いた五十鈴は頭を抱えて悶えていた。直後に崩れ落ちる。
「くっそぉおお……! カメラ用意しときゃよかったぁああ……!」
●
同時刻。
春光たちから逃走したドール・マキナ、半人半車の機体、シェパウルスが両腕を肩から破壊され、車体ごと横倒しに転倒した。さらにバンの上を、一機のドール・マキナが踏みつける。
カレトヴルッフと似た機体だ。青と銀と白のトリコロールカラー。
さらにもう一機、色違いの同型機がその場に近付く。
『踏み殺すなよ、アージュン』
『貴様に言われずとも分かっている、ルドラ。……全く、到着早々にこき使われるとは。日本人は働き過ぎで死ぬという笑い話があるが、事実なのだとしたら笑えんな』
●
「おかしいですよねぇ!? どうしてアブドゥル兄弟の髪がアフロから逆モヒカンになってるんですか!?」
戦闘後、連行される犯罪者集団の列を春光は指差し、隣に立つ二人の留学生に詰問していた。
現場は到着した警察たちによって封鎖されており、避難から戻って来た人々が野次馬を為している。
春光たち三人の後方では、今回の戦いの立役者たる三機のドール・マキナが直立待機していた。カメラを持った警察官が、その三機を様々な角度で撮影して回っている。
「いいじゃねえか、生きてんだから。それにロシアに引き渡したところでどうせ銃殺刑だろ」
「フルスペック機のマキャヴェリーなら、機体の動きを見れば操縦者の体格くらいまでなら分かりますからね。とはいえ、さすがにアフロまでは判別できませんでしたが」
「おうよ。だからコックピットを吹き飛ばしても中身は無事だっただろ?」
「~~~っ! そんなの出来るのは二人だけですよ!」
春光は頭を掻きむしる。
「けどよ、アレだな。ライブラがエンブレムを見せつけて、オレサマたち二機に戦わせるって構図。同じのをジャパニーズ・ヒステリードラマで見たぜ。そう、確かタイトルは……『ミト・アヌス』!」
アヌスとはドイツ語で、ケツの穴を意味する言葉だ。すなわち肛門のことである。
「ケツのシワをエンブレムにするたぁとんでもねえ連中だな日本人!!」
「って凄い勘違いしてるー!!!? 殿下、それ余所で言っちゃ駄目ですからね! 大問題になりますからね!?」
「ところでシュンコウ。私たちはいつまでこうしていなければならないんでしょうか」
「……こう、というのは、機体を母艦に戻したいとか、そういうことです?」
「いえ、そうではありません。そもそも私が出かけたかったのは、本を買いたかったからというだけなんです。で、一体いつになったら買いに行けるのかな、と」
春光は、死んだ魚のような、生気を感じさせない目になった。
「記者会見は10時です。午後10時」
「……それは、つまり、」
春光は表情だけは笑っているが、目は全く笑っておらず、
「解放されるのと日付が変わるのと、果たしてどっちが早いんでしょうね」
当然といえば当然だが、西暦2000年の東京に、24時間営業販売をしている大型書店など存在するはずがない。
ライナスは、その場に崩れ落ちた。
●
東京湾ヘリポートに着陸したヘリから、一人の少女が勢いよく飛び降りた。
明るい金髪をツインテールにまとめ、ダイナマイトなボディはアメリカ空軍の野戦服に包んでいる。ティアドロップ型のサングラスを外すとともに、両手を大きく斜めに広げた。
「Ohーーー! スーシ! テンプーラ! フジヤーマ! ハラキーリ!」
きらきらと青い瞳が輝く。憧れの日本に来れた喜びを全身で表現している。
―――そして、その少女の顔は、当の昔に死んだ偉人、獅子王マリアの15歳当時の顔に瓜二つだった。
●
《え、あれ? もう次回予告?》
《おいおいマジかよ。2話にして主人公機ならぬ悪役令嬢機が一度も出番ねーじゃん。どうなってんの?》
(制服姿の優美が、一人で昼の街中を歩いている映像)
《まぁそんなこともあるわな。エー次ね、次の話はね、今回ちょっとだけ顔出ししてた機体が、ラプソディ・ガーディアンズに本参加する話だね》
(花山院学園の制服をアメスク風に着用した金髪美少女に抱き着かれる麗奈の映像)
《君は、ついてゆけるだろうか。次々とキャラが増える世界のスピードに》
(六華が白目を剝いてひっくり返り、麗奈に支えられる映像)
《ちなみに俺はもうね、あきらめました。年を取るとね、人の名前って覚えられなくなるんだよね(実感の篭った深いため息)》
(ナイフを持った男を相手に、徒手空拳で戦う有栖の映像)
《次回、ドール・マキナ・ラプソディ、第三話。『マリアの子』》
《次回も、悪因には悪果あれかし》
《感想:やればできるじゃないですか》
《だろぉ!? 俺って褒められて伸びる子だから!!》
《……ところでさ、最後に出てきたあの金髪女、何? 何で俺と同じ顔してんの? ホラー? ホラーなの?》
はい、というわけでもう年末ですが、2話が投稿完了です。もう年末? マジで?
このペースで投稿していたら完結するのに5年以上かかりそうだな……。
早速新キャラが何人も出てきましたけど、次回も新キャララッシュは続きます。
なんでこんな一気に増やすかというと、この作品が「ロボットが出る乙女ゲームでやるスーパーロボ○ト大戦」を意識しているからです。
オリジナル主人公機が出たら、次は版権作品の集まる部隊と合流するものでしょ?
残りは付録の出演ロボット各機の解説です。付録の方はぶっちゃけ読んでなくても話を読むのに問題ないようにはするつもりです。
それでは良い年末を。来年もよろしくお願いします。




