さくらとクマ
これは桜が舞い散る春のお話。
少しだけ特別だったとある3月のお話。
何もわからず何もできなかった僕が、一歩前に進んだ物語。
☆ ☆ ☆
卒業式が終わり、残りの学校行事が終業式だけになり、あと数日でやって来る春休み。
僕は残り数日の登校日が「早く終わればいいのにー!」と思いながら下校していた。友達とは別れてからの道のり、途中にいわゆる「お屋敷」とような家が一軒ある。洋式でちょっと古そう。塀に囲われていて、外からもお屋敷の外見が見えるタイプの鉄格子の門。いつも通っているので見慣れてはいるがその門の大きさからもわかるけど、結構大きいお屋敷っぽい。ただ何だかんだ、この街並みに溶け込んでいて、悪目立ちはしていない。
いつもはチラ見して通り過ぎてくのんだけど、今日は思わず足を止めてしまった。大した理由じゃなかった。ただ、そこに桜の木があったから。とても綺麗だったけど、まだ蕾のものもあった。満開まではあともう少し。ただ今年は暖かくなるのが遅れていて、3月の終わりまでは咲いているんじゃないかな?
僕は桜が好き。なぜ好きかは、そんなに特別な理由はない。両親が桜を好きで、いつも春になると「桜咲いてきたね。」とか「お父さんも誘ってどこかお花見行こっかー♪」とか、お母さんが笑顔で言うから、いつの間にか何となく好きになっていた。
目を奪われじーっと見ていた。どれくらい見ていたかは覚えてないけど、10分くらいはいたんじゃないかな?そんな時、
「お嬢さん、お屋敷に何か御用でしょうか?」
後ろから男の人に声をかけられた。僕は予想もしていなかったので、身体が飛び跳ねるくらい驚いて、おどおどしながら振り返った。そこにいたのは黒いスーツにサングラスの男性だった。
僕は驚きと知らない人(たぶんこのお屋敷の人、じゃなかったら怪しい人)に声を突然声をかけられたことで、頭の中は大パニック状態だった。だから、僕はこう答えることしかできなかった。
「ご、ご、ご、ごめんなさーい!」
そして、全力で走って逃げた。念のためランドセルにつけてある防犯ブザーにも手を持って、全力で逃げた。あの男の人が何か叫んでいるような気がしたけど、僕はそのとき聞き取る余裕はなかった。よくこの時の僕、防犯ブザーに手を取ったと少し褒めてあげたい。
しばらく全力で走って、何とか逃げ切れたみたいで、息をぜいぜいと切らしながら家に何とか帰宅した。息が整わないまま「ただいま」と言って玄関でバテてると、お母さんが出迎えてに玄関までやって来た。
「おかえりなさい、逢くん。どうしたの、そんなに息切らして?」
お母さんの帰って来た僕の姿を見て、率直な感想だったと思う。ただ僕はその後にお母さんが続けた言葉に僕は心臓を撃ち抜かれた気分だった。
「あれ?ランドセルにいつも付けてたクマ、外したの?」
☆ ☆ ☆
僕には宝物がある。それは男子っぽくはないのだが、クマのぬいぐるみだ。僕の両親は僕の誕生日にいつもクマのぬいぐるみをくれるのだ。普通のサイズのものはもちろん、ストラップくらいの大きさのものから邪魔になるくらい大きいサイズのもの。今僕は11歳なので、今までに11匹のクマを貰ってきた。これはお母さんが決めたことらしい。他にも誕生日プレゼントに欲しいものがあれば買ってくれてたのだが、それといつも一緒にクマのぬいぐるみを「大事にしてね」と言ってくれるのだ。
僕のランドセルにはその1つを付けていた。けど、今日帰って来てなくなっている。どこかで落としてしまった?誰かに取られた?うんん、下校のタイミングにランドセルを背負ったときには絶対にあったから、下校途中に落としたんだと思う。探さなきゃ!
お母さんには、今日は家に置いといたと伝えたけど、言われた瞬間探しちゃったし、全力疾走後でバテバテでおまけに動揺もしちゃってたから、たぶん半信半疑な状態だと思う。うんん、どっちかと言うと疑われてると思う。お母さんは「あら、、、そう?」と答えて台所に戻って行った。
帰宅後、取り敢えずは息を整えどこで落としたかを改めて考えていた。そして、ふとその時気づいた、手に防犯ブザーを握っていたことに。これだ!きっと防犯ブザーを取る拍子に、ランドセルにつけていたクマを落としちゃったんだ。ただ、と言うことは...あのお屋敷の近くってことになる、よね。
ちょっと気持ちが重たくなった。あのお屋敷の近くに行かないといけないのか。たぶんあの声をかけてきた男の人はあのお屋敷の人、だと思う。悪い人ならきっと追っかけて来ただろうし。それに不審者にしては服とかが綺麗すぎる!(※服が綺麗な不審者や悪い人もいるかも知れないので、見知らぬ人には本当にお気をつけください)
ただ、声をかけられて走って逃げちゃったから、正直ちょっと気まずい。それに声をかけられたのだって、じろじろ見るな、と怒るためだったかもしれないし...できることなら会いたくはない。戻りたくないけど、、、きっとあのあたりに落としてる。
勇気と防犯ブザーを手に僕はあのお屋敷の辺りまで戻ってきた。防犯ブザーは念のためです。ここまで道の隅々まで目をやって探していたのだがまだ見つかっていない。そしてついにお屋敷の前まで来てしまった。あの人に見つからないように、見つかっても今度は怪しまれないように、そのあたりをしっかり探した。
ただ、結果は見つからなかった。他に落とすポイントがあった?もしくは下校のタイミングにあったのは何かの記憶違い?いろいろ考えて悩んでいたら、また声をかけられた。僕は不覚にも、お屋敷の前で考えてしまっていたのだ。
「おや、お嬢さん、またお会いできましたね。」
☆ ☆ ☆
僕はまた飛び跳ねるように驚いた。その声は先程の男の人の声だった。
「おっと、申し訳ございません、また驚かせてしまい。お嬢さん、もしよろしければ少しお話してもよろしいでしょうか?」
男の人はすごく丁寧に謝って、そして話しかけてくれた。それよりもさっきから引っかかることが
あった。
「お、お嬢さん?」
そういえば、最初に声をかけられた時も「お嬢さん」と言われていた。
「はい、貴方様のことでございます。先ほどは驚かせてしまい大変失礼いたしました。」
「あ、い、いえ...こちらこそ、さっきは、逃げて、ごめんなさい。」声がだんだん小さくなっていった。
「あの、お、お屋敷の、人、ですか?」僕の声はもうほとんど聞こえないほど小さい声になっていた。
「はい、そうでございます。私はこのお屋敷で務めさせて頂いております、千歳と申します。」
男の人は千歳と言う名前でこのお屋敷で働いている人のようで、とりあえず不審者疑惑が消えて一安心。ありがとう、心の支えの防犯ブザー。
「あの、先程はお屋敷に何かございましたでしょうか?ご覧になられていたかとお見受けしましたので。」
千歳さんは優しく質問してきた。顔が少し笑っているように見える。
「あの、さっきは、ごめんなさい。覗いてたわけじゃなくて...桜が、気に、なって...」
「左様でございましたか。それはようございました。」
千歳さんは僕の小さい声を一言も聞き漏らさず、僕の返事に更ににこやかになっていた。
「それではもしよろしければ。」
「えっ?」
展開が僕には分からなかった。なぜか千歳さんがお屋敷の入り口の門を開いて、入るよう促している。
「あの?なんで、門を?」
「もしよろしければ、お近くでご覧になって下さいませ。」
僕は言われるがまま、千歳さんにお屋敷の中に導かれた。
つづく
えっと、初めての投稿になります。詩を愛するで「しあ」と読みます。
これは歌手のaikoの「桜の時」の曲名から桜にまつわる物語を書きたいと思い書きました。本編は曲とは全く関係ありません。
文章も下手くそで、キャラ設定もまだまだブレブレだと思います。ただ、優しい物語をだと思ってます。
今のところ短くて計3部、長くて5部くらいの投稿でこの物語は完成させる予定です。
完成した時に、この物語を少しでも好きになってくれたらとても嬉しく思います。