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第9話   センノリキュウと機密の茶屋

「ハマザーニー城塞は陥落した!!」


 進軍を一旦停止させるやメルヴィンは兵士に向けて叫ぶ。

 いきなり援軍として向かうはずだった城塞が陥落していると告げられた兵たちは、驚くよりも困惑しているようだった。けれど今は彼等兵士に事態を1から説明している時間的余裕はない。


「さらに! 狭路の出口の山の左右にオークが伏兵として潜んでいる! 一刻も早く狭路を脱出しなければ、我々は全滅する! 全軍、反転せよ!!」


 家康は祈るように状況を見守る。

 こういう突拍子もない命令を大人しく兵に従わせることが出来るかどうかは、メルヴィンの将としての統率力に関わっている。

 もし兵たちが混乱したまま動いてくれなければ自分たちはおしまいだ。果たして、




メルヴィンの将器【1D100:91】

兵の混乱【1D100:20】




 兵士たちの表情がみるみるうちに変わっていった。困惑から恐れへ、そして焦りへ。

 焦りとは時に判断を曇らせるが、これはいい焦りだった。困難に挑む力になる。

 行軍をやめた軍がぐるりと時計回りに折り返していった。シルヴィアがほっとしたように息をつく。


「どうにか従ってくれましたね」


「おう。まずは一つ死を潜り抜けたわ。残るは二つぞ」


「この狭路が封鎖される前に脱出できるか、追手に追いつかれずに逃げ切れるかですね」


「おう」


 家康は南の山々。スカーレット・ハンター率いるオーク1000体が伏せている山々を睨む。

 今度は彼女の将器と撤退速度の勝負だ。果たして、




スカーレットの将器【1D100:66】

撤退速度【1D100:77】




 急げ、急げ、急げ!

 メルヴィンもシルヴィアもエヴェリナも、そして家康も。喉が枯れるほど叫びながら急かす。

 このとんでもない反転劇に対応しきれず転倒する兵士もいた。シルヴィアはそんな兵士を見て立ち止まったが、家康は「構うな!」と怒鳴るように言う。自分たちの背中には剣が迫っていて、止まれば背中に刺さる。足を止めることはできない。

 そして遂に4000の軍勢が狭路を抜けた。後は王都へ向かって全速力で撤退するだけである。だが、




スカーレットの追撃【1D100:73】

撤退速度【1D100:71】




 血濡れの女騎士と謳われ、平民出身でありながらミハイル王国の防壁の片割れにまで昇りつめたのがスカーレット・ハンターという女騎士だ。

 そしてミハイル王国にとって武勇一辺倒の平民がなれるほど、将軍の地位は安売りされていない。メルヴィン軍の迅速な反転撤退により狭路からの脱出を許しはしたが、王都へ帰るのを指をくわえて見逃すほど愚かではなかった。


「ええぃ! まさか城塞の陥落と伏兵に感づいたとでもいうのか!」 


 敵には予言者でもいたのか、と舌打ちしながらスカーレットは自分の愛馬に跨る。


「バドグッブ! 直ぐにメルヴィン軍を追撃するぞ! あとそこの……ええぃ誰でもいい! 早くこのことをハマザーニー城塞のゴグリッブグ様に伝えろ!」


「命乞いして許された俺たちの家畜風情が……」


 スカーレットは問答無用に副将であるオークを切り捨てた。返り血が緋色の鎧の色を深くしたが、スカーレットは淡々と剣を鞘にしまう。

 一方でいきなりの凶行にオークたちは恐れおののいていた。人間がオークを野蛮な獣と恐れるのと同じように、オークは自分たち以上の力で自分たちを屠る女騎士を恐れていた。その恐怖をスカーレットの凶行が思い出させたのである。


「副将は死んだ、次に偉いオークは誰だ?」


「お、俺だ!」


 一体のオークが名乗りでる。基本的にオークの序列は『強さ』で決まるため、名乗り出たオークは他より一回り大きい体躯をしていた。


「名前は?」


「ば、バドグジ……」


「よし、じゃあさっき言った命令を実行するぞ。全軍、追撃だ!」


 もうスカーレットの命令に文句を言うような命知らずはいなかった。

 オークたちは飛びあがるようにして、撤退していくメルヴィン軍を猛追し始めた。




 当然スカーレット率いるオーク勢が追撃してきたことは、逃げている最中の家康たちにも分かった。

 まだメルヴィンの言うことを疑っていたところがあった兵士たちも、実際に山影からオークが飛び出してきたことで、顔面を恐怖に染めている。

 家康は【1D10:3】




1.もう駄目じゃ、こうなりゃ武士らしく死んでやる(なーんていつものノリで言ってしまう)

2.諦めモード

3.もう駄目じゃ、こうなりゃ武士らしく死んでやる(なーんていつものノリで言ってしまう)

4.キレて矢をぶっ放したら敵将に直撃した

5.死んでたまるかごらぁぁあああ(ブリブリブリブリ)

6.諦めモード

7.死んでたまるかごらぁぁあああ(ブリブリブリブリ)

8.もう駄目じゃ、こうなりゃ武士らしく死んでやる(なーんていつものノリで言ってしまう)

9.キレて矢をぶっ放したら敵将に直撃した

10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)




 体重がある分、腕力ほどではないがオークは行軍速度でも人間以上だ。

 狭路を封鎖される前に脱出できたのは僥倖だったが、敵の追撃が早かった。このままではじきに追いつかれてしまうだろう。

 絶体絶命の窮地にあって家康は既知感を覚えた。本能寺の変で信長が死んで、伊賀越えをする事になった時など、家康は何度も何度も差し迫る死を感じてきた。そしてその度に「もう駄目だ、切腹する」だの泣き言を言っては、家臣に諫められてきたものである。


「もう駄目じゃ……このままじゃ逃げられん……こうなったら武士らしく死んでやる……死んでやるぞ……!」


 75年間生きてきた口癖というやつはそうそう直るものではない。近づく死に家康はいつものように泣き言を漏らした。

 しかしこれは珍しく家康にとって迂闊だった。


「い、家康様……!」


 まずシルヴィアが絶句し、次に馬で並走していたメルヴィンが仰天した。エヴェリナは興味深そうに家康を見ている。


「分かっとるわい。こんな馬鹿なこと言ってる暇があれば――――」


「感服いたしました、家康殿。我らを生かすために、まさか自ら殿軍としてオーク軍に立ち塞がると仰られるとは!」


「は?」


 感激して涙を流すメルヴィンの言葉が理解できず、呆けた顔をする家康。しかし数秒して自分が途轍もない失言をしてしまったことに気付いた。

 そう、過去の戦と今の戦では自分の立場が違う。前の世界では自分は大名で主君だった。だから死ぬと言った時、家臣たちが諫めたのである。だがこの世界での家康は異世界から召喚された英雄とはいえ、大名でも主君でもない。優先して生かすべきは第一に王女であるシルヴィアであり第二にメルヴィンだ。

 故にシルヴィアたちは家康が自分たちを守るために犠牲になる覚悟を決めたと、勘違いしてしまったのである。


「お待ちください家康様! 家康様は私に……い、いえこの国にとって必要な御方です! このようなところで命を捨ててはなりません! ここは私が……」


「シルヴィア殿下! 男子たるものが覚悟を決めたのです! 黙って送り出すのが礼儀でしょう!」


「え、いや――――――」


「そんな……どうして家康様は、異世界のために……命すら……捨てることが出来るのですか……? なん、で……」


「私も同じ男です、家康殿の気持ちは分かります。男とは、友のためならば無限に己の命を賭けることができるのですよ。そして友情には国境も、世界の壁もないのです」


 メルヴィンは家康の心をまったくこれっぽっちも理解していなかった。家康が今なにを考えているかと言うと、さっきの発言を撤回したい、なかったことにしたいである。

 けれど家康が反論するよりも前に、シルヴィアとメルヴィンの間で急激に家康が敵軍に突撃して時間を稼ぐ空気が出来上がっている。


「アタシは生まれも卑しいし貴族の誇りとかノブレスなんたらとかは分からねえけどさ。立派な武人ってのはアンタみたいな人を言うんだろうな」


 とどめにはエヴェリナのこの一言だ。

 ここまできて「さっきの発言撤回します」なんて言った日には、家康の名声は酷いことになるだろう。

 名声に傷を負ってでも命の安寧を優先するか、それとも名声を傷つけずに敵へ突撃するか。この世界の言葉で言うリスクとリターンとを比較しながら家康は決断した。


「仕方がないのう」


 覚悟を決める。

 なんの後ろ盾もない身一つ裸一貫。そこから伸し上がろうというのだ。分の悪い賭けに命の一つや二つ差し出さなければならないだろう。

 家康が知る家康以外の天下人は……家康が『勝てない』と思った唯一の男はそうした。


「行けぃシルヴィア! ここがわしの金ヶ崎じゃ! 死んでもいい奴だけわしについてこい!!」


 正に天下人らしい堂々たる雰囲気で吠える家康だが、実際はただの自棄だった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 癖って中々治らないよねえw 焦った時程、自然とでちゃう
[良い点] スカーレットの残酷な判断力と、家康の土壇場でのクソ度胸。 [気になる点] 続き! [一言] 毎回楽しませてもらってます。 今後とも頑張ってください。
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