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第8話   踊る本能寺の変 THE MOVIE 2 瀬田唐橋を封鎖せよ!

 シルヴィアと一緒にメルヴィンのところへ行った家康は、手早く伏兵の可能性について説明した。

 まったく想定していない話にメルヴィンは絶句し、二の句がつけないようだった。それでもメルヴィンは将としての責任感から復活すると、恐る恐るといった様子で口を開く。


「ふ、伏兵とは……まことですか? もしそうならハマザーニー城塞は既にオークによって陥落しているということに……」


「いやシルヴィアと話していて、ふと閃いた可能性です。当たっている確率は『1ぱ~せんと』くらいじゃよ」


 家康が言うとメルヴィンはほっとしたようだった。

 ハマザーニー城塞はミハイル王国と王都アポロニアを守る最大の壁である。ここを突破されれば王都までは殆ど一直線だ。それが落とされたかもしれないなんて考えたくもないことなのだろう。


「しかし百に一つというのは中々に無視できませんな! 別に援軍は一刻を争うというわけでもないですし、ここは行軍を一旦やめて伏兵がいないかどうか確認をしましょう」


「待たれよメルヴィン殿。それは不味い。もしも百に一つで本当に伏兵がいたなら、藪をつついて蛇を出しかねん」


 もしもハマザーニー城塞が陥落していて伏兵を忍ばせているとしたら、その伏兵は間違いなくこちらの様子を伺っているだろう。

 仕掛けるのは軍勢がハマザーニー城塞の直ぐ近くまで迫った時。そこで城塞が既に陥落していることを教えて士気をへし折って、更に後方を遮断し追い打ちをかける。更に自分であれば降伏を勧告するが、そこはおいておく。

 しかしもしも獲物である軍勢が急に行軍を停止して、しかも伏兵がいないか調べるような動きをみせたらどうだろうか。敵の指揮官が無能でないなら、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処するだろう。つまり直ぐに攻撃を開始する。


「わしらの現在地は丁度狭路に入ったあたり。ここで仕掛けても4000のうち何百人かは血路を開いて逃げ出せるじゃろう。裏返せば」


「今仕掛けても私たちのうち九割は死ぬ、そういうことですね」


「そういうことじゃ」


 冷や汗を流すシルヴィアに家康は勿体ぶるくらい重々しく頷く。家康の過剰な振る舞いで深刻さが伝わったのか、メルヴィンはごくりと唾を飲み込んだ。

 ここで対案を出すのは【1D10:3】




1.メルヴィン

2.家康

3.シルヴィア

4.シルヴィア

5.家康

6.メルヴィン

7.家康

8.シルヴィア

9.軍師枠が生える

10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)




「な、ならどうすればよいとお考えですかっ?」


 不安を隠せぬメルヴィンに家康は自分の考えを言おうとして―――――だがそれよりも早くシルヴィアのほうが口を開いた。


「行軍を止めるのではなく……緩める……」


「……!」


 家康は目を見開いてシルヴィアを見る。だが当のシルヴィアは自分で考えることに集中しているようで、家康の視線に気付いた様子はない。


「完全に停止するんじゃなくて緩めるだけなら…………進軍の疲れでペースが落ちたと……勘違いで済む……敵も……仕掛けてこない……。その間に……動きが機敏で隠密行動に秀でた女騎士に伏兵がいないか……向かわせて……伏兵がいるとしたら……恐らく……東西の山の中……」


「シルヴィア」


「その後で問題は………時間……早く……一刻も早くに……」


「シルヴィア!!」


「はっ!? す、すみません家康様! か、考えすぎてしまいました!」


「いや、良い。実に良い案じゃった。のうメルヴィン殿」


「ええ、正に」


 メルヴィンが関心したように頷いた。

 これまで家康はシルヴィアのことを自分の家臣にしたいと欲していた。それは彼女の能力ではなく、王の娘という血筋のためである。だが今、家康は王の娘だとか関係なしにシルヴィアが欲しくなっていた。

 狼狽するシルヴィアを他所に家康はメルヴィンに提案する。


「メルヴィン殿。シルヴィアの案はまこと『ないすあいでぃあ』というやつじゃ。そのようにしてもらえるかのう?」


「ええ、勿論ですとも。エヴェリナ!」


「へいへーい」


 メルヴィンが名を呼ぶと、一人の女騎士が進み出てきた。

 伸び放題になったくすんだ灰色の髪を適当に結って纏めていて、服は反抗的であることを現しているかのように着崩されている。

 この世界にきてまだ日がたっていない家康だが、彼女のことは新聞を見て知っていた。彼女は【1D10:9】




1.元盗賊

2.左門豊作枠の女騎士ですたい

3.元盗賊

4.拝金主義

5.拝金主義

6.元盗賊

7.左門豊作枠の女騎士ですたい

8.拝金主義

9.メルヴィンが好き

10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)




 聖痕持ち全てが大人しく王国の徴兵を受けるわけではない。

 中にはオークと戦うことへの恐怖から自分が聖痕を持っていることを隠したり、酷いものになると聖痕の力で犯罪を行う連中もいる。盗賊騎士と渾名されるエヴェリナは後者だ。

 14歳で捕まった彼女は十年間女騎士として徴兵を受けることを代償に、罪を免じられた。そして現在彼女は25歳である。

 なぜ十年間の禊ぎを終えたのに彼女が女騎士を続けているかは、


「かくかくしかじかで、そういうわけだから頼むぞエヴェリナ! お前だけが頼りなのだ!!」


「へ、えへへへ……お前みたいな貴族の坊ちゃんにそう言われたら、しょ、しょうがねぇな」


「そうか、いつもお前には世話になるな。助かるぞ!」


 顔が湯だったトマトのように赤いエヴェリナに、純粋にお礼を言う独身貴族。

 家康は彼女が女騎士を続けている理由を察したが、口には出さないことにした。馬に蹴られて死ぬのは御免である。


「じゃ、このエヴェリナ様に任せときな。行ってくるぜ。ちょいと待ってな」


「うむ。山にはオークが潜んでいるかもしれぬ。くれぐれもばれぬようにな! もしばれれば我々も死ぬしお前も死んでしまう!」


「お、おう」


 そうしてエヴェリナは気配を決して、軍から離れていった。

 シルヴィアの作戦通り、それからメルヴィンは何食わぬ顔をしてペースを落として行軍を続ける。

 できれば自分の考えすぎであって欲しい。家康のそんな淡い期待は、


「メルヴィン、シルヴィア殿下、あと……ヤスだっけ?」


「家康じゃ」


「アンタが言った通りだったよ。東西の山にざっと1000体くらいのオークがいた。しかも連中を指揮してるのは血濡れのスカーレット・ハンターだ」


 あっさり打ち砕かれた上に、最悪を通り越していた。シルヴィアもメルヴィンも、開いた口が塞がらないようである。

 血濡れのスカーレット・ハンターといえばミハイル王国でも十本の指に入る女騎士で、城塞司令官のテオドリック・カリクラテスと並んでミハイル王国の防壁として声望を集める英雄である。それがまさかの裏切りだ。家康でいうと井伊直政が裏切ったと聞かされたようなものだろう。


「ば、馬鹿な……じゃ、じゃあハマザーニー城塞はオークの手に落ちて……テオドリック殿はどうなったのだ……これからの国は……」


「――――――メルヴィン将軍、信じられないのは私も一緒です……でも後にしましょう……」


 意外にも狼狽から回復したのはシルヴィアのほうが先だった。


(いや、意外でもないのう)


 やはり戦はいい。短期間に人の殻を壊してくれる。


「シルヴィアの言う通りじゃ将軍。わしらはまな板の上の鯉。板前に捌かれる前に逃れる方法は一つ。板前が厨房に立つ前に尻尾まいて逃げ出すことじゃ。鯉に尻尾はないがのう」


 そう言いながら家康はこの周辺の地図を広げてみせると、狭路の入り口付近に『い』、東西の山に『ろ』、そしてハマザーニー城塞に『は』とペンで書いた。

 其々家康たちの現在地、伏兵のいる場所、敵本隊の待ち構えている場所である。


「敵の策はたぶん『は』の地点までわしらを引き付けた後、不意を突いて攻めかかり、そして『ろ』に伏せた兵で退路を遮断することじゃろう。じゃが敵はわしらが伏兵に気付いておることに気付いとらん。故にわしらがとるべきは――――」


 家康は『い』から真っすぐ王都アポロニアまで矢印を引いた。


「今この場で反転し、敵が困惑してるうちに真っすぐ王都へ撤退することじゃ。それしかない。上手くいけば『ろ』にいる伏兵が退路を遮断するよりも前に、この岐路を抜けられるじゃろう」


「もしも敵が退路を塞ぐほうが早かったら?」


「強行突破じゃ」


 伏兵はオーク1000体に女騎士が一人。三倍の腕力をもつというオークは人間の兵士の三倍以上の強さがある。つまり敵兵力は3000以上と思ってかかるべきだ。

 対してこちらは4000。ハマザーニー城塞にいる敵の本隊が状況に気づいて、挟み撃ちにしてくるよりも早く突破できるかは神のみぞ知ることだろう。

 暫しの静寂。


「アタシにもっといいアイディアがあるぜ」


 それを破ったのはリンゴを齧りながら話を聞いていたエヴェリナだった。


「ほう、なんじゃ?」


「この軍勢を囮にしてアタシらだけで逃げるのさ。メルヴィンはアタシが担ぐし、王女様もそこのヤスさんも聖痕持ちならこっそり逃げるくらいはできるだろ。そんな賭けをするよりずっと生存率高いと思うがね」


「……ほう」


「!」


 だいたい家康がシルヴィアに提案したのと似たような内容である。家康は感心し、シルヴィアは驚いた。

 学のなさと頭の悪さとは比例するものではない。学問を知らずとも、機転が利く人間はいる。彼女はそういう人種なのだろう。

 こういう提案をされてメルヴィンはどういう反応をするだろうかとそちらを見れば、意外に冷静なようで腕を組んでじっと話を聞いていた。そして、


「私は兵の命を預かる将だ。そのような真似はできん。逃げたいのならばお前が一人で逃げろ。咎めはしない」


 普段の快活さのない、優しい声色でそう言った。


「ふん。アンタならそう言うだろうね。分かってたよ、ったく……いいさ、アタシも付き合ってやるよ。最後までな」


「エヴェリナ……」


「あ、メルヴィン」


 メルヴィンの手がそっとエヴェリナの手を握る。エヴェリナは童女のように顔を赤らめた。


「一緒に生き抜こう」


「……うん」


「………………………ふんっ」


 無性に腹が立ったので、ケツを蹴り飛ばしておいた。


「ぐぉっ!? な、なにをされるのです家康殿!?」


「うっせいわい、見せつけやがって」


 若返ってからそっちの欲望も二十代に戻った家康だが、この数か月間ずっと勉強で、女を抱くどころの話ではなかった。

 シルヴィアや家庭教師のレイチェルなど近くに女はいたが、どれも気楽に手を出せる相手ではない。この世界で家康はまだ新兵だった。


「まったく」


 噛んだ爪をぺっと吐き出しながら、家康は剣を抜く。自分の世界と似た剣である曲刀は、よく馴染んだ。


「絶対に生き残るぞ」


 そう言って家康はにやりと笑った。


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[一言] この家康AAでやるとしたら太公望あたりが適任じゃなかろうか。 蹴り飛ばす辺りで脳内補正がかなり効いてきた
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