第7話 安土の動く城
メルヴィン・メルヴィル率いる4000の軍勢がこのハマザーニー城塞に近づいている。
城壁から祖国の地平を眺めながら、テオドリックは緊張で表情が強張るのを感じた。
どこまでも恥知らずで厚顔無恥になれるスカーレットが少しだけ羨ましい。自分は彼女ほど割切れはしない。こうして国と人類とを裏切っても、女々しく未練が残っている。
テオドリックはメルヴィンとはそれなりに面識がある。年齢も離れているし友人とは言えないが、若いメルヴィンからはそれなりに尊敬の念を向けられていた覚えがある。
そんなメルヴィンを自分はこれから殺すことになるだろう。
メルヴィンは国にも己にもなんら疑問をもっていない男だ。忠義者でもある。自分のように利己的な理由から寝返ることはないだろうし、スカーレットのように死の恐怖から命乞いするということも有り得まい。
「よう、テオドリック。腹は決まったか?」
テオドリックの内心を見透かすようにゴグリッブグが現れた。
「……とっくに決まっていたとも。目を逸らしたかっただけだ」
「そうかい。じゃあどうやって4000の援軍を潰す?」
「【1D10:2】
1.城に招き入れ、宴会の場で痺れ薬を盛る(スカーレット案)
2.ベターに伏兵
3.城に招き入れ、宴会の場で痺れ薬を盛る(スカーレット案)
4.城に招き入れ伏兵で殺す折半案
5.ベターに伏兵
6.ベターに伏兵
7.城に招き入れ、宴会の場で痺れ薬を盛る(スカーレット案)
8.ワンチャンかけてメルヴィルを説得する
9.城に招き入れ伏兵で殺す折半案
10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)
スカーレットはもうオークたちは撤退したと嘘を吐いて、城に招き入れてから、宴会の席で痺れ薬を盛り一網打尽にするという策を提案してきた。
だがこれは効率的であるが城内に4000の敵兵を招き入れるリスクがある。城塞内の様子から既にオーク側に寝返っていることもばれてしまうかもしれない。
4000の兵を相手に巧妙な策を講じるまでもないだろう。
「伏兵だ。ゴグリッブグはオーク兵1000を援軍たちがくる進軍路に伏せてもらえるか? その兵と、城塞から出撃した我々とで4000の王国軍を挟み撃ちにする」
ハマザーニー城塞は東西を山に挟まれた峡谷の地に聳えている。故に前方と後方とを挟んでしまえば、敵軍4000に逃げる場所はない。理想的な包囲殲滅戦を展開できるだろう。
問題はこのゴグリッブグが頷くかどうかだが、
「いいだろう。俺の手下の精鋭1000、全てお前に貸してやる。功績をたてたがってるスカーレットにでも率いらせるといいさ」
「……本当にいいのか? 貸してくれるばかりか、オークを人間の指揮下につけるなど」
「ああ、これはお前の戦だ。お前たちが主導してやらなきゃ意味がねぇだろう?」
そう言ってゴグリッブグは挑発するように笑った。
やはりオークが野蛮で考えなしというのは、王国の誤りだ。少なくともこのゴグリッブグは人間よりずっと狡猾で、人間心理を熟知している。
「今日のところは俺はこの城から高みの見物させてもらうぜ。お前の勝利を祈っているぜ。俺たちオークのためじゃねぇ、お前たちのために戦うお前らをな」
「分かっている、分かっているさ」
これが自分の決断の結果だ。今更引き下がることもできない。
テオドリックは胸に光っている王国の略章を引きちぎると、訣別するように足で踏みにじった。
メルヴィン率いる4000の援軍部隊はハマザーニー城塞のある峡谷に辿り着いた。
家康は【1D10:10】※10で伏兵に気づく。
「…………ふむぅ」
天下人にまで昇りつめた人間というのは、神がかり的な天運や直感力をもっている。
その天下人としての直感というものが、この峡谷を見た途端に警鐘を鳴らしていた。
「どうしたのですか、家康様?」
難しい顔で唸る家康に、シルヴィアはキョトンとしている。
この手の直感は理屈ではないが故に、他人に説明が難しいというのが難点であった。自分が総大将であるならまだしも、たかが副将のおつきの立場で『なんとなく不安だから』なんて曖昧な理由で行軍を止めることはできない。
「いや、この狭い峡谷に入って、もし出口を遮断でもされたらわしらは袋の鼠だと思ってのう」
「ああ。そういう戦いなら150年前のウリエル王国との戦いでありましたよ」
「どういう戦いだったんじゃ?」
「当時のハマザーニー城塞の司令官だったレオナルド将軍が、ウリエル王国側に偽って投降するという密書を送って、ウリエル軍を峡路に誘い込み、別動隊に後方を遮断したんです! この戦いでミハイル王国は敵の全軍を降伏させて、王太子まで捕らえる未曽有の大戦果をあげたんですよ!」
父上の名前もこのレオナルド将軍にあやかってつけられたんですよ、とシルヴィアは嬉しそうに語る。
だがシルヴィアの話を聞いて家康は冷や汗を流した。もしも万が一ここで150年前の再現が起きてしまったとしたら、自分は思いかけず得た第二の人生を早々に失うことになるだろう。
(……考えすぎであればよいが、ここは【1D10:4】」
1.メルヴィンに伏兵の可能性を伝える
2.メルヴィンに伏兵の可能性を伝える
3.家康「シルヴィア、わしを信じて急病になってくれ」
4.既に全軍が峡路に侵入し初めて止められないので、シルヴィアと二人で離れる
5.NINJA
6.家康「シルヴィア、わしを信じて急病になってくれ」
7.メルヴィンに伏兵の可能性を伝える
8.メルヴィンに伏兵の可能性を伝える
9.既に全軍が峡路に侵入し初めて止められないので、シルヴィアと二人で離れる
10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)
もう少し早く気付いていればメルヴィンに進言することで、岐路に入る前に止められたかもしれない。
けれど既に軍勢は岐路に侵入を始めていて、今から引き返させるのは難しい。となれば、
「シルヴィア、お主……いきなりで悪いがわしの判断に名誉を賭けられるか?」
「え、いきなりどうしたんですか?」
「答えてくれ。ここがわしとお前の分水嶺なんじゃ」
いきなりのことにシルヴィアは困惑していたが、やがて意を決したように口を開いた。
「はい。まだ会って三か月もたっていませんが、家康様は私の心を救ってくれました。名誉だって命だって賭けます」
シルヴィアが度を越して自罰的で献身的な性格で良かった。そうでなければ話はこうも簡単にはいかなかっただろう。
「よし。それじゃ少しわしとお主は軍を離れるぞ」
「て、敵前逃亡をするつもりですか!?」
「【1D2:2】」
1.事情を説明せず強引に
2.事情を話す
少し迷う。シルヴィアは自罰的だが、盲目な女ではない。
理由も説明せずに敵前逃亡しろと言っても、素直には従ってくれないかもしれない。仕方ないので家康は手早く事情を説明することにした。
「よいかシルヴィア。この狭路の出口付近に伏兵がいる可能性がある」
「ほ、本当ですか、それは!」
「いや確認したわけでもないし、可能性としても低い。万に一つってほど極小ではないが精々百に一つってところじゃ。この世界の単位で言うなら『1ぱ~せんと』じゃろう」
もしこれが命のかかっていない双六遊びかなにかなら、家康も1%の危険など無視して強行しただろう。
だが1%の可能性で死ぬのだとしたら、警戒するだけの価値はある。
「ならば早くメルヴィン将軍にも伝えないと」
「それはいかん」
「な、何故ですか!」
「今から全軍を引き返させるには時間がない。わしらがメルヴィン殿に伝えたとしても、その間に軍勢の5+【1D5:5】割は岐路ん中に入っちまうじゃろうよ」
ましてメルヴィンが家康が言ったからって素直に応じるかどうかも不明なのだ。
それに賭けるには分が悪すぎる。
「ですが……」
「なに。さっきも言ったがわしの悪い予感がぴたりと当たるのは『1ぱ~せんと』くらいなんじゃ。な? ちょいとばかり離れるだけでよいから。な?」
家康の説得【1D100:9】
シルヴィアの拒否【1D100:56】
なるべく大したことではないよう聞こえる風に、軽い口調で言った家康。
しかしシルヴィアは家康の軽い口調に隠した『重大さ』を聞き取ってしまった。神妙に首を横に振る。
「家康様が私のことを思って言ってくださったのは分かります。だけどそれなら尚のこと仲間をほって一人で逃げ出すことはできません」
「……考えは変わらんか?」
「はい」
「ならば【1D3:2】
1.わしだけ逃げる(バッドエンド)
2.一緒にメルヴィンのところへ行く
3.味方が生える
ここでシルヴィアを一人行かせて、自分だけで逃げたとする。そうすれば家康はこの場では助かるかもしれない。
しかしその後で待つのは王女を置いて一人だけ生き延びた臆病者という周囲の評価だ。それはこの世界において地に足のついていない家康にとって、取り返しのつかない汚点となるだろう。
家康がとれる選択は一つだった。
「わしも行くぞ、シルヴィア」
「よいのですか?」
「お前を置いて一人では逃げられんよ」
こうなった以上は仕方がない。この状況を最大限に利用し生き残る。
いや生き残るだけでは足りない。必ず今後に繋がるよう徳川家康の名前を上げてみせる。
空を見上げた。世界は違うというのに、お天道様は変わらずそこで世を照らしていた。