第6話 もののふ姫
メルヴィン・メルヴィル率いる援軍は王都を守る軍より割かれた【1D100:40】×100の軍勢であった。
オークの軍勢が6000もいるのに4000ぽっちで大丈夫かと思うだろうが、城塞都市ハマザーニーにいる戦力と城塞そのものの防御力もあるのだから、寧ろ過剰なくらいだというのが大方の見方だった。
そしてシルヴィアに連れられ家康は、援軍総大将であるメルヴィン・メルヴィルと面会することになった。
特に秀でたところはないが、特に駄目なところもない、なんでもそつにこなす将と評判だが……
【1D10:1】
1.家康に対し好意的
2.誰に対しても柔らかく対応する優柔不断な人物
3.家康に対し好意的
4.家康に対して警戒感
5.家康に対して警戒感
6.誰に対しても柔らかく対応する優柔不断な人物
7.家康に対し好意的
8.よくも悪くも未知数の家康は戦力には数えず、いるだけの客として対応
9.国を救う英雄と滅茶苦茶崇めてくる
10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)
家康にとって幸いなことにメルヴィン・メルヴィルは好意的だった。面会したメルヴィンは柔らかく微笑むと、握手を求めてきた。
断る理由もないので家康も努めて無害そうに応じる。
「貴方が『召喚の儀』にて招かれし英雄殿ですな! お噂はかねがね! 聞けば召喚されてから、書庫にずっと篭られたほどの勤勉家とか!」
「いえいえ。わしを召喚してくださった陛下の御恩に報いるため、右も左も分からぬ蒙昧っぷりをなんとかしたかっただけですよ」
「それに謙虚でいらっしゃる! 出身など関係ありません! 此度の戦いでは共に陛下の臣として! 陛下とミハイル王国の勝利のために戦いましょう!」
豪放にして快活。上官にも同僚にも部下にも、ある種の親しみを抱かれそうな男だった。家康自身もメルヴィンに面会する前に抱いていた警戒心が薄れていくのを感じる。
メルヴィンがこの調子なら上手い具合に自分の過去の経歴を語れば、シルヴィアのお付きなどというふわっとした地位ではなく、もっと実権のある立ち位置につくことができるかもしれない。
(さて、どうするか)
【1D10:1】
1.自分が歴戦の武将であることをアピール
2.いや、ここはシルヴィアのおつきとして様子見だ
3.自分が歴戦の武将であることをアピール
4.勝利が確定しているような戦いでこそ慎重に、と助言
5.いや、ここはシルヴィアのおつきとして様子見だ
6.勝利が確定しているような戦いでこそ慎重に、と助言
7.自分が歴戦の武将であることをアピール
8.いや、ここはシルヴィアのおつきとして様子見だ
9.勝利が確定しているような戦いでこそ慎重に、と助言
10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)
「ははは、しかしこうして戦に出るのは――――実に一年ぶりですなぁ」
当たり前だが前の世界の鎧甲冑はないので、この世界の軽装に身を包みながら家康は言う。
この世界の鎧も悪くはないのだが、どうにも着心地が悪い。今度余裕がある日に、職人に前の世界風の鎧を作ってもらおうと決めた。
「一年前? 家康殿がこの世界にこられたのはつい数か月前では?」
「メルヴィン将軍! 家康様は前の世界で『将軍』をしておられたのですよ! 確かセイイタイショウグンでしたか?」
いいところにシルヴィアが話しに入ってきてくれた。
本人は特別気を回したわけではあるまい。だが家康はシルヴィアの性格なら、きっとこう言ってくれると思っていた。面会にシルヴィアも同行してもらった甲斐があったというものである。
「セイイタイショウグン? 将軍というのは分かるのですが『セイイタイ』というのはどういう意味ですかな!?」
「蝦夷――――我々の国の北方を征討すると書いて征夷、タイショウグンはそのまま大将軍のことでござる」
「「だ、大将軍!?」」
メルヴィンとシルヴィアが揃って驚愕した。この国においても大将軍とは武官の最高役職として存在している。異世界とはいえ目の前にいる人間がそれだと名乗ったのだから、驚くのも無理はあるまい。
もっとも家康の世界において大将軍とは武士の頂点に立つ者以外に、日ノ本の統治者であるという意味合いが強かったのだが、そこまでは言わないでおいた。シルヴィアにはいずれ話すかもしれないが、それは今ではない。
ちなみにミハイル王国の現大将軍は【1D10:8】
1.人生にも軍人にも引退に片足つっこんだ老人
2.不在
3.人生にも軍人にも引退に片足つっこんだ老人
4.いる
5.不在
6.いる
7.人生にも軍人にも引退に片足つっこんだ老人
8.女騎士の騎士団長が兼任してる状態
9.王弟
10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)
ちなみにミハイル王国の大将軍は前任者が病で急死してしまった結果、女騎士の騎士団長が臨時に兼任している。
あくまで一時的なものだろうが、もしかしたらミハイル王国の人材は乏しいのかもしれない。
「異世界で将軍であったとは聞き及んでおりましたが、よもや大将軍ほどの高位につく御方だったとは。年も私より若いでしょうに……」
「いや異世界召喚の影響で若返っておりますが、わしは75歳ですぞ」
「な、成程。それは道理で……」
メルヴィンは合点がいったようだった。二十歳そこいらの若造が大将軍だと名乗るよりも、見た目二十歳の七十五歳が大将軍と名乗るほうが説得力はある。
そして家康はメルヴィンが自分を見る目が、客に向けるそれから頼るような色に変わったことを見逃さなかった。
「メルヴィン殿。わしはこの世界には来たばかりだが、元の世界ではそれなりに場数をこなしておりました。わしはシルヴィア様……」
「ンンっ」
メルヴィンの前なので家康がシルヴィアを様づけで呼ぶと、彼女はわざとらしく咳払いをした。
自罰的傾向のある女だと思っていたし、後々の為に自分に好感を抱くよう振舞いもした。だがここまで乙女めいた、或いは少女めいたことをされると、あんまり仕事をしない良心が洗われる気を覚えた。きっと錯覚だろう。
「シルヴィアの個人的おつきという立場ですが、メルヴィン殿はどうかわしのことをただの部下と思って存分に使い倒してくだされ」
「家康殿……! なんと天晴れな!」
感極まったメルヴィンは、なんと涙を流していた。そして【1D10:8】
!1D10
1.そんな人がついておられれば姫殿下も安全ですな(大誤算)
2.ただの飾りでしかなかったシルヴィアに1000の兵を任せる
3.ただの飾りでしかなかったシルヴィアに1000の兵を任せる
4.でもいきなり編成を変えることはできないし(しゃあないね)
5.そんな人がついておられれば姫殿下も安全ですな(大誤算)
6.ただの飾りでしかなかったシルヴィアに1000の兵を任せる
7.そんな人がついておられれば姫殿下も安全ですな(大誤算)
8.でもいきなり編成を変えることはできないし(しゃあないね)
9.軍師として起用
10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)
「家康殿の心意気、このメルヴィン、感動いたしましたぞ! この戦が終われば必ずや家康殿を重用するよう働きかけてみましょう!」
「メルヴィン将軍。そんな家康様を私なんかのおつきで腐らせるのは忍びないのですが」
本当に申し訳なさそうにシルヴィアが言うと、メルヴィンは残念そうに首を振った。
「私もそう思います。ですが軍の編成は既に終わっており、今から家康殿を抜擢すれば、編成をやり直さねばなりません。無理な編成をすれば、戦で隙が生まれるやもしれませぬ。将としてそのリスクを犯すことは、できかねまする」
「メルヴィン殿の言う通りじゃ、シルヴィア」
本音を言えば家康は久しぶりの戦で、兵を率いて戦いたかった。
大阪の陣で真田信繁と毛利勝永に殺されかけ、豊臣家を完膚なきまでに滅ぼした時の血の熱さ。それが家康の体を駆け巡り始めている。しかし好戦的な家康とは別の冷静沈着な家康は、メルヴィンの言うことが正論であると認めていた。
「戦において将に求められるものの一つは、まず信頼よ」
「私は家康様を信頼しています。メルヴィン将軍も」
「この場合の信頼は兵の信頼じゃ」
「兵?」
「メルヴィン殿は異世界召喚された者は、肉体が全盛期のものへ若返るということを知らんかった。国の将軍の地位にある御方でさえそうなんじゃ。もしや一兵卒に至っては『異世界』というものの存在すらよう分かっておらんのではないか?」
「それは……そうかもしれません」
図星だったらしくシルヴィアは顔を俯かせた。
「ならばやはりわしが将をするのは無理じゃ。わしみたいなよう分からん若造が、いきなりお前達を指揮する将じゃと言われても、兵士は命を賭けてはくれんじゃろう。それでは勝てぬよ」
実のところもしも将を任せられるようなことがあれば、兵を従わせるための策は幾つか用意していた。
だがそれは言う必要のないことだ。兵を得られないなら、今は見所のありそうな将であるメルヴィンの好感を買うほうが優先である。
「申し訳ありません、メルヴィン将軍。未熟な私が偉そうなことを言ってしまって」
「い、いえいえ! こちらこそ姫殿下に無礼なことを言ってしまいました!」
互いに謝りあう二人に家康はぱちぱちと拍手をしてみせる。
「メルヴィン殿はまことにご立派であらせられる。二十代で将の地位になれば、大抵は血気にはやるというのに、メルヴィン殿は戦に臨むにあたり実に冷静じゃ。シルヴィアも己が間違っていると分かれば、直ぐに謝ってみせる素直さがある。ミハイル王国は安泰ですなぁ」
シルヴィアは恥ずかしそうに顔を赤らめ、メルヴィンは誇らしそうに胸を張る。
そして家康は腹の中でしめしめと笑った。