第12話 日輪の子
王都アポロニアは上から下まで大騒ぎだった。
北のハマザーニー城塞、西のリグーリア城塞。この二つの難攻不落の城塞こそが、嘗ての四大国でミハイル王国が唯一生き残った最大の理由であると、民衆は信じてきた。そのうちの一つがオークの手に落ちたのである。慌てて王都を脱出しようとする者、官憲に詰め寄る者、ひたすら絶望して震える者、酒に逃げる者、王都は混沌の坩堝となった。
そんな中にあってミハイル王国国王レオナルド・ミハイルは【1D10:2】
1.諦めムード
2.会議
3.諦めムード
4.逸早く逃げた
5.こーふっく! こーふっく!
6.会議
7.会議
8.会議
9.逸早く逃げた
10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)
幸いレオナルド・ミハイルは現実逃避して酒に逃げるほど愚かでも、逸早く逃げ出すほど臆病でもなかった。
王都アポロニアにいる文武百官を集め、玉座の間にて会議を開いた。
第一王子にして王太子ルーカス、宰相のパトリック、大将軍代理で騎士団長のアルベルタと錚々たる顔ぶれが一堂に会している。その中には狭路の戦いにおいて最高位の勲章ものの活躍をした英雄で、異世界より召喚された英雄でもある家康の姿もあった。
家康は周囲を見渡す。国王レオナルドはどうにかこの会議を主催しているが、目に見えて狼狽している。ハマザーニー城塞陥落がよっぽど信じられないのだろう。もし敵の計略通り狭路で全滅することになったら、案外王都にオークが現れるまで城塞陥落を信じなかったかもしれない。
既に死線を超えているシルヴィアやメルヴィンは比較的落ち着いている。他に平静さを保っているのは【1D10:3】
1.そんなものはない
2.王太子
3.宰相
4.騎士団長
5.そんなものはない
6.王太子
7.宰相
8.騎士団長
9.メイド(大丈夫か、この国?)
10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)
責任感の強そうな王太子は、危急存亡の秋に動揺しきっている。家康は少しだけ息子で二代目将軍となった秀忠を思い出した。
騎士団長のアルベルタは気丈に振る舞っているようでいて、何をしていいのか分からなさそうにしている。器ではないのだろう。
その中で一人平静さを保っているのが宰相のパトリックだ。パトリックは年齢は【1D100:31】歳(最低保証30)。ここまで若くして宰相の地位に昇りつめたのは【1D10:8】だからだ。
1.王の甥(つまり王太子の従兄)
2.この国で一番の貴族の出身で、本人も優秀だから
3.宰相も世襲制だから
4.宰相も世襲制だから
5.王の甥(つまり王太子の従兄)
6.この国で一番の貴族の出身で、本人も優秀だから
7.王の甥(つまり王太子の従兄)
8.この国で一番の貴族の出身で、本人も優秀だから
9.王太子の抜擢
10.!1D2(1.クリティカル 2.ファンブル)
パトリックはミハイル王国の貴族で序列一位のベルケル公爵家の出身で、更には本人も極めて優秀だった。隔絶した家柄と能力の両翼が、彼を31歳にして宰相の地位にまで昇りつめさせた理由である。
パトリックはきびきびと王にかわって会議を進めていった。
「今日裏切り者のテオドリック・カリクラテスよりこのような文が届きました」
テオドリックがスカーレットと共に国を裏切り、オーク側についたことは既に知られている。
裏切り者が、恥知らず、なんということをしでかしてくれたのか、という声が次々に漏れ始めた。
パトリックは私語を慎ませるために咳払いを一つしてから、
「『オーク軍は援軍4000を得て総数は1万。オークは人間の兵士【1D5:1】倍(最低保証3)に相当するため、5万の軍勢と同じ。
加えて我々ハマザーニー城塞要塞の兵士が【1D10:2】万。合わせれば7万の軍勢です。速やかに王都を開城し、国王陛下に置かれてはハマザーニー城塞までこられ降伏されるよう。ゴグリッブグ様は陛下がそうなされば、ミハイル王国滅亡後に一定の礼節をもって遇すると私に約束してくださりました。
これは陛下の家臣だった者として、最低限の義理立てだと思って頂きたい。どうか懸命なご判断を』」
「ふざけるなっ!!」
そう激怒して玉座のひじ掛けを殴りつけたのは国王レオナルドだった。他の者たちも腸が煮えくり返っているようで、顔を真っ赤にしている。
無理もない。手紙では最低限の義理立てと書いていたが、これは最低の義理立てだった。
ここまで無礼だと降伏勧告ではなく宣戦布告、或いは挑発目的なのではないかと邪推してしまう。
「陛下。このような卑劣は断じて許せません! 私に決戦をお命じください!」
意気軒昂に騎士団長のアルベルタが叫んだ。
ちなみにアルベルタのスペックは、
【統率】【1D100:57】
【武力】【1D100:74】×【1D5:5】
【政治】【1D10:3】
【魅力】【1D100:91】
絶世の美人で『聖痕』の素養もずば抜けて高いアルベルタは、数多くの英雄的逸話をもつ。
しかし一方で政治に無知の脳筋と心のない者たちに陰口を叩かれており、更に悲しいことにその陰口は的を射ていた。アルベルタの威勢のいい言葉に追従する者は、文官は勿論武官の中にすらいなかった。
「アルベルタ団長。王都の兵力は【1D5:4】万しかいません。これで1万のオークと、テオドリック率いる2万の兵と決戦するのは無謀です」
代表して宰相のパトリックが冷然と告げる。が、アルベルタも引き下がらない。
「戦いは数だけで決まるのではない! 大事なのは士気だ! 装備だ! 練度だ!!」
「テオドリック率いる兵は彼の裏切りに内心反感をもってる者が殆どでしょうから、確かに士気は低いかもしれませんね」
「だろう!」
「しかし練度と装備に関して言うならば最前線である城塞に配備された兵士のほうが、王都にいる兵より上です」
「むぐっ! だ、だが……」
「付け加えるなら、オーク共を率いるのはオークの名将ゴグリッブグであり、王都を前に士気は天を衝くばかりでしょう。決戦を挑んでも負けるとは言いませんが、勝てる目は低いでしょうな」
「……――――む、むぅ」
完全に論破されたアルベルタは黙り込んでしまった。
他の者たちも黙り込んだのを確認するとパトリックは王に向かって進言する。
「陛下。直ぐに副都市のプレイアスまでお逃げください。プレイアスは西はリグーリア城塞、東にはヌワール川が流れており守るに易い地です」
「宰相! それは最終防衛線を下げろということか!?」
これに驚いて声をあげたのは王太子だった。パトリックは眉一つ動かさずに頷く。
「その通りです殿下。ハマザーニー城塞が陥落した以上、この王都は戦略的に落ちたも同然なのです。であれば例え国土の三割を失ったとしても最終防衛線を下げるしかないでしょう。なにを置いても先ず陛下に王都を脱出していただき、その次に民の避難を進め――――」
ここだ、と家康は判断した。家康はぬっと前に出てパトリックの前に立つ。
「待たれぃパトリック殿」
「なんですかな家康殿」
「オークが一番欲しとるのは『人』じゃ。人がいなければオークは増えられんのだからのう。そのオークが民衆が王都から脱出するのを、みすみす見逃してくれるか?」
「見逃さないでしょうな。ですが策はあります。犠牲は出ますが、王国が守れる程度の人間は脱出させられますよ」
「……成程。お主も悪い男じゃな」
家康にはなんとなくパトリックの策が分かった。
王都の民衆全員を副都市へ避難させるとなれば、その移動速度はかなり遅いものとなるだろう。当然オークたちに追いつかれ殺され、女たちは攫われる。だがそれでいいのだ。民衆が犠牲になればなるほどに時間が稼げる。その時間があれば国を守るのに必要な女騎士や兵士などを、安全に副都市へ避難させることができるだろう。
脳筋だが大将軍で騎士団長なアルベルタあたりを、一番後方に残して一緒に犠牲にすれば、民衆を盾にして逃げたという汚名も回避できる。
しかもこの策の巧妙なところは、国土が減ることで予想される食糧不足を回避するための口減らしが同時にできるということだ。
「…………」
パトリックは何も答えない。家康はこの無言を肯定だと受け取った。
「それはそれで良い策じゃろう。否定はせんよ。わしが王であればお前の策を良しとしたかもしれん。だが今のわしは一介の将なのでな。その策は通せんよ」
「これが国を長らえさせる最も確実な策です」
「そうだとも。だがその上でわしは通さぬと言っておる」
「そんなことは――――」
「させない、とでも? それを決めるのは宰相閣下ではないじゃろう」
そう言って家康は玉座のほうへ向き直る。
パトリックは確かにこの国の宰相だ。だがミハイル王国は国王を頂点に置く国であり、最終決定権は国王にある。だから家康にはパトリックを説き伏せるつもりなどなかった。最初から狙いは国王ただ一人だ。
「陛下。わしに二万の兵と王都の全権を預けてくれませぬか? さすれば陛下は勿論、この王都の全ての民衆が余裕をもって逃げられるだけの時間を稼いでみせましょう」
「まことか!?」
「まことですぞ、陛下。思えばわしがこの世界に召喚されたのは、今日この時のためだったのかもしれませぬなぁ」
わざとらしく死を受け入れた老人のように達観した目をする家康。つい半年ほど前にしていた表情なので簡単に再現できた。
効果は覿面であった。家康が実際に殿軍を果たしたばかりだというのも追い風となった。群臣たちが次々に家康の進言に賛成していく。
パトリックは慌てて国王に直訴して却下させようとするが、こういうのは言ってしまったもの勝ちだ。
「家康の進言や良し。万事、家康に任せるものとする」
「ははーっ! 身命を賭してお役目を果たしまする」
王に跪きながら、家康はにやりと笑った。
博打の始まりである。
今日は一番難産だったでござるよ薫殿……