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桜の花
コツコツコツッ
桜の花が舞う季節に、風のように走り抜けていった彼女に気づかない者がいるのだろうか。
少なくとも僕は、一瞬で彼女に見惚れてしまった。
だって、彼女の目には涙が浮かんでいたから。
なんて、こんな始まり方の小説は誰が読みたいと思うだろう。
本当、文才能力のない私にこんなことを任せる委員長につくづく嫌気がさして、ため息をついた。
「紀野さん、もうすぐ閉館時間になるけど…」
「え?もうそんな時間なんですか?」
「えぇ、だってほら…」
キーンコーンカーンコーン
「あ、ほんとだ。教えてくれてありがとうございます」
「いえいえ、遅くまで委員会の仕事お疲れ様でした」
そう言って本棚の整理をしている図書館司書の山下先生。
「まぁ、1時間前に始めたのに全然進まなかったんですけどね」
そう笑った。
「でも、取り組もうとしただけ偉いと思うわ」
「そうなんですかね。」
「そうよ?さぁ、早く帰った方がいいわよ。そろそろ親御さんも心配するわ」
「ありがとうございます。では、また明日」
そして、山下先生に背を向けてスクールバッグ片手に家に帰宅した。