08.駆け出し冒険者、先輩冒険者にかわいがられる
「ここがジハーダの冒険者ギルドかー」
盗賊団討伐の指名依頼を受注したオレは、ミカミ~ジハーダ~ミカミ~ジハーダととんぼ返りを繰り返して集合場所に指定されたジハーダの冒険者ギルドの前に立っていた。
ちょうどお昼の時間帯、依頼は明日の予定だが、すでにシンカータ中から数パーティーの冒険者が集まっているようだ。
「でも本当に大丈夫?私もコロもオープンで」
「ま、なるようになるさ」
ミーナは心配そうにオレを見ていたが、オレの考えは固まっていた。
ミーナの存在も、コロの存在も、ギュピちゃんの能力だって一つ間違えばトラブルのもとになりかねない。隠し通せるのなら隠したほうがいいのかもしれない、でも、わかる人にはいずれバレるだろう。それならいっそオープンにして、もしも降りかかる火の粉があれば振り払えばいい。それだけの話だ。なぜって、色々考えるのが面倒くさいから。
(やっぱりまだガキンチョなんだから)
「うるさいわ!」
2人?と2匹はギルドの門をくぐっていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ギルドの中はごった返していた。昼間っから酒の匂いがプンプンしてくる。久しぶりの大型依頼に皆色めきだっていた。そんな中にやってきた魔物使いと思しきまだあどけなさの残る少年に、オレなんだけどね、一瞬注目が集まった。
「ヒュ~」
「ここはボウヤのくるようなところじゃないぜ」
冷やかしの口笛が聞こえるがオレは無視して受付へと歩を進めていく。
あたりにはおおよそ20人程度の冒険者がたむろしていた。勇者とやらがいるかどうかはちょっとわからない。そのかわり、
(じゅ、獣人だー!)
初めて見た、獣人。オレよりも小柄の女の子で全身モフモフしている。キジトラのネコ獣人のようだ。
獣人の冒険者はこちらを、たぶんコロの事だと思うが、一瞥すると興味なさそうにまたそっぽを向いた。
今度は悪そうな顔の男がサッと足を引っかけてくる。軽くいなすとオレはお得意のニッコリ営業スマイルで受付嬢に言った。
「C級冒険者のボーイです。指名依頼を受注してきました」
「は?」
一瞬ギルド内がざわっとするが、皆再び聞き耳をたて動向をうかがっているようだ。
こんな子供がC級とくれば、面白くならない訳がない。受付嬢さんはちょっと驚いた様子だったが、その後は大人の対応をしてくれた。
「ボーイさんですね、合同受注参加の件、ミカミのギルドより連絡いただいています。明日の朝8時までにまたここに集合してください、詳しい説明があると思います。がんばってくださいね」
受付嬢さんも微笑み返しでそう言った。しかし、ギルドの受付嬢ってなんでどこいっても美人なんだろう。オレは真新しいギルドカードを確認してもらうと誰かがポンと肩に手をやった。さっき足を出した悪そうな顔をした男だった。
「たまげたなガキンチョ、その年でC級とは。どうだ、オレたちのパーティーに入らないか?悪いようにはしないぜ」
「間に合ってます」
オレは心の中でキタキターとガッツポーズをした。これこれ、一度体験してみたかったんだ、いじわる先輩冒険者による新人いびり。
「だったらその白狼だけでもおいていけや。どうせそいつの手柄でC級になったんだろ」
「コロのおかげ、ってのは否定しないけど、この子白狼じゃなくて銀狼だから」
「銀狼!?」
ギルド内が再びざわっとした。
「だったらなおさらおいていけや。ガキンチョにはもったいないぜ」
男はこぶしを振り上げると、有無を言わさずオレに殴りかかってきた。オレはわざと紙一重で男の攻撃をかわすと、男は足がもつれて勝手にひっくり返った。
「どわっ、このガキ、よくもやりやがったな!!」
男はよほど悔しかったのか、今度は懐から刃渡り30センチ近くあるナイフを取り出した。
(やっちゃえやっちゃえ)
(うっせーよ!)
ミーナがあおってくるので、オレもロングソードに手をかけ身構えた。と、今度は誰かに首根っこをつかまれ、動けなくなった。オレにケンカを売ってきた男も同じだった。2人を捕まえたのは身長2m以上、体重も150キロはあろうかという大男だった。
「おいおい、それ以上は外でやってくれねーかなー。酒がまずくなるぜ」
「べ、ベイダーさん、す、すみませんでしたー」
大男、ベイダーはどうやら顔役らしい。オレにケンカを売った男はペコペコしながら自席へと戻っていった。
「どうも、助かりました」
「助かった、って言うよりもいいとこで邪魔されたって顔してるぞ、ボウズ」
ベイダーはニヤリと笑って言った。
「ちょっと顔貸してくれねえかな。今度はオレがかわいがってやるぜ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
10分後、オレたちは地下訓練場で模擬戦と言う名の新人いびりをするために対峙していた。
オレは木刀、ベイダーはバトルアックスを模した模擬刀を手にしている。
(ま、お約束だわな・・・)
展開は予想していたが、この後どうすべきかまでは全然考えていなかった。こういう時って勝った方がいいのかな?それとも負けた方がいいのかな?
「オレはベイダーに銀貨8枚だ」
「新人に銀貨2枚!」
(セコっ、かけ金セコっ!)
(田舎のギルドだしなー)
「両者準備はいい?これはあくまで模擬戦、明日の依頼に影響するような事のないように!行くわよ、レディーゴー!」
渋々審判を務める受付嬢さんがコールした。作戦考え中のオレに向かって、ベイダーはゆっくりと歩み寄ってくる。
「そう言えば名乗ってなかったな。オレはベイダー、B級冒険者だ」
「ボーイです。C級です。お手柔らかにお願いします。」
「随分落ち着いているな。こっちから行かせてもらうぞ!」
ベイダーは模擬刀をブンブン振り回しながら突っ込んできた。まさに力任せの攻撃だが、
「うわっ、と」
息つく暇もなく攻撃してくるベイダーにオレは防戦一方、よけるのが手一杯となっていた。一撃でもヒットすれば吹っ飛ばされそうだ。
ガシッ
試しに木刀で受け止めてみた。攻撃の重さで腕からつま先までジ~ンともの凄い痺れがくる。
(これがB級冒険者の実力か)
オレはすかさず距離をとった。2発も食らったら腕が使い物にならなくなる。
「へいへい、新人ビビッてるよー」
「ベイダー遊んでないでとっととやっちまえー」
ギャラリーの罵声にオレは苦笑いをした。
「どうした、ボーイ、逃げてばかりじゃ敵は許しちゃくれないぜ」
再び近づいてくるベイダー。
(どうすんの?このままやられちゃうつもり?)
(それもいいけど、結構痛そうだしなー)
((!!))
オレとミーナは同時に突き刺すような視線に気がついた。興奮して新人いびりを観ているギャラリーはまだ誰も気づいていないのだろうか。訓練場入り口付近に立つ一人の男、只者ではないオーラがバンバン出まくっている。それは熱気と言うよりほとんど凍気と言ったほうがいいものだった。青みがかった白髪は肩よりも長く、そして一番の特徴はその目元を覆ったゴーグルのようなアイマスクだった。
(シ〇ア?)