07.見習い冒険者、駆け出し冒険者になる
「「「「「どうもすみませんでしたー!」」」」」
翌朝ホテルのロビーでオレを迎えたのは額が床につくくらいの勢いで土下座する「地を駆ける白狼」のメンバーと、何故か便乗して謝っている宿屋のアンナだった。
さすがに神父とシスターはこの場にはいないようだ。
「もういいですって。皆さん昨夜は魔が差したってことで・・・」
「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」
ミカミへの復路の乗合馬車には乗客はいなかった。皆ジハーダに用があるか、あるいはさらに乗り継いで領都シンカータへと向かうかなのだろう。
(そう言えば・・・)
昨日同乗していた若い女性客、お姉さん?の方が盗賊討伐をフォローしてくれた、あの2人連れはどうしたのだろう。妹?の方はちょうどオレと同じくらいの年齢か。ちょっとかわいかったなあ・・・
「かわいい娘ならここにもいるじゃない!」
プンスカしながらミーナは言った。
「まあ、ミーナには一応世話になった、のかな?」
「そこは世話になった、ありがとう、でしょう?」
「ああ、そうだな。ありがとう」
「どういたしまして、って、ヤケに素直じゃない。」
ミーナはちょっぴりテレているようだ。
「さてと、私もそろそろ」
「どこ行くの?」
「ボーイが私と一緒にいたいのはわかるけど、こちらにも色々事情があるの」
事情についてはミーナは最後まで話してはくれなかった。ただ、ずっと前から、そしてこれからもずっと1人で生きていくつもりらしかった。
「ミーナさえよければオレたちと一緒に・・・」
一緒に行こうと言いかけてオレはやめた。たとえミーナが『認識阻害』を持っていたとしても、オレと一緒にいればどうしてもいつかは誰かに見つかるリスクがある。ミーナだってわかっているハズだ。
「ミーナ・・・」
「縁があればまたどこかで会えるから。じゃあね。さよならボーイ」
「ああ、元気でなミーナ」
ミーナはわりとあっさりと、振り返ることなく飛び去って行った。
(縁があれば、か)
「おーい、ボーイ、何やってる?帰りの馬車が出発するぞー」
オレはミカミ行きの馬車へと乗り込んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
(で、どうして一緒の馬車に乗っているわけ?)
(だから何回も言ってるじゃない、コロちゃんの魔素がもう一度味わいたくなったって)
(だったら最初からついてくるって言えばいーじゃんか)
ジハーダの町を出て10分、ミーナはオレたちの馬車の中にいた。コロに寄りかかるように腰かけ、モフモフを堪能している。
馬車には朝帰りのタカさん、ノリさん、それとオレのポーションでケガは完治したが念のため安静にしているマイクさんが同乗しているため、脳内で会話をしている。
何はともあれ、しばらくはミーナも道連れになるようだ。村には若者がいない為、ため口で話の出来る相手はもしかしたら初めてかもしれない。
「しかし、ボーイの作ったポーション、すごい効き目だな。たった一晩で全身打撲がウソのように治ったよ」
治った腕をグルグル回しながらマイクさんは言った。
「ばあちゃん直伝の秘薬ですから」
村ではばあちゃんから薬の調合を、隣のマードックさんから剣術を、その他生きる術をいろんな人から学んできた。そのせいかなんとなく感じていた、もうすぐ村の人たちとの別れが来るであろうと。
帰りの旅は大きなトラブルもなく、定刻にミカミの町に到着した。
「ボーイさん、おめでとうございます。実技試験も合格です!今日から晴れてミカミのギルド所属の冒険者になりましたー!」
そう言いながらマリアさんは嬉しそうに冒険者カードをオレに手渡してくれた。
「どもです。しかし冒険者になるのもけっこう大変なんですねー。オレはてっきり誰でも簡単に登録できるもんだとばかり思ってましたよ」
「は?何言ってるんです?登録は誰でもできるに決まってるじゃないですか。ボーイさんは白狼を、本当は銀狼だったそうですが、コロちゃんを使役している時点で今回の試験はC級昇格のための飛び級試験だったんですよー」
「だから、そーいう大事なコトは先に言って下さいよ!」
オレは知らぬ間にC級の駆け出し冒険者になってしまったようだ。
「相変わらず天然なんだからマリアさんは」
「とにかく、おめでとうボーイ。これからは正式に冒険者だな」
「お手柔らかにね」
「ありがとうございます」
『地を駆ける白狼』、『シャープ兄弟』に歓迎され、オレもまんざらでもない。ギュピちゃんとコロもなんとなく楽しそうだ。ミーナはプラプラどっか行ってるみたい。
和気あいあいとしているところにギルドマスターのレイスさんがやってきた。
「皆、依頼お疲れ様。ボーイ、これからもよろしくな。そこで早速で悪いんだが君に指名依頼が来ているぞ」
「指名依頼?」
「ああ、C級以上限定の依頼だ。君たちの捕縛した盗賊、あいつがが盗賊団のアジトを吐いたそうだ」
「アジトってことはまだ仲間が」
「やつらはシンカータ領最大の盗賊団、ブッチャー盗賊団。わかっているだけで団員は100人をくだらない」
「マジか」
「そして今回の依頼は盗賊団の討伐。北方騎士団と現在シンカータ領にいるすべてのC級以上冒険者による合同受注となる。北方騎士団は騎士団長自ら盗賊団討伐の指揮にあたるそうだ」
「うわ、大掛かりですね」
オレは自分の単独指名じゃないとわかりちょっとホッとした。昨夜のように理不尽な勧誘や引き抜きだとちょっと嫌だったから。しかし北方騎士団長自らお出ましとは。名前はデューク・・・二つ名は確か『氷の貴公子』
「それからあくまで噂だが、冒険者の中に『勇者』もいるらしい」
「情報多いよ!最終回か!!」