49.(閑話)アカネの願い
本日2本目です。
私は小さい頃、昼間の世界と言うものを知らなかった。暗くなっては起き、明るくなっては寝る、そんな日常だった。暗闇の中、毎日訳の解らない特訓とお勉強の繰り返し。別に嫌だとか寂しいとかではない、おばあちゃんやみんなは優しくしてくれたし、それにいつも大好きなシラヌイお姉ちゃんが一緒だったから。
8歳になった朝、私の生活スタイルは逆転した。明るくなっては起き、暗くなっては寝る、今では当たり前の生活がとても新鮮だった。
そんなある日、1人の少年と出会った。自分と同じくらいの子供を見るのは初めてだった。
「おばあちゃん、あの子はだあれ?お友達になってもいいの?」
「あの少年はボーイ第3王子、あなたがお仕えしていくお方です。話すことはもちろん、姿を見せる事すら許されません。これからあなたはボーイ王子の『影』となるのですから。」
「そうなんだ・・・」
それからの特訓と学習はすべてボーイ様にお仕えするためのプログラムに変わる。ある時はボーイ様と同じもの、ある時はボーイ様のお役に立てるものを学んでいった。子供には厳しいスケジュールだったが、目標が明確になった今、それは苦痛ではなく、むしろ喜びでもあった。それから2年、10歳になった私は正式にボーイ様の『影』となった。
ボーイ様の影としての生活は楽しかった。身を潜めながらお守りするのは、子供の私にはかくれんぼのようなものだったから。
周りが大人ばかりのせいか、ボーイ様はお歳の割にちょっぴり大人ぶるところがあった。それからちょっぴり意地っ張りで、ちょっぴり寂しがりやで、ちょっぴり甘えん坊で、それでいてがんばり屋さんで・・・いつの間にかボーイ様の背中を追いかけている自分に気付き、1人赤面した事もあった。
(私、ボーイ様の事が好きなんだ・・・)
影が主に恋をするなんてあり得ない。でも、だからせめてこれくらいはお願いしてもいいですか?
「生涯影としてボーイ様のお側でお仕えしたい」と。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
見習い冒険者となったボーイ様は行動範囲が広がり、お守りするのも大変になってきた。スライムのギュピちゃんと、銀狼のコロちゃんが仲間になった時なんかはいつお助けするべきなのかヒヤヒヤしながら見守っていたっけ。
晴れて見習いが取れて冒険者になって間もなく、その日は唐突に訪れた。私達の育った最北の開拓村が『素晴らしき再生の会』の急襲で全焼してしまったのだ。
この事件がきっかけでボーイ様は自分が第3王子であると自認し、シラヌイ姉さんと私の存在も知られてしまった。影としての役割が終了したのだ。
「あの、ボーイ様、私達は・・・」
「2人とも今までありがとう。もう自由に生きて構わないよ。でも、もしよかったらこれからも一緒にいてくれないか?オレ、2人の事結構好きだから・・・」
嬉しかった。影でなくなった私でもいいと言ってくれたから。これからも一緒にいられるから。
こうして私達は冒険者パーティー『最後の希望』として旅に出た。
「ボーイ殿にはちょっと興味があるかな?」
超絶美形エルフのマルガリータさんが呟けば
「おにいちゃんはユキとけっこんするの!」
幼女魔族ユキちゃんが堂々と宣言し
「あのくらいの年の男の子はおっぱいにしか興味がない」
シラヌイ姉さんまで対抗意識を燃やす始末。
最後の精霊ミーナちゃんや、ちみっこトラ獣人のミィさんも虎視眈々と狙っている?トラだけに。
彼女たちに比べると私は色気も可愛らしさも足りない普通の女の子。冒険者としての戦闘能力ですら叶わない。このままではただボーイ様の足手まといになってしまうだけ・・・
悩んでいる私に希望を与えてくれたのは大聖女テレサさんの言葉だった。
「アカネちゃん、聖女見習いやってみない?あなた、自覚ないかもしれないけど魔力の量がハンパないわよ」
それ以来、私はテレサさんから魔力の扱い方を少しずつ教えてもらっている。今では弱いながらもヒール程度なら使えるようになってきた。恥ずかしいからまだボーイ様には内緒だけどね。
いつしか聖女の真似事くらい出来るようになれば、ボーイ様もちょっとは私に振り向いてくれるかな?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おっ、気が利くな。きっといいお嫁さんになれるよ」
「お、お嫁さんですか!?」
ヒュドラを倒したあの日(私はまた何も出来なかったけど)、私はボーイ様の意外な言葉に動揺した。
「王都に着いたら、第3王子権限でアカネのお見合い相手を探してやるよ」
ちょっと何言ってるのかわからないんですけど?
「第2王子のお嫁さんなんかもいいかも。そうすりゃ姉弟でまた一緒にいられるし?」
「ボーイ様のバカ!」
私は手にした料理をボーイ様に押し付け、その場から走り出していた。
ボーイ様にとっては私は所詮姉弟のような存在なんだ。どうせ私なんか・・・
「アカネ、こんなところにいたんだ」
村はずれの丘の上でたそがれていた私を、ボーイ様はわざわざ迎えに来てくれた。
「ボーイ様」
「さっきはなんかゴメン、オレ女の子の事ってよくわからなくて・・・」
ボーイ様はそう言うと、お皿一杯のデザートを私に差し出した。
「お詫び、って訳じゃないけど一緒に食べない?」
ボーイ様、そういうところがデリカシーがないって言うんですよ。
「はい、喜んで」
今はこんな関係でも居心地がいい。むしろずっとこんな関係が続いてくれればいいなとさえ思っている。
でもいつの日か、もしも本当に「希望の塔」なんてものがあればだけど、私はそこできっとこう願う、
「生涯1人の女性としてボーイ様のお側でお仕えしたい」と。
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