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05.見習い冒険者、逆夜這いに辟易する

自ら精霊と名乗る少女はマシンガンのようにまくし立ててきた。


「あんたねえ、精霊を窓からポイ捨てする人間なんてあたしゃ初めて見たよ。精霊だよ、精霊、その姿を見たものは必ず幸せになれるって言ううわさの・・・」

「あくまでうわさなんだろ?」

「そうそう、人間が勝手に作ったただのうわさ・・って言わすな!」


オレも精霊という存在は初めて見た。たしか『神魔大戦』で絶滅したと言われていたが・・・


「だいたい、どうして私の事が見えるのよ!精霊は魔力を持つ人間と、その存在を認識した人間にしか見えないハズなんだけど?」

「オレに言われても知らんがな。で、その精霊さんがどうしてオレのベッドでよだれを垂らしながら寝てたんだ?」

「あんたが悪いのよ!あんまり来るのが遅いからついウトウトと・・・って、別にあんたを待っていたわけじゃないんだからね、私の目的はそこにいる銀狼の・・・わっ!ちょっと、ちょっと待って!」


銀狼の名前が出た瞬間、オレはギュピちゃんからロングソードを取り出すとその精霊に突き付けた。


「コロに危害を加えるのならオレは容赦しない。たとえどんなにカワイイ()にだって」

「か、カワイイって・・・」


精霊は顔を真っ赤にするとゆっくりベッドの上に着地した。


(チョロい、チョロ過ぎる)


「とは言え、窓から放り出したのは悪かったな。オレはボーイ、見習い冒険者だ。」

「わかればいいのよ。こっちこそ勝手に人の部屋に入り込んで(枕をよだれで汚して)悪かったわ。私はミーナ。最後の『風の精霊』」




数分後、オレと精霊ミーナはベッドに仲良く腰かけてお茶をすすっていた。

コロはオレの足元でうずくまってスヤスヤと眠っている。ギュピちゃんは・・・あれ、いつ寝ているんだろう?


「精霊は人間と同じように口から食べ物を摂取することもできるけど、実際は魔力の源である魔素を取り込むことでその生命を維持することができるの。これまでずっと魔力を持つものからその魔素を分けてもらい、その代わりに生命エネルギーを提供することで共存してきていたわ。」

「WinWinってことか」


生命エネルギーってやつをもらえるなら、コロにとっても悪い話ではなさそうだ。


「で、なんでコロに目をつけてこんなところまできたんだ?」

「なんでって、あんた、自分たちが何をやったのかわかってないの?」

「あんたじゃなくてボーイな」

「じゃ、ボーイ、あなたがその異能(レアスキル)、【君は1000%(オメガトライブ)】だったっけ、を使ってそこの銀狼の魔力を開放した瞬間、ものすごい大量の魔素が発生したのよ。魔力を持つものならばたぶん10km離れていてもわかるくらいの」

「ふーん、さすがはオレのコロって感じ?」

「いい?あれほどの魔素を発生させられる魔力を持っているって事は、魔素が絶対的に不足している今の世界ではものすごく貴重なの。たぶんこれからはその魔力に目を付けたいろんな人間や魔物たちがウジャっと寄ってくることになる」

「ミーナみたいに?」

「まあ、それもそうなんだけど、私のようなちょっぴり魔素を分けてくださいって穏健派は少数派、あとは色仕掛けで取り込もうとするとか、権力をもって取り込もうとするとか、殺して奪おうとするとか、かすめ取ろうとするとか、だまして利用しようとするとか、殺して奪おうとするとか・・」

「殺すを2回言われた」

「忠告したからね、これからあなたたちは魔力が尽きるまで一生誰かに狙われ続けることになる・・・」

「でも、えっ、それってミーナだって・・・」

「しっ!早速お出ましよ。寝たフリ寝たフリ!」


何か成り行きで寝たフリする羽目になりました。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



(敵は宿屋の受付の女!手にナイフを隠し持っているわ)


ミーナの声はオレの脳内に直接響いてきた。

普通の人間には姿が見えないことと合わせ、風の精霊の固有スキル、【認識阻害(インザウインド)】と言うやつらしい。


コツコツ

ドアをノックする音。

「お客様、まだ起きていらっしゃいますか?」

そう言いながらゆっくりとドアを開けると、女はそーっと部屋の中に入ってきた。

まずは眠っているコロを確認すると、ピョンと寄ってきたギュピちゃんをシッシッと追い払う。

「寝ていらっしゃるようですね・・」

女はニヤリとすると、布団にくるまっているオレのダミーに向け、両手でつかんだナイフを振り上げた。


「はい、そこまでー」

「な・・・」


オレは女の後ろから持っていたナイフを取り上げた。


「あんた、寝ていたんじゃ・・・えっ?」

「今夜のことは宿代とチャラってことでいいですよね。そっちだってこんなことで捕まりたくはないでしょ。」

「くっ!」


女はダッと部屋を飛び出して行った。素人娘に殺られるようじゃ、冒険者は務まりませんて。


「あら、お優しいのね」

「女に手を上げるなってのが死んだばあちゃんの教えでね」

「まだ生きてるじゃない!」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ボーイさん、入ってもよろしいでしょうか」

「どうぞ」


次の来訪者は乗合い馬車で一緒だったシスターだった。童顔ながらグラマラスな姿態で、ミカミの町では『おっぱいシスター』と呼ばれて人気がある。シスターに椅子をあてがうと、オレはベッドに腰かけた。


「こんな夜分にすみません。実は先ほど神の啓示を受けまして、すぐにお知らせしたくてお邪魔した次第です」

「はぁ、神の啓示、ですか」


ミーナはニヤニヤしながら天井付近から見下ろしている。

シスターはやにわにオレの手を握り締めた!


「ちょっ、シスター、何するんですか!」

「神は言いました。銀狼は神の御使い、そして銀狼を使役する少年こそ神が現世に受肉する租となるべく存在である、と」

「それってどういう・・・」


シスターは握ったオレの手を自分の胸に押し付けてきた。ムニュっと柔らかい感触が伝わってくる。


「うゎ!」


オレは思わず手を引っ込めた。


「どうして逃げるのですか?神は私とボーイさんの子供として転生することをお望みです。そのためなら私の操をボーイさんに捧げましょう」

「ななな・・・何なんですか、どうしちゃったんですかシスター!?」


シスターはウルウルした目でオレを見つめている。オレがドギマギしていると


(バ~カ、そんな神いるわきゃないっつーの。誰かに言わされてるに決まってるでしょ)


ミーナの醒めた一言で、オレは冷静さを取り戻した。


「シスター、落ち着いてください。いいですか、操を捧げるってことはオレと〇〇(ピー)な事や✖✖(ピー)な事をやっちゃうってことなんですよ。ホントにいいんですかー?」

「えっ?」


オレが精一杯背伸びしてエロい発言をしたことで、シスターもハッと我に返ったらしい。


「私、そんなつもりじゃ・・・ど、どうして、ご、ごめんなさい!」


シスターはカッと真っ赤になって部屋を出て行った。


「あーあ、ダメじゃない、純粋な乙女の聖職者をイジメちゃ」

「オレかよ!」

「女心がわかってないわねー、これだからチェリーちゃんは」

「しょーがねーだろ、まだ13歳なんだから!」


オレはゆっくりと立ち上がった。


「どこ行くの?」

「シッコして寝る」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


部屋に戻ったオレは頭を抱えた。


「どこ行ってたの?来ちゃった」


オレのベッドでは『地を駆ける白狼(ホワイトファング)』のサラさんがあられもない姿で手招きをして待っていた。


(これ、いつまで続くの・・・?)

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