41.旅する冒険者、マッドサイエンティストを殴る 1
「オーク、ここに入ったよね?」
「はい」
「ってことは素晴らしき再生の会のアジトで間違いない筈だよね?」
「と、思うのですが」
逃げたオークを追跡すること3分、鬱蒼とした森の中、ではなく、普通の木立を抜けて街道沿いにその建物は普通に建っていた。頑丈そうな石造りの平屋建。門扉の脇には『社団法人 ヒムラー生体化学研究所』の看板が掲げられている。防護結界が張られている様子もない。余りに無防備かつストレート過ぎる佇まいに、オレ達はいささか毒気を抜かれてしまった。
「どうするニャ?リーダーに任せるニャ」
「うーん」
建物のドアが開き、メガネをかけた白衣の男が現れた。ゆっくりとこちらに近づいてくる。ミーナはとっさに【認識阻害】のスキルを発動させる。男は面倒臭そうな顔をしてはいるが、殺気までは感じ取れなかった。
「君たち、こんな時間に見学希望かな?王都の学生さん?」
オレ達は顔を見合わせた。オークを追ってきたのはオレ、アカネ、ミィ(ミーナとギュピちゃんもいるけど)。見事に子供チームだな。
「いえ、冒険者です。ガオカナへ行く途中で目にしたので」
オレはあえて素性を明かし、ギルドカードを提示して見せた。
「ほう、 C級冒険者か。若いのにたいしたもんだ」
男はニコリともせずに言った。
「ガオカナの町はあと小一時間程で見えてくるよ。休憩したいならば寄っていくといい、ジュースくらいご馳走するから」
「どうも」
オレ達は誘われるまま男について行った。他のメンバーなら状況を判断し、臨機応変に対応してくれるだろう。
「そうか、あんな子供達がC級か・・・面白い、是非とも体組成を解析してみたいな・・・」
何やら不気味な事をつぶやいている。こいつがアキラさんの言ってた元勇者なのだろうか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「今は5人の科学者が共同で研究を続けている。研究室は地下にあるから見学は自由だが邪魔はしないでくれよ」
研究所1階は事務室とパーテーションで仕切られた小さな応接室。男はそれだけ言い残すと地下へ降りて行き、オレ達4人と1匹は取り残されてしまった。
「これって」
「誘っていますね」
「やっぱりそうだよな」
「とりあえず、せっかくだからジュースでも頂くニャ」
「あ、ちょっとまてミィ!」
獣人は喉が渇きやすいのか、ミィは出されたジュースをゴクゴクと飲んでしまった。
「ん?」
「毒でも入っていたらどうすんだ!」
オレは自分のジュースを指ですくい、ペロッと舐めてみた。
「毒は入ってないみたいだな」
「ほら、ボーイは心配症だニャ・・・ぐぅ・・・」
ミーナはコロンと寝てしまった。毒ではないが強力な睡眠薬が仕込んであったようだ。 もっともオレとアカネは薬物には耐性があるから効かないが。
「ったく、何やってんだよ」
ギュピちゃんから気付け薬を取り出し、ミィの鼻先にかざした。
「・・・ブハッ!!」
ミィが目を覚ました。
「殺す気はないようですけど」
「敵確定ね。ご希望通り誘いに乗ってやろうじゃないの」
「油断しないでね」
「オッケー」
ミーナも認識阻害を解除し、臨戦態勢をとった。待ってろよ、元勇者!
まずは地下へと続くドアをガンッ!と蹴破ると、螺旋階段を用心深く降りていく。中は照明が灯っており意外と明るく、秘密基地っぽくない。
地下1階は廊下越しに研究室のような部屋があった。大きな窓がいくつも廊下に面しており、中の様子がわかる。見たこともない機材が沢山あるけど、人の気配は・・・
カチャ。
ドアを開けて中から男が1人出てきた。
「「わっ!」」
出会い頭にぶつかりそうになり、瞬間オレはアキラさん仕込みのエルボーを男の顔面に叩きつけた。
「ぐわっ!」
男は吹っ飛び、壁に激突して気を失った。
「ちょっと、派手にやり過ぎじゃない?」
「相手が一般人だったらどうするニャ!」
「一般人はジュースに睡眠薬なんて入れねーよ。それに、仮にそうだとしてもテレサさんが治してくれるだろ」
女性陣はジト目でオレを見たけど気にしない気にしない。
オレ達は研究室の中に入って探索するが、変わったものは見つからなかった。
「何だね、君たちは!」
研究室に別の男が入ってくる。オレは男の背後に回り込むと、チョークスリーパーで頸動脈を絞めあげた。
「ぐ・・・」
3秒で絞め落とした。
「これなら静かでいいだろ」
どうやらこのフロアには何も無いようだ。
「よし、下の階に行ってみよう」
「みんな倒してたら何も聞けないじゃない!」
「甘いなミーナ。最初の奴が言ってたろ、今は5人で研究してるって」
「あと2人ならやっつけても問題ニャいって事だニャ」
「そう言う事」
「ボーイ様、あの・・・」
アカネが何か言いかけたところで、下から階段を上がってくる足音がした。
「何だね、君たちは!」
「どりゃ!」
オレは階上から急降下ドロップキックをかました。
「ぐわっ!」
男はもんどりうって壁に激突し、そのまま動かなくなった。
「よし、行こう!」
「あの、ボーイ様・・・」
「どうした、アカネ、さっきから?」
「ボーイ様が倒した2人、いいえ、今の人を含めて3人、何か似ていると思いませんか?」
「どういうこと?」
オレは気絶した男たちを見比べた。
「白衣にメガネ、どこにでもいそうだけど」
「私達を招き入れた男も同じ顔だったよ!」
「おまけにセリフまで同じだったニャ!」
間違い探しじゃないけれど。確かに何から何までそっくりだ。もしかして、いや、もしかじゃなくて・・・
「こいつら全員クローンか・・・」
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