39.旅する冒険者、大聖女に説教する
「はいみんな、ここ集合」
オレは酒場の隅の円卓の周りに酔っ払い達を座らせ、延々と説教をしていた。我ながら嫌なガキだと思うよ、でもしょうがないだろ、大の大人が昼間っから子供ほったらかして加減も知らずに飲んだくれてんだから。
ドワーフのウエイトレスさんがおかわりの水の入ったグラスをテーブルの上に並べてくれた。
「すみませんボーイ様。やめる様に何度も言ったのですが・・・」
「主、申し訳ない。「パーティーの代表で」とつい乗せられてしまって・・・」
アカネとシラヌイはしょうがない、大聖女に言われちゃ断る訳にはいかないだろうから。問題は・・・
「マルガリータさん、大聖女様をお止めするのがあんたの役目でしょうが!それを一緒になって、しかも下戸って」
「面目ない・・・」
「それから大聖女様、不敬を承知で言わせてもらいますけど、もうちょっとVIPとしての自覚を持って下さい。あなたに何かあっても代わりはいないんですからね」
「反省してまーす」
「全然反省してないでしょ!」
「ガハハハ、少年よ、当代大聖女様は面白いのう」
「おっさんは黙っとれ!」
飲み比べで大聖女に完敗した工房長のドンさんにもツッコミ入れちゃったよ。ドンさんはいかにも職人って感じのドワーフのおっさんだけど、こう酔っ払っちゃってたら斬月のメンテなんて無理か。鍛冶師ギルドに顔出した甲斐がなかったな。
「少年、もしかして手にしている剣の打ち直しが希望だったのか?」
「ええ、まあ。でもいいです」
「ちょっと見せてくれんか」
ドンさんはオレの斬月のを鞘から取り出すとまじまじと眺めた。
「漆黒の剣か、珍しいのう。使い込まれている様じゃが刃こぼれひとつない。これを打ったのは達人じゃな。」
「やっぱりそう?」
酔っ払いでも目利きはできるようだ。斬月を褒められ、オレはちょっぴり嬉しくなった。
そこに何やら箱を抱えたミィが入ってきた。
「またお客さんと飲み比べをしていたニャ!おミャえはどうしてこうも酒が好きなのニャ」
「あ、お嬢、いやギルマス代理、申し訳ありません!」
ドンさんは直立不動でミィに挨拶した。
「ミィ、ギルマスって、えっ?」
「オヤジが鍛冶師ギルドのギルドマスターやってるニャ。町を離れている間はミィが代理をやってるニャ」
え〜っ、鍛冶師のトップはドワーフじゃないのかよ。なんかがっかり。
「それよりボーイ、さっきのハイポーション、ものすごくいいものだったニャ。約束通り『粉雪のタクト』と交換するニャ」
ミィは綺麗にラッピングされた粉雪のタクトをオレに渡した。
「やったねボーイ」
「はい、ユキ、大事に使えよ」
「あ、ありがとう、おにいちゃん!」
ユキ、そしてミーナもうれしそうだった。
「おうおう、盛り上がってんなぁ。オレもこっちが良かったかな」
今度は所用で1人で出かけていたアキラさんが酒場に入ってくる。体のあちこちから血を流しながら。
「アキラさん、それ・・・」
「おう、外でちょっとトラブってな。ま、いいや、ボーイ、いつものやつ出してくれ、ほら」
どうやらハイポーションの事を言ってるらしい。
「すみません、実は全部売っぱらっちゃって」
「なにい、マジか?アレがあること前提で大捕り物してきたってのに・・・」
「はいヒール」
大聖女がヒールを唱えると、アキラさんの傷がみるみる癒えていった。
「あいかわらずムチャしてるのね、アキラ君は」
「こんなおっさんつかまえてアキラ君はないでしょう。で、ボーイ、ほんのちょっぴりだけど『素晴らしき再生の会』の事聞き出してきてやったぜ」
冒険者ギルドに場所を変え、オレ達ははアキラさんの報告を受けた。
「『素晴らしき再生の会』は反政府組織と言えば聞こえがいいが、要はアルンメリア王国主導のこの世界に不満を持つ反乱分子の寄せ集め、いわゆるテロリストだ」
「この世界って?」
「言葉通りの意味だな。奴らの狙いは現政権の転覆じゃない、この世界全てをひっくり返す事だそうだ」
「そんな・・・」
「狂ってる・・・」
「確かにな。大体テロリストってのは狂ってる奴のやる事だ。今のところ戦力の拡充と要人の暗殺を主として水面下で活動をしているが、近々大規模なミッションを行うらしい」
「ミッションって?」
「そこまではわからなかった。ま、吐いたのが組織の構成員でも何でもない、ただの盗賊崩れの小悪党だからしょうがない。むしろここまで知ってるだけでも大したもんだ。蛇の道は蛇、ってか」
「まあ、かなりヤバい組織だって事は間違いないな」
「主、これからどうします?」
「どうもこうも、王都に行くしかないだろ。オレ達だけじゃ対処できそうもないけど、王や、他の王子達と共闘すれば敵をぶっ潰す事もできるかも」
何か王位継承争いなんて馬鹿らしくなってきた。上の王子達も同じ意見だといいんだけど。
「決まりだな。オレとボーイだけならすぐにでも出発といきたいが、今回は女子供連れ出し、明朝早めの出発という事でいいかな」
「酔っ払いもいるしね」
「すみません」
「じゃ、ミィが朝までに馬車のチューンナップをしておくニャ」
「うわっ、ミィ、いたのか!」
マジで気付かなかった。やっぱりパーティー入る気マンマンだ。
「今はボケるところじゃないニャ!あと、鍛冶師ギルドマスター代理は伊達じゃないところを見せてやるニャ」
「ミィちゃんカッコいい!」
「まあニャ」
ユキに褒められまんざらでもなさそうなミィ。尻尾がピコピコ揺れている。ああ、やっぱり獣人ってイイかも。
「ボーイ、顔、ニヤけているよ」
「そ、そうか」
さすがにミーナはよく見ている。
ミィはコロの抜けた後の戦闘力としてはビミョーだが、鍛冶師として有能ならば新パーティーも何とかなりそうな気がする今日この頃だった。
ただ、これ以上女性メンバーが増えると、セリフだけじゃ誰が誰だかわかんなくなりそうだなー。
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「おお、結構スゲーな」
「どうニャ、ボーイ、合格かニャ?」
「もちろん!こっちからお願いするよ、よろしく、ミィ!」
翌朝、特に足回りが新品のように生まれ変わった馬車を見てオレは感嘆した。すごいなミィ、鍛冶師ギルドマスター代理は伊達じゃないって本当だな。これなら山越えも安心だ。ただ・・・
「どうしてあなた達が乗ってるんですかーっ!」
馬車の中にはなぜか大聖女テレサとマルガリータさんが鎮座していた。
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