03.見習い冒険者、盗賊団を一蹴する 2
とにもかくにも定刻に出発したジハーダ行き乗合馬車。
先導はD級冒険者の『シャープ兄弟』、馬車を挟むように後方支援するのはE級冒険者(最近昇級した)『地を駆ける白狼』のタカさんとノリさん。同じくジョディさんとサラさんはオレと一緒に馬車の中での護衛だ。
「と、言うわけで、今回の護衛はミカミの冒険者ギルド6人プラス見習い1人で担当させていただきます」
ジョディさんが今回の依頼について乗客たちに簡単に説明する。ウソは言ってない。ただ、こちらの戦力については盗賊団の手引きを油断させるため敢えて伝えていない。
「がんばりますのでよろしくお願いいたします!」
オレもお得意の営業スマイルで元気よく挨拶をする。
馬車入り口付近に腰かけると、乗客には悟られぬよう、さりげなく観察した。
ハワード夫妻・・・今回の依頼人。商用と観光を兼ねて3歳の子供と共にミカミへ来ていたらしい
優しそうな老夫婦・・・フルムーン?じいさんは白いアゴ髭
ビジネスマン風の男・・・鼻髭。高価そうなスーツケースを抱えている
神父とシスター・・・太ったハゲおやじとかわいいシスター
小汚い中年男・・・酒臭い
若い女性2人連れ・・・美人系とカワイイ系?(ただし地味)。姉妹?
トムさん・・・御者
(普通に考えればおっさんがあやしいんだけど、それだとあまりにテンプレすぎるしなー・・・)
「ねえ、お兄ちゃん、その大きいワンコ触ってもいい?」
「おとなしいから思いっきりギュ~しても大丈夫だよ」
「わーい!」
ハワード夫妻の女の子がコロに思いっきりモフって行った。
まだ子供にもかかわらず、コロは秋田犬の成犬くらいに成長している。
「オタクはテイマーか何かの異能をお持ちなのかの?」
今度はじいさんが訪ねてきた。
「ごめんなさい、おじいさん。冒険者は仮に何かの異能持ちでも、身を守るためなるべく手の内は見せないようにしているんです。まあ、魔物を二匹連れていることから察してもらえれば」
「おっとそうじゃった、これは失礼したの、少年よ」
「いえいえ」
じいさんも冒険者の暗黙のルールは心得ているようで、それ以上ツッコんでくることはなかった。
今の会話でオレの異能を盗賊団の手引きが『テイマー』『魔物使い』あたりと勘違いしてくれればしめたものだ。
午前中は何のトラブルもなく進行した。
行程の半分を過ぎ、峠の細い山道を登っているときに敵が動いた。
「ガルルルル・・・」
コロが厳しい顔をしてうなり声をあげる。
ウトウトしながらコロにもたれかかっていた女の子がびっくりして跳ね起きた。
「何?どうしたの?」
「バゥ!バゥバゥバゥバゥ!」
コロは吠えながら馬車から飛び出して行った。
「来ます!前方から4名!」
オレは女の子を抱きかかえると、同時にホイッスルの警告音をピーッと吹き鳴らす。
「援護するわ」
後方の地を駆ける白狼2人が馬車を越えてシャープ兄弟2人に加勢するのは難しい。サラさんは弓矢をつかむと馬車から飛び出していこうとした。
「おっと、お嬢ちゃん、動くとこのじいさんをぶっ殺すぞ!」
小汚い中年男が本性を現し、じいさんを羽交い絞めにするとその首元にナイフをつきつけてきた。
「はい、そこまで。武器を下ろして手を上げて」
「なっ、どこから・・・」
さっきまでは何の武器も持っていなかったはずのジョディさんが、ロングソードをおっさんの顔面に突き付けた。もちろん、ギュピちゃんから取り出したエモノだ。
観念したおっさんは手にしたナイフを床に落とすとゆっくり両手を上げた。
形勢逆転を確認して、サラさんはコロに続いて馬車を飛び出していく。
ここまでわずか数秒、ここで外からワーッと雄たけびが聞こえてくる。盗賊団と遭遇したようだ。
「さ、ボーイ君もシャープ兄弟の援護に向かって!」
「甘いのう、冒険者の」
「えっ?」
さっき助けたじいさんが仕込み杖を抜くと、ジョディさんのロングソードをはじき上げた。
脇ではばあさんがへっへっへっといやらしい笑い声を出している。
ガスッ
じいさんは一瞬で崩れ落ちた。
「えっ?」
さっきのえっ?、と違う意味の声を上げるジョディさん。
じいさんの意識を刈り取ったのは乗客の若い女性2人連れのお姉さん?の方だった。
「おりゃ!」
「ごふっ」
オレは状況が把握できてないおっさんのみぞおちにボディブローを叩き込んだ。おっさんは悶絶して倒れこむ。逃げようとしたばあさんの方もジョディさんに確保されている。
ここで乗客の男衆が加勢し、盗賊たちをフルボッコにした。
「行きまーす!」
オレは今度こそ馬車から飛び出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「バゥ!バゥバゥバゥバゥ!」
コロが吠えながら馬車から飛び出してきた。
同時に馬車の中からホイッスルのピーッという警告音が響いてくる。
「敵かっ!来るぞ!」
「了解、アニキ!」
馬車を先導していたシャープ兄弟はロングソードを抜いて身構えた。
退路のない狭い山道。来るならここしかないっていうくらい、襲撃にはもってこいの場所だ。
「来ます!」
サラさんも合流し迎撃態勢をとる。
ここでようやく前方から盗賊たちが馬に乗って攻め込んできた。
「おらー、行け行けっー!」
「女は傷つけんなよ!男は皆殺しだー!!」
「バゥバゥバゥ!!」
「ヒヒーン!」
「わっ、な、なんだ!?」
コロは盗賊の間を牙をむいて駆け抜けて行った。驚いた馬たちが態勢を崩したため、盗賊たちは落馬した。
もちろん、馬は殺していない。
「それまでだ」
剣と弓を突き付けられ、盗賊たちは両手を挙げた。
「もう一人!逃げます!」
「任せろ!」
オレは馬車から出るとちょっと離れた場所から走って逃げていく一人を指さした。
シャープ弟が馬で追いかける。オレもコロとギュピちゃんを連れて後を追った。
盗賊が山道をはずれ、ちょうど死角となる丘の茂みへ逃げ込んだ、その時、
「ギャー!!」
断末魔の叫びと共に、盗賊のソレと思われるちぎれた四肢と血の雨が降ってきた。