表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
247/248

242.地獄の冒険者、死の歌声を聞く

カーミラとグッドウィンのチャンバラは続いていた。

カーミラは実力で生徒会長(兼風紀委員長)になっただけの事はあり、剣の腕も相当なものだ。騎士団長子息のグッドウィンとも互角にやり合っている。しかし


「私は、帝国の、キッド皇帝の剣になる男だー!」


キンッ!

一瞬の隙をついてグッドウィンの剣がカーミラの剣を弾き飛ばした。そうオレにはわかる、彼もまた努力の人なのだ。幸せ者だな、キッド。


「くっ殺せ!」

「騎士たるもの女性を辱めるような真似はしない。仲間のよしみだ、抵抗しなければこのまま見逃してやってもいい」

「ちょ、ちょっ待てよ!」


オレは慌てて言った。グッドウイン、それはちょっとカッコつけすぎじゃない?


「カーミラは『王都侵攻計画』の首謀者なんだ、帝国が裁かないというのなら王国のルールで連行させてもらうよ。それが無実の罪で軟禁されているキッドを救う事にもなるんだってば」

「むう」


主君の為と言われては、さすがのグッドウィンもオレに従うしかなかった。こんな不毛な会話をしていると、屋根の上にもう1人人影が現れた。


「ど、どうしたんですか皆さん!こんなところで?」


騒ぎを聞きつけた若い司祭だった。


「来るんじゃない!」

「なんて・・・あっ!」


カーミラはどこからかダガーを取り出し、すかさず司祭のもとに駆け寄り背後を取った。


「はっ、形勢逆転だね。武器を置きな、グッドウィン、ボーイッ!」

「くそっ」


グッドウィンは手にしたロングソードをカーミラの方へ投げた。オレは・・・もともと空手だったので両手を上に上げる。だってしょーがないだろ、斬月はポキッと折れちゃってんだもん(涙)


「ハハハハハ、バカな連中だね。さてとあんた達にはこれから本当の地獄を味わってもらうよ。特にボーイ、あんたにはとびっきりの・・・」


みなまで言わせない。オレは縮地でカーミラ達の懐に入ると司祭に当身を食らわせて気絶させ、カーミラの背後を取った。


「はっ、形勢再逆転だね。それに司祭がグルだってのもお見通しだよ」

「そこまで・・・キサマ一体」

「言わなかった?S級冒険者にしてキッドの盟友さ」


司祭がグルなのに気付いたのはつい今さっき。カーミラと盛んにアイコンタクトを取っているのが()()()からね。あれ?でもどうして宵闇の中そこまで視えたんだろう?


「な、S級だと!?」

「な、皇子の盟友だと!?」


カーミラとグッドウィン、立場が違うとツッコミ所も違うんだな、どーでもいいけど。どっちも知っているクラリスはなぜか自慢げだ。


「今度こそ終わりだ、カーミラ」

「ふ、ふふふ、ここまでは予定通りよ。ちょっと早かったけど時間稼ぎには充分だわ」

「「時間稼ぎ?」」


イヤな予感がする。


「ゾンビを飼育しているのは何も学園だけじゃないわ。ここ大教会でも1匹だけ飼っている。フェーズ1の屑ゾンビだけど、この結界の張られた密閉空間に放てばどうなるかしら?確か妹さん達もいたわよねボーイ?」


やられた!

もう1人バナザードとか言う司教がいたな、アイツもカーミラの仲間だったのか!


「グッドウィン、クラリス、ここは任せた!」

「お、おいっ」


オレは急いで教会の中に戻る。避難民で芋洗い状態の大聖堂からは既に阿鼻叫喚の叫びが響いてきていた。


「うわー、助けてくれー!」

「ゾンビだ、ゾンビが中に!」

「ここは大丈夫じゃなかったのかよー!」

「「「キャーッ!!!」」」


群衆はパニックになっていた。

夜の闇、逃げられない空間、次々と増殖していくゾンビ達。


(ボーイ!)

(くそっ!)


おおお〜〜〜

不意に目の前に1体のゾンビが現れた。

オレは折れた斬月の代わりに虚空から月影(ツキカゲ)を取り出すと、一刀両断で斬り捨てる。魔剣だからできれば使いたくはないんだけど贅沢言っていられない。


「うわーっ!」

「痛いよーっ!」

「ここから出してくれーっ!」


逃げ惑う人々。


「がっ!」

「噛まれたっ!」

「ゾンビになるぞーっ!」


少しずつ、でも確実に増えていくゾンビ達。

目視できる範囲にも数体のゾンビがいるが、ごった返しの中、近づくこともままならない。

カーミラはここまで読んでいたのだろう。

もはや大量の犠牲者は不可避だ。ならばせめて・・・


「アブリルさん!シグペン君!」


オレはこれまで同行してきた2人の学生の名を叫んだ。

2人を守り抜くことも今回の依頼(クエスト)の一部だった。

僅か数時間の付き合いではあったが、やっぱりここに来て死なせたくはない。


「「ボーイ君っ!!」」


いた!

家族と合流できなかったのだろうか、うまい具合に2人一緒にいる。

その距離わずか10数メートル。でも人波で縮地も使えない。

そして2人の背後に迫る一体のゾンビ。ダメだ、間に合わない!その時だった


♫嵐と共にやってきた 悪を蹴散らす聖なる乙女〜


どこからか聞こえてくる、新手の攻撃と間違うくらいド下手な歌声。

これは、あ〜アレだ。

オレは咄嗟に耳を塞いだ。


♫迫るは『学園の魔女』軍団 愛と勇気で戦うぞ〜

 敵は地獄のゾンビ達 力の限りブチ当たれ〜

 ストップ魔物の悪だくみ 怒りの鉄拳振りかざせ〜


あまりの酷さに、ヒトも、そしてゾンビも次々と悶絶していく。


♫正義と平和を守るため いざ行けクラリス僕らのヒロイン〜♫


気がつけば大聖堂で立っているのはオレとクラリスだけだった。


「クラリス・・・」

「どう?私の【聖なる歌声(セイントボイス)】は?」


オレは倒れているヒト、そしてゾンビを覗き込んだ。

全員気絶している。【聖なる歌声(セイントボイス)】じゃなくて【死の歌声(デスボイス)】の間違いじゃないのか?

目撃者がいないとわかると、ミーナが認識阻害を解いて姿を現した。


「ボーイ、ゾンビがいなくなっちゃったんだけど・・・」

「え?」

「全員浄化されたって事」

「マジか!?」

「当然よ、そう言うスキルなんだから」


クラリスはドヤ顔をするとふらっとその場に倒れ込んだ。


「クラリス!」

「大丈夫、魔力切れよ」


いや、マジで聖女みたいだろ(聖女だけど)。

お読みいただきありがとうございました。これからもなるべく毎週更新していきますのでよろしくお願いします!

また、ブクマ、評価等いただけるとメチャクチャうれしいです(*^_^*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ