236.地獄の冒険者、死者の街を行く 2
最初の要救助者、女子学生、ジェシーさんの家族は無事だった。
「私達家族はこのまま明日まで家の中に立て籠っていたいと思います」
「賢明な判断だと思います」
「必ず帝都騎士団を連れて助けに来ますわ」
ジェシーさんの家族は一晩自分の家に潜んでいる事を選択した。ゾンビが侵入して来た際、奥さんが足を挫いてしまい歩けない為だ。今みたいに鍵をしっかり掛けて潜んでいれば再度襲撃を受ける確率はかなり低いだろう。
「ボーイ、そろそろ」
「そうだな、行こう、もうすぐ日が暮れる」
夜になればまたどこからともなくゾンビ達が現れるだろう。その前にちゃっちゃと残りの家庭訪問を済ませないと。
出だしが良かったのですんなりいくと思われたミッションだったが、そんなに甘くはなかった。
2件目。男子学生の家。
「「誰もいない・・・」」
家の中はしんと静まり返っていた。
「おい、こっちにこんなメモがあったぜ」
ギーリクがリビングのテーブルの上のメモを発見した。
「なになに、シグペンへ、ご近所でゾンビが発生しました、町内会で大教会へ緊急避難します。このメモを見たら後から来て下さい、と」
「どうする?」
「もちろん、このまま一緒に行くよ」
男子学生、シグペン君は引き続き大教会まで同行する事に。
3件目。女子学生の家。
「ちょい待ちっ」
隣の家の玄関前で蠢く人影。2人、いや3人か。
「何があったの?」
「あんまり見るな」
ゾンビ達が何かを貪り食っていた。人(若しくはゾンビ)の死体のようだ。ヤツらには食欲なんてものはない筈だが、生前の記憶なのか何故か腐肉を食べるのを好む。まずヤツらを何とかしないと。
「私が行こう」
そう言って飛び出して行ったのはグッドウィン。
足音に気付いて振り向いた3体のゾンビを綺麗な剣捌きで次々と斬り捨てていった。さすがは帝国騎士団長令息ってか。キッドが皇帝になったアカツキにはきっといい右腕になれるだろう。
「さすがですね」
「ボーイ、君が言うと皮肉に聞こえるな」
慎重に女子学生、ケイトさんの家に入ったが、幸い家の中にはゾンビはいなかった。しかし・・・
「キャーッ!!」
悲鳴、そして泣き崩れるケイトさん。
「何で・・・何で・・・」
そこには寄り添うように死んでいる2人の死体があった。歳の頃からおそらくはケイトさんの両親だろう。母親の方は何故か身動きが出来ないようにイスに縛り付けられていた。
「どういう事?」
「多分だけど・・・」
おそらく、と言うかほぼ間違いないが、ゾンビに奥さんが噛まれ、次第にゾンビ化していく奥さんにいたたまれなくなったダンナさんが無理心中を図ったのだろう。
「ああああ・・・・」
そりゃパニックになるよな。でもここでこれ以上時間を取られる訳には・・・
「何とかしてみるわ」
「クラリス?」
聖女見習いのクラリスはケイトさんに寄り添い詠唱した。
「【癒し】」
ほのかな灯りに包まれるとケイトさんの呼吸は徐々に整い、やがて彼女は大人しくなった。
「クラリス、お前、魔法は魅了と魅了返ししか使えないんじゃなかったのか?」
「へへ、初めて使ってみたけど案外上手くいったみたい?私って土壇場に強いタイプ?」
よくわからんが、まあ良かったな。
「でも、メンタル的に今連れ出すのはさすがに難しいと思う」
「私が一緒に残るわ」
ガガさんが手を挙げた。
「ケイトとは友達だから。大丈夫、ゾンビに見つかるなんてバカしないわ」
「おいガガ、何言ってんだよ!」
ギーリクがイキがって言う。まあ、ガガさんにホレてんのはバレバレだしね。
「わかるでしょギーリク、彼女1人残して行けないわ。だから明日、必ず迎えに来てね」
「お、おう、わかったぜ!」
なんかいい感じにまとまった?
「そうと決まれば急ぎましょう、ボーイ」
「うん」
ガガさん、ケイトさんの2人を残し、オレ達8人は次の家へと向かった。
もう時間がない!
おお〜〜〜
おお〜〜〜
外のゾンビが増え出した。
まさに逢魔が時、移動はますます困難を極めてきた。
4件目、男子学生の家の前まで来たはいいが、しょっちゅうゾンビが往来しており、突入のタイミングが難しい。
「困ったな」
「ボーイなら行けそう?」
「オレだけならな。でも外のゾンビを引きつけるのは不可避だから、結果中に要救助者がいたら巻き込んでしまうかも」
それならいっそここはパスした方が安全なのでは・・・
「父さん!母さん!」
「ちょっ、おいっ!」
この家の男子学生、スタンカ君が制止する間もなく飛び出して行った。
そうだよな、彼にとってはかけがえのない大切な家族、パスするなんてあり得ない。
おお〜〜〜
おお〜〜〜
物音に反応して群がるゾンビ達。
「ここは頼む!」
オレはグッドウィンとギーリクを制してスタンカ君の後を追った。
「せいっ!」
縮地で一瞬で追い付くと、斬月で次々とゾンビ達を切り捨てていく。
「ボーイ君!」
「今のうちに早く中へ!」
「ありがとう!」
家のドアを開けるスタンカ君。
「父さん・・・母さん・・・」
ガチャ。
おお〜〜〜っ!!
おお〜〜〜っ!!
「わーっ!」
ドアの中からは大量のゾンビ達が現れ、スタンカ君に襲いかかってきた。
既にスタンカ君の家はゾンビに堕ちていた・・・
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