20.旅する冒険者、聖騎士に敵認定される
甲冑を身に纏った3人の聖騎士と、白いローブの男がゆっくりと近づいてきていた。神聖騎士団本隊のご到着だ。獲物はそれぞれロングソード、ハルバード、鉄球(!?)、メイス。先頭を歩くやや細身の聖騎士がおそらくリーダーなのだろう、辺りに倒れている僧兵達を一瞥すると、オレに向かって叫んできた。
「キサマ、我が同胞達を無惨にも手にかけるとは!もはや子供とは思わん、我が愛剣のサビとなれ!」
「手にかけてないっちゅーの!近眼か!」
リーダーは女のようだった。
「問答無用!」
女騎士は有無を言わさず突っ込んできた。
「聞けや!」
素早い剣筋を斬月で受け止める。中々重いが、耐えられないレベルではない。
「うりゃ!」
カーン!
切り返したオレの刃は女騎士の左手の盾に弾かれた。神聖騎士団の聖騎士達の装備は王国騎士団のそれよりもより防御力を重視したものとなっている。教団の教えによるものか。
「でも!」
盾を躱して切りつけることは容易い。しかし、すでにそこに女騎士はいなかった。その代わりにハルバードの切っ先がオレの顔面にシュッと伸びてきた。
「うわっ!」
オレは間一髪で一歩後退する。
「死ね!」
すかさず大柄な聖騎士の鉄球がブンッとオレの脇腹に直撃した。
「くっ!」
オレは瞬間身を浮かせると鉄球の威力を減殺する。おかげでダメージ以上に派手に吹っ飛ばされた。
「まだよ!」
オレの動きに合わせ、再び女騎士が切りつけてきた。
(クソっ!)
本物の騎士と戦うのははじめての事だった。見事なまでに連携が取れている。でも連携プレーならこっちも負けては・・・
(あちゃ~)
オレが目を向けた先で、コロが白いローブの男の放つ火球からキャンキャン言いながら逃げ回っていた。なりはデカくなってもまだまだ子供だ。
(いいなあっち、魔法だ、魔法!)
「よそ見をするな!」
再び女騎士の攻撃!パリイしたところをハルバード、体勢を崩してよろけたところに鉄球、いたいけな少年?に対して容赦のない波状攻撃を加える聖騎士達。たった3人なのに中々切り崩せない。
そんな時、ゴーッという強烈なつむじ風が、オレだけを数メートル巻き上げた。
「サンキュー、ミーナ!」
ミーナのフォローでふかんする事で敵の陣形が見えてきた。聖騎士達は縦に3列隊列を組んでいた。なんかどっかで見た事あるような・・・
「アンタ、伝説の剣聖の弟子なんでしょ?何ぐずぐずやってんのよ!」
「わーってるって!」
オレは大地にトンと着地すると、女騎士に向かって突っ込んでいった。
「来るか!」
オレは身構えた女騎士をスルーすると、次鋒のハルバードを構えた聖騎士にフライングボディアタックを浴びせて思いっきりひっくり返した。
「何⁉︎」
オレは一回転すると直ぐさま立ち上がった。鉄球の聖騎士は辛うじてハルバードの聖騎士の転倒を回避したが、オレはその鉄球を足場にして反転ジャンプする。
「こいつ、オレを踏み台にしたあ?」
「この!」
振り返った女騎士の鉄仮面の眉間の部分にオレは寸分違わず斬月の刃先を突きつけた。
鉄仮面はピピピッとヒビが入ると、パカッときれいに真っ二つに割れ、その顔が露わになった。
「!?」
「くっ!」
中からあらわれたのは白銀の髪をきらめかせた絶世の美女だった。オレは予想の上をいくサプライズにしばし声も出なかった。
「貴様、何を見ている!」
「綺麗だ・・・」
「な、何を!」
(バカ〜ッ!!)
ミーナの声にオレはハッと我に返った。
ガラガラガラ!!!
同じタイミングで1台の馬車が丘を駆け上がって戦闘に割り込んできた。御者はシラヌイだ。
「掴まれ!」
馬車から手を伸ばすアキラさん。オレはその手を掴むと、グイッと引き上げられた。
「神聖騎士団本隊だ。面倒だからこのまま町を出るぞ!」
「はい」
馬車の中には既にアカネ、ユキ、コロも収まっていた。アキラさんとシラヌイがうまくやってくれたようだ。
「ま、待て、逃げるのか!卑怯者〜っ!」
待てと言われて待つバカはいない。オレ達は聖騎士達を残し、ミカミの町から脱出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
30分後、オレは馬車の中で正座させられていた。
(なんでやねん!!)
「なんでやねんじゃないっちゅーの!戦闘の最中に鼻の下伸ばしてんだから!」
「ボーイ様でもさすがにそれはどうかと思います」
「アカネはそばで見てたろ!」
「主、少しはお立場をわきまえていただかないと」
「シラヌイ、マジで言ってんのか?」
「わたしはおにいちゃんだいすきだよ」
ユキだけはキラキラした両眼でオレを見ている。
「まあまあ。で、美人だったろ、あれが神聖騎士団副団長、エルフのお姫様って話だ。」
アキラさんが少しニヤニヤしながら言った。あれ?今エルフって言ったよね、エルフって。
「そうか、ボーイはエルフに会うのは初めてか。いやーオレも初めて会った時にはあまりの美人でおったまげたぜ」
「はあ」
この元勇者、やっぱり女好きだ。
「それは置いといてだ、さっきの攻撃が神聖騎士団独自の戦法、『三位一体』だ。常に3人で連続して攻撃を仕掛け、相手に付け入るスキを与えない。必要に応じて第4の人物が魔法で遠距離支援を行う、ジェッ〇ストリー〇アタックの上位互換みたいなもんだ。結構きついモンがあっただろ」
「はあ」
ジェッ〇ストリー〇アタックはよくわからないが、ようは連携攻撃だということだ。からくりが分かればもう苦戦はしない。
「もうすぐ追手がかかるだろう、どうやって倒す?」
「大丈夫、力業でいけます」
「ま、ボーイならそれも可能だろうが、こういう時はだな・・・」
「バウバウバウ!!」
馬車の外でコロがけたたましく吠えた。
「追手か!」
ホロをめくって後方を見るが、まだ追手がくる様子はない。
「ボーイ、上!」
ミーナに言われるがまま空を見上げると、3匹のワイバーンが馬車の上空をゆっくりと旋回しているのがみえた。魔物なら狙いはユキか。しかし・・・
「普通このタイミングで来るか?ったく、空気読め!!」




