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19.旅する冒険者、出鼻をくじかれる

実はまだミカミの町にいたりする。

と、いうのは長旅になる為にアキラさん達に馬車を調達してもらっているのと、せっかくここまで来たんだからせめてユキにミカミ観光だけでもさせてあげたかったから。

村で一緒に暮らす約束は反故になっちゃったけど、ユキは健気に「おにいちゃんといっしょなら、どこでもへいきだよ」と言ってくれた。これだけ言われちゃ何とかしなきゃ男じゃないよね。

そして今。デートスポットとして有名な、町を一望できる小高い丘の上にきていた。




「おにいちゃん、やっぱりこわいよ」

「大丈夫、お兄ちゃんに任せておけって」

「おねがい、いたくしないで」

「痛いのは一瞬だけだから」


オレはユキをゆっくりと抱きしめて言った。


「おにいちゃん・・・」

「ユキ、いくよ」

「あっ、おにいちゃん、あつい、あついよ」

「ユキ、心配すんな、もうすぐ気持ち良くなるから」

「はいはーい、ここ大事なトコだから、紛らわしい会話はお終いー!」


オレとユキを見下ろしながらミーナが言った。傍らではアカネがなぜかちょっぴり頬を染めながら、それでも心配そうにユキを見つめている。そう、オレは観光してようやくリラックスしてくれたユキの、本来なら眼球があるはずのそのくぼみに、ばあちゃんのエリクサーを数滴さしたところだった。


「おにいちゃん、なんかカラダが、カラダが・・・」


最初は顔のまわりがポウっと輝き出したかと思うと、その光はやがてユキの全身を包み込んでいった。おいおい、本当に大丈夫なのか?


「おにいちゃん、助けて!!」

「ユキ!」

「ユキちゃん!」


光が一段と輝きを増した時、何かが弾けたようにユキが叫んだ。

ピキッ!っといやな音がしたかと思うとユキはバタッと崩れ落ちた。

半径5mのものがすべて凍りついていた。


「あついって言ってたじゃんか。なぜ凍りつく?」


ユキを抱きしめていたオレは鼻から氷柱を垂らしながらつぶやいた。そういやユキのオヤジさんも『氷結結界』とか使っていたっけ。

周りを見ると・・・ミーナやコロはもちろん、アカネまでもギリギリ氷の範囲外へ退避していた。


「お前らなあ・・・」

「すみませんボーイ様」


いや、いいんだよ、仲間がみんな危機管理能力が高くって。でも今のって・・・


「コロの時と同じ、魔素の大量放出、よね」

「ああ、きっとまた変なのがわちゃっと寄ってきそうだな」

「変なのって何よ!私のどこが変なのよ!」

「ミーナの事じゃないって」


ううんと声を上げ、ユキが目を覚ました。


「あ、おにいちゃん」

「よかった、無事だったんだね」


ユキはゆっくりと両目をあけ、まじまじとオレの顔を見つめるとぽろぽろと涙を流した。


「ユキ、どうした、大丈夫か?どこか痛いとこあるのか?」

「みえる、みえるよおにいちゃん。ちゃんとふたつのめでおにいちゃんがみえる!!」


そうだった、ユキの目を治すのが目的だったんだっけ。


「やったな、ユキ!ますますかわいくなったよ」

「ありがとう、おにいちゃん!」


ピー~~~ッ!!!

あたりに呼子と思われる笛の音が鳴り響いた。


「ボーイ、囲まれてるよ」

「わかってる」


丘の四方から5~6人の男たちが棒術で使う六尺棒を持ってじりじりと近づいてきた。


「あれは神聖教団の僧兵(モンク)たちのようです」

「モンクじゃモンクも言えないか・・・すみません」


オレも斬月を抜いて身構えた。出来れば無駄な殺生はしたくないので、片刃の獲物でつくづくよかったと思う。


「そちらはC級冒険者、ボーイ殿とお見受けする。相違ないか?」


僧兵の1人が訊ねてきた。


「だったらなんだって言うんだよ」


僧兵たちが少しざわついた。


「おい、どう見てもまだ子供だぞ」

「こんな子供がまさか・・・でもとんでもないエロガキって事も・・・」

「言われてみればスケベそうな顔してるな」


(えらい言われようやな)


先ほどの僧兵が再び話し出した。


「C級冒険者ボーイ、神聖教団ミカミ支部の神父アボット暴行 並びにシスターベル強姦の罪により捕縛する!」

「はあ!?」


どうやら先日の夜の事がかなり歪曲されて伝わっているようだ。多分あのブタ神父のせいだ。こんな事なら完膚なきまでに叩きのめしておけばよかった。


「かかれ!」


僧兵達は一斉に襲いかかってきた。すかさずアカネはユキをガードする。


「ガルルル!」

「うわっ、こいつが銀狼だ!」


コロは1人の僧兵に踊りかかり突破口を開く。


「ミーナは手を出すな!」

「はいはい」


オレは縮地で1人の僧兵に詰めよると、一瞬のうちにその六尺棒を払い上げ、みぞおちに一撃を食らわせた。


「ぐっ!」

「怯むな!」


僧兵の戦闘レベルはそんなに高くなかった。オレは嵩にかかって僧兵達を次々に斬り捨てていく。もちろん、すべて峰打ちだ。


「こ、こいつ、できる!」


オレは最後の1人の僧兵の背後に回り込み斬月を突きつけた。


「お前達か、オレの村に火をつけたのは!?」

「村?何の事だ、我らは極悪人捕縛の命を受けてきただけだ。何があろうと決してそんな真似はしない」

(嘘は言ってないみたいよ)

「そうか、悪かったな。でもこっちも正当防衛だからな。はっきり言うけど、オレ、無実の罪だから」

「そ、それなら我らに同行して教団で無実の主張をすればいい」

「そんな簡単にいく話じゃなさそうなんだよな」


下っ端は知らされていないだけで、教団の目的も多分銀狼だろう。加えて第3王子、風の精霊、魔族の少女ときたら捕縛即バッドエンド確定ってか。


「ごめんよ」


オレは僧兵の首筋にトンと当て身を食らわせた。僧兵は声も上げずに気絶した。


「どうやら中ボスのお出ましのようだ」

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