196.学生冒険者、今回も出番が少ない
生徒会長選挙当日、1、2年生は全員放課後の体育館に集合した。
現生徒会執行部の手で即日開票が行われるからだ。
3年生もオブザーバーとして参加できるとあって、結局ほぼ全校生徒が一堂に会する事となった。そりゃそうだ、あの事件以来初めて、そして最後になるであろう現生徒会役員揃い踏みが見られるのだから。
「誰が当選するかなあ?」
チコが目をキラキラさせながら候補者が並ぶステージ上を見上げている。
「誰がなっても大勢に影響ないだろう」
「そういう事」
「ボーイ君達はクールなんだな」
ブーマー君に言われるまでもない、オレとキッドは実際今回の生徒会長選挙にあんまり関心がない。
今の2年生を否定する気はないけれど、第2王子のいる3年生、第1王女のアカネのいる1年生に挟まれてイマイチパッとしない感じ。多分誰が当選しても大きな変革は望めないだろう。最も悪目立ちしたくないオレにとってはその方が好都合なんだけど。
(今さら何を・・・)
(なんか言ったかミーナ?)
(別に)
ステージ脇で集計していたブロディ書記、ハンセン会計は何やら小声で確認し、手にしたメモを司会のエリザベスさんに手渡した。どうやら開票結果が出たようだ。
「それでは開票結果を発表しますわ!」
凛とした声でエリザベスさんが発表する。そうそう、これがオレの知っているエリザベスさんの本来の姿なんだよな。今までいろんな重圧があったんだろうけど、本当、元気になってよかった。
「2年生75名、1年生101名、うち有効投票数163票でした。第1位は・・・得票数65票、2年A組ボーリック君ですわ!」
「「おおーっ!」」
ボーリック先輩は起立すると生徒達に笑顔で手を振った。陣営がワッと湧き立つ。
確か下馬評では次点だったっけ?候補者乱立の中これだけの票を集めたのだから大したもんだ。
「異議あり!!」
「「!!」」
生徒の1人が立ち上がった。
「ボーリック君は不正をしていました。だからこの結果は無効です!」
「「ええーっ!」」
「私も見たわ!ボーリック君の支持者が賄賂を配っているのを!」
「オレも見たぞ!」
「私も!」
俄かに会場が紛糾してきた。もしかしてここからオレの出番?
オレは有事に備えてそっと斬月を確認した。
「皆さん、静粛に!ボーリック君、この件について弁明はありますかしら?」
「すみません、少し時間を下さい」
ボーリック先輩は取り巻き、もとい推薦人達のもとに駆け寄ると何やら聴取を始めた。やがてうんうんとうなづくと、ステージ上に戻って行った。
「えー、ボーリックです。先程ご指摘頂いた件ですが、推薦人達を問い詰めましましたところ1人がルーテシアの新作チョコレートを数人の生徒に配っていた事を認めました」
「「「ブーブー」」」
秘書がやりましたってパターンだな。トカゲの尻尾切りで自分はやってない的な・・・
「知らなかった事とは言え、私の陣営がやった事は事実です。彼らの不祥事は全て私の責任、よって今回の当選は辞退致します」
「「おおーっ!」」
いや、ほんと、おおーって感じ。ボーリック先輩、いいコやん。
これが本来上に立つべき者の姿なんだろうけど、マジで世の政治家達に見せてやりたいくらいだ。
ボーリック先輩が一礼して壇上を降りると、ようやく会場は落ち着きを取り戻した。どうやらオレの出番じゃなかったみたい。
「お騒がせしました。進行を再開します。ボーリック君の辞退により、繰り上げ第1位は・・・得票数63票、2年A組オリビアさんですわ!」
「「おおーっ!」」
うん、確か下馬評では本命だったコだ。ボーリック陣営の不正がなければ、やっぱり来たかって感じなんだろうか。
「えー、ご紹介預かりました2年A組、オリビア・マドロックです」
オリビア先輩が挨拶を始めた時、体育館のドアがバンッと開いて、1人の初老の男性が飛び込んできた。
「「!!」」
「どうしたのです?セバスチャン!?」
「大変です、オリビアお嬢様!」
「「あああ〜」」
オリビア先輩の呼びかけで突然の入場者がマドロック伯爵家の執事だろうと容易に想像できた(と言うよりやっぱりセバスチャンだし)。ここか、オレの出番は!?
「実は・・・」
初老の執事は一礼してステージ上に上がると、オリビア先輩に何やら耳打ちした。オリビア先輩の顔からさーっと血の気が引いていくのがここからでもわかる。
「・・・皆さん、挨拶の途中ですみません・・・今回の生徒会長当選の件ですが、誠に申し訳ありませんが一身上の都合より謹んで辞退させて頂きます!」
「「「ええーっ!!!」」」
オリビア先輩は言うや否や、セバスチャンと共に体育館を飛び出して行った。
再び騒然とする会場。いや、一身上の都合と言われてもモヤっとしたまんまじゃん。
(ミーナ)
(わかってるわよ!)
オレはミーナにそっと1本のハイポーションを手渡した。『稀代の大魔女』直伝のハイポーションだ、大抵のケガや病気ならコイツで治す事ができる。
ミーナは阿吽の呼吸でこれを持ってオリビア先輩の後を追った。オリビア先輩とは縁もゆかりもないけれど、もし誰かがケガや病気だと言うのならきっと役に立つだろう。
トラブルがお家騒動とかだったら流石にオレにはどうしようもないけどね。
「皆さん、ご静粛にお願いしますわ」
エリザベスさんは進行を続ける。
「今回の件、誠に遺憾ではありますが、さらに繰り上げ当選とさせていただきたいと思います。繰り上げ第1位は・・・得票数25票、2年B組、シーナさんですわ!」
「「「おおーっ(ええーっ)!!!」」」
悲鳴にも似た歓声が響き渡る。なんとB組からの当選だ。25票って、ほとんどB組の組織票じゃ・・・あ、そういやオレもシーナ先輩に入れたんだっけ。
「あ、ありがとうございます・・・」
ステージ上で感極まって泣き出すシーナ先輩。後から聞いた話だけど下級貴族出身者の生徒会長就任は史上初だそうだ。うん、なんかいいね。もしかして今度こそオレの出番?じゃないよなやっぱり。
こうして波乱の生徒会選挙戦は幕を閉じた。
今までお疲れ様、エリザベスさん。
ちな現生徒会長のテリー第2王子は公務多忙の為欠席だったよ。
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