177.学生冒険者、模擬店を出す
学園祭。
秋に催されるこの行事は、春の体育祭と並んで学園の一大イベントだ。
もっとも体育祭はクラス対抗戦で学生同士が切磋琢磨する事を目的としているのに対し、学園祭は日頃お世話になっている学外の家族や友人を招いておもてなしをする事が目的で、そもそもコンセプトが違う。うん、貴族の考える事だからあっちの世界の学園祭ともちょっと違うかな。
オレ達が学園祭のプレイベントでもある国立学園との対抗戦に向けて特訓を続けている間、他の学生たちは学園祭の準備に勤しんでいた。
「うわー出来てきたなー」
「「でしょーでしょー」」
双子のエルフ、アーシャとミーシャがドヤ顔で答える。きらびやかなデコレーションが施された教室、そしてなぜか入り口には『うーどんどん そーばんばん』という謎の立て看板が。
「ボーイ君も凄い料理人連れて来てくれたね。ウマノスケさんにはお礼を言わなくちゃ」
「うす」
「ウマノスケの作る料理は絶品ニャ。どこの貴族のお抱えシェフにも負けないニャ」
「だってさ。サンキュ、ウマ」
「あざす、親父殿」
おもてなしは2つ。まずは月並みだけど各部よる活動発表。もうひとつは各クラスがそれぞれ趣向を凝らした料理を学生自ら調理し、提供するレストラン。つまり学園全体がレストラン街になるって訳。各クラス料理指南役としてシェフを1人つける事ができるので、お貴族様達はこぞって一流のお抱えシェフを招へいしている。そして最終日夕方にはそれぞれの集客数が発表される。あ、やっぱり事実上のクラス対抗戦か。
ちなみに下馬評では1番人気がアカネのいる1年A組の王宮料理(王家御用達シェフ監修)、2番人気がエリザベスさんのいる3年A組のジビエ料理(辺境伯御用達シェフ監修)。実際あとは似たような貴族料理ばっかりなんだろうな。
「お前のとこの料理人、あいかわらずいい腕だよな。平民向けの大衆料理なのにめちゃくちゃうまいぞ」
「今回の学園祭最大のダークホースだニャ」
ウマは冒険者パーティー『最後の希望』のメンバーにして、居酒屋『なじら亭』の料理人だ。その腕前は超一流で、下手なレストランのシェフのソレをはるかに凌駕する。
「しかし考えたな、高級料理じゃなくてうどんとそばで勝負って」
「逆転の発想だな。貴族は美食には飽きてきているだろうし、平民のお客さんにはリーズナブルな料金で提供できるしね」
そう、うちのD組はうどんとそばを提供する。ローコストで大量生産できるし、やっぱりうまいよね!
「ここでいいとこ見せて、アカネさんをダンスパーティーに誘ってやるぜ」
なんかキッドが別の意味で気合が入っている。
「まだそんなレベルの関係ニャのか?ヘタレ皇子だニャ」
「ほっとけ!」
アカネとキッド、内々では婚約者という事なんだけど、全然進展ないんだよね。夏休みには一緒にバカンスした仲だってのに。ん、ダンスパーティーって言った?そんなのもあるの?後夜祭?聞いてないよ。
「はいはい、おしゃべりはここまでニャ。学園祭まであと1日、女子は飾り付けの仕上げを、男子はうどん・そば作りをしっかりマスターするニャ!」
「「ふぁ~い」」
オレとキッドがいない間、ミィがクラスをまとめてくれていた。チアの練習もあったろうに、ミィにも感謝だな。
「よーしもうひと踏ん張り、がんばるぞー!」
「「「おおおーっ!!!」」」
こうして学園祭前日、夜遅くまで模擬店内装作り、うどん・そば特訓は続き、それでもお子様がおねむの時間までには全ての準備が完了した。
明日は初めての学園祭だ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「で、これが学園祭?」
「いや、どう見ても学園祭だろう」
学園祭当日、オレは教室の窓から校門あたりを眺めて言った。
キッドは当然って顔つきだけど、なんか思ってたのと違ってた。
学園祭って言うくらいだから市井のお祭りのように露店がひしめき、物凄い人出で、大人も子供も楽しそうにバカ騒ぎをする、そんなイメージを持っていた。でも、実際は元貴族専門学校だけの事はあり、校門には何台もの馬車が乗り付け、中からは正装をした紳士淑女が大勢のお付きを従えて現れると、静々と学園の門をくぐっていく。つまりは全然盛り上がってない。
「何だかなあ」
「ボーイもそう思うニャ?」
「やっぱり変だよね、貴族ってのは」
ミィもミーナも同意見だ。
「お父さん達、ちゃんと見に来てくれるかなぁ」
ウサギ獣人のキャロットちゃんが心配そうに言う。オレ達のD組はキッドとダリル君達3バカトリオを除く学生は平民か他種族出身だ。みんなキャロットちゃんとおんなじ気持ちだろう。
「お昼が近くなってお客さんが増えてくればまた変わってくるだろう。オレ達も模擬店の最終チェックを済ませたら部活の活動発表を見に行こうぜ」
「じゃ、また後でニャ」
午後の部担当のミィとキャロットちゃんは一足先に教室を出て行った。オレとキッドも午後の部担当だ。午前の部担当のダリル君達の仕込みの手伝いをしようとすると、やんわり断られた。
「心配ねえよ、仕上げはバッチリさ」
「そっかー?」
「まあ、ウマノスケさんのレシピ通り作ってるからな。それより、チコやブーマーのところ、早く見に行ってやれって。喜ぶぞ」
「わかった」
「何なら午前中で売りきっちゃってもいいからな」
「無理ゲーだろ!」
模擬店の開店は10時からと決まっている。オレとキッドはチコのいる冒険部の活動報告やら、ブーマー君のいる美術部の個展やらを見てからこっそり教室そばまで戻って来て陰からオープンを見守る事にした。
カツオと昆布のいい匂いが廊下まで流れてくる。
「どうやら大丈夫そうだな」
「ああ」
「保護者かっ!」
ミーナにツッコミを入れられた。でも気になるもんはしょうがない。
ここでキンコーンと10時のチャイムが鳴った。
教室からはパタパタと午前の部担当の双子ちゃん達数名のかわいいメイドさん達が姿を現した。いよいよだ。
「せーの」
「「麺食堂『うーどんどん そーばんばん』オープンでーす!!」」
オープン30分。まだ1人もお客さんが来ていない。
「おっかしいなー、うまい料理にかわいいメイドさん達。繁昌しない訳がないんだけど・・・」
「まだ昼メシには早いから。もう少し様子を見ていよう」
「ちょっとアンタ達、子供じゃないんだから!」
そう、オレとキッドとミーナは廊下の陰からずっとD組の様子をこっそり見守っている。今のところお客さんはゼロ、ゼロだ。
ミーナは呆れているようだけど、もうちょっとだけ見守る事にした。
さらに待つ事30分。まだ1人のお客さんも来ていない。
「おっかしいなー、予定じゃこんなはずじゃなかったんだけど・・・」
「まだ11時。これからこれから」
「ちょっと、もしかしてまだ見ている気!?」
しかしお客さんは11時30分になっても12時になってもやって来なかった。
大盛り上がり、とはいかないけれど、学園祭自体はそこそこ盛況だった。他のクラスの模擬店にはそれなりにお客さんが入っているようなんだけど・・・
暇過ぎてフラフラとその辺を飛び回っていた(もちろん認識阻害をかけて)ミーナが戻って来た。
「すごいよ、アカネのお店とエリザベスさんのお店なんて行列が出来ちゃってるんだから!」
「ま、下馬評通りだな」
「あ、ボーイ君達、いたいた」
「探したんだな」
「お、チコ、ブーマー君、来たのか」
お昼休憩で部活の方に回っていたチコとブーマー君がやって来た。
「チコ、お前の親御さん達は来ないのよ?」
「うん、平民が入っていいとこじゃないって遠慮して」
「そこは無理にでも呼んでいいって!」
「あ、おらんとこもおんなじなんだな」
「ちょっ、ブーマー、お前んとこもかよ!」
どうやらD組の保護者はヘタレ、もとい慎重派が多いらしい。多分自分達が余計な事をして、せっかく入学させた子供の立場が悪くなる事を恐れてのせめてもの親心なんだろうけど、学園祭は無礼講だぜ、おい!
「まあまあ、ボーイ。腹も減って来たし、うどんでも食べてこうぜ」
「オレ達がお客さん第1号かよ!」
「「あ、ボーイ君達、いらっしゃいませー!!」
天ぷらうどん、絶品でした。
この後、数人の同級生の保護者が食事に来てくれたので、学外からのお客さんゼロなどという不名誉な記録は作らなかった。しかし・・・
「本日の来場者、おおよそ1800人」
「「「おおおーっ」」」
「D組の模擬店来客数26人でした」
「「「ガーン!!」」」
初日の売上は全校10クラスのうちダントツの最下位だった。
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