176.学生冒険者、ダイヤモンドを駆けめぐる
5回の表、王立チームの攻撃。
ノーアウトランナー1塁で回ってきた初打席。
点差は2点。ホームランで同点の場面。
前回と冒頭が同じなのは、オレの打席で一球も打たずにまるまる1話使っちゃったから。これぞ野球(魔球)漫画クオリティ!
唯一違うのは王立チームの応援団が駆けつけて来てくれた事。
「「「がんばれがんばれコク学!!!」」」
「「かっせーかっせーオウ学!!」」
応援合戦も盛り上がる中、オレはゆっくりと打席に立った。
「プレイ!」
状況が変わっても動じる様子もなく、ピッチャーヒルマン君は大きく振りかぶって第1球を投げて来た。
ズバン!
「おわっ」
「ストライーク!」
豪速球がキャッチャーのミットに収まった。
「は、早っ」
風魔法を纏ったボールは時速160キロオーバー。簡単には打てそうもない。
バットを握る手にも自然と力が入る。
第2球。
「どりゃーっ!」
オレは思いっきりアッパースイングでブンッとバットを振り抜いた。勢いつき過ぎてドンと尻餅をつく。
「ストライーク、ツー!」
空振り。
バットとボールとの間に天と地との開きがあった。国立のエースと王立のベンチウォーマー、力の差は歴然、のように見えた。
(ちょっとボーイ、何やってんのよ!)
(わーってるって)
オレは2度3度素振りをして打席に入り直す。ほんと、すごいピッチャーだよ、たとえストレートとわかっていても素人じゃ手も足も出ない。でもオレはただの素人じゃじゃない、より風の精霊に愛されているA級冒険者だ。
(やだボーイ、愛されているって・・・)
(いや、深い意味はない)
第3球。
ヒルマン君は遊び球は入れずにど真ん中ストレートを投げて来た。
「それを待っていたんだぜ!」
「ナニッ!」
オレは上段の構えから白球を思いっきりぶっ叩く。いわゆる大根切りだ。
ガンっとバットごと地面に叩きつけられたボールは、ワンバウンドして信じられないくらい高く高ーく舞い上がった。
「「うおおおー!!」」
「「「何だ何だー!!」」
「ダリル君、走って!」
「お、おう!」
一塁上でポカンとしているダリル君は慌てて走り出した。二塁を回ったところでようやくボールが落下して来たが、スタート遅れが影響してさすがにホームまでは行けなかった。
「ご、ごめんボーイ!」
「どんまいどんまい」
今の当たりならオレの足ならばランニングホームにもなっただろう。でも点差を考えるとランナーを貯めて正解だ。
「「いいぞーボーイ!!!」」
応援団の声援に応えオレは手を挙げる。いや、ただのボテボテのシングルヒットなんだけどね。
「秘打、大根切り!ってか」
秘打でもなんでもねーし。
でもこれでノーアウト満塁。チャンスは広がった。
ネクストバッターのフリッツ皇子は、地面に叩きつけられてヒビの入ったオレのバットを拾うと、そのまま打席に入った。頼むぞニセ皇子、依頼は果たしたからな。
「君、そのバットは・・・」
「これで大丈夫です」
「プレイ!」
プレイ再開。
「「「がんばれがんばれコク学!!!」」」
「「かっせーかっせーオウ学!!」」
「キャー、フリッツ皇子っ、こっち向いてー!」
「私のハートを撃ち抜いてーっ!」
オレの打席より圧倒的に黄色い声援が多いな。
その初球だった。
シュ!
「もらいっ!」
キンッ!!
快音を響かせ大空に舞い上がる白球。ぐんぐん伸びてバックスクリーンへと・・・
「「「キャー!!!」」」
「「そのまま行けーっ!!」」
「サセナイネ!!」
「ピ〜〜〜〜ッ!」
センターヌートバー君の従魔、ペッパーミル・ホークが白球を追う。なんとその目の前で白球はパンッと破裂し、文字通り四散した。
「「「何っ!!」」」
「ピ〜〜〜ッ!」
本能なんだろう、状況が理解できないながらもペッパーミル・ホークは1番大きめ破片をパクッと咥え、手(足)の届いた別の破片を見事に空中キャッチした。
「オウッ」
一片は失速してヌートバー君のグラブの中へ。そして残りの一片は・・・ひょろひょろとそれでも何とかギリギリスタンドインした。
「「「おおおおーっ!!!」」」
「すげー!!」
「かっけー!!」
「皇子すてきー!!」
「いいぞーフリッツ皇子ー!!」
2塁側王立応援団からはもちろん、1塁側国立大応援団からも大歓声が湧き上がる。
「秘打、ジャコ◯ニ流星打法!」
声援に応え、1塁ベース上で高々と腕を挙げるフリッツ皇子。え、何で1塁ベース上かって?
「あれ?」
「ホームランじゃないの?」
ボールはファースト、アルトマン君のグラブの中にあった。
フリッツ皇子の当たりはボテボテの内野ゴロ、外野まで飛んだのは折れたバットだけだったんだなあ、コレが。
みんなが打ち上がったボール(実はバットの破片)に目を奪われている間に、ボールはピッチャー右を転がり、セカンドのリー(兄)がこれを掴んでファーストへ送球。一瞬フリッツ皇子の足が早くてセーフだったって訳。
「何だよ、ホームランじゃないのかよ」
「でもなんかすげーモン見れたよな」
「フリッツ皇子ステキー!!」
この間2塁ランナーのダリル君が返って3対2。なおもノーアウト満塁でキャプテンアボットさんが打席に入った。
よしっ、舞台は整った。
「アボットさん、頼みます!」
「ありがとう、みんなが繋いだこのチャンス、決して無駄にはしない!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「しかし惜しかったニャー」
「でも国立相手によく頑張ったよ」
「「今日は飲むぞー(ジュースを)!!」」
ここは王立学園の小体育館。今日の対抗戦の打ち上げ会場だ。
チームの検討を讃え、学園側急遽セッティングしてくれた。
「オレのせいでこんな・・・」
「キッド君はがんばったわ。元気を出して!」
「は、はい!」
アカネに慰められ、ちょっぴりニヤけているキッド。
試合は、そう5対4で国立チームのサヨナラ勝ち、それはつまりオレ達王立チームのサヨナラ負けを意味していた。
最終回表、ノーアウト満塁で迎えたアボット先輩の打席。
アボット先輩は見事に2点タイムリーを放ち一時は逆転に成功した。
しかしその裏、疲労の色がうかがえるピッチャーキッドはランナー1塁の場面で主砲アルトマン君にアルプススタンド最上段に豪快なサヨナラホームランを叩き込まれた。
ま、そんな感じ。
(でも面白かったねー)
(そうだな)
でもミーナはうれしそうだ。
「ボーイ君、お疲れ様。そしてありがとう」
「アボット先輩・・・」
今日の対抗戦はアボット先輩の引退試合でもあったんだ。
「先輩、すみませんでした。先輩の大事な引退試合なのに花道を飾ることができなくて・・・」
「いやいや、君達1年生が臨時部員として助っ人を引き受けてくれたおかげで試合ができたんだ。君達には感謝しかないよ」
「そんな・・・」
「ただ心残りなのは、ボクが引退したら魔球部が廃部になっちゃう事かな。さすがに部員が1人もいないんじゃ部活として成立しないからね」
寂しそうなアボット先輩。参ったな、そういうのなんか苦手なんだよな。
「先輩、オレ、正式に魔球部員になります(幽霊部員だけど)。3年後の対抗戦にはもういないけど、また試合ができるよう魔球部を守っていきますから!」
「本当かい?ありがとうボーイ君。これで安心して引退できるよ。絶対だからね、言質は取ったよ」
「はい!って、え?」
なんかアボット先輩に上手いようにハメられた?
こうして王立聖アルンメリア貴族学園VS国立アルンメリア王都学園との対抗戦は幕を閉じた。
魔球対決は3年後、来年は待ってましたの剣術対決だ!
今回の対抗戦がきっかけで魔球ブームに火がつき、プロ魔球リーグが発足するのはまた別のお話。
さらに10年後、こっちの世界とあっちの世界で魔球と野球の交流戦が行われるのはまたまた別のお話。
お読みいただきありがとうございました。これからも毎週更新していきますのでよろしくお願いします!
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