173.学生冒険者、反撃開始する
「バッター、オーディズ君に代わり、ブーマー君」
「ブーマー君、作戦通りに」
「やってみるだ」
「ブーマー、リラックマリラックマ!クマ獣人だけに」
「「・・・」」
「お、おらあ行ってくるだ」
オレと同じくベンチウォーマーのダリル君が盛大に外したお陰で、ブーマー君もリラックスしたようだ。
良かった、オレも同じ事言いそうだった・・・
「おい、王立の奴ら、本当に獣人がメンバーにいるぞ」
「誰が来たって打てやしないぜ!」
バッターボックスに立つブーマー君、やはりヒト族と比べると体が一回りも二回りも大きい。威圧感だけなら国立の主砲アルトマン君に負けていない。
「プレイ!」
「ハッ、的がデカくなって投げ易くなったぜ!」
シュッ!
バシッ!
「ストライークッ!」
「あ」
「あちゃー」
国立のエース、ヒルマン君の快速球が決まった。初見じゃ打てないだろ、アレは。
第2球。
シュッ!
「うおおおーっ!」
ブーマー君は雄叫びを上げながらフルスイングした。風圧がベンチまで届きそうだ。
バシッ!
「ストライークッ!」
「あ」
めちゃ振り遅れ。タイミングが合う合わないのレベルじゃない。
「ヘイヘイ、バッター扇風機だよー」
「ブーマー君・・・」
「これで終いだ」
シュッ!
カキーンッ!!!
「「「え?」」」
3球目、ブーマー君はまるでゴルフのスイングのようなアッパースイングでバットを振り抜くと、打球はものすごい角度で高々と舞い上がった。
「当たった・・・」
「っしゃー!!」
当たったんじゃない、狙い通り当てにいったんだ。
そう、あれはゴルフのスイングじゃない、野生のクマが片手で川を泳ぐサケをすくい上げるしぐさ、クマ獣人ならではの必殺技、秘打【サケのつかみ取り】だ。
「そのままいけーっ!」
「まずは1点!」
打球はぐんぐん伸びてセンター、ヌートバー君のはるか頭上を・・・
「ピ〜〜〜〜〜ッ!」
「何っ!」
パクッ!
何か鳥の様な生き物が飛び出してくるとスタンドイン直前の打球を咥え、バサバサとゆっくりヌートバー君の肩の上に降りてきた。
「アウッ!!」
「ちょっと待てっ!」
何でアウトなんじゃい!?鳥を使うって反則じゃないのかよ!
「えー、ただいまのプレーについて説明致します」
主審が声を大きくする魔道具を使って説明を始めた。
「王立チーム、ヌートバー君の放った生き物はペッパーミル・ホーク。鷹に似ていますがれっきとした魔物です。召喚魔法で呼び出したヌートバー君の従魔なので、これを魔法と認めプレーは有効、アウトと致しました。今後も従魔の使用は同様に認めます」
「「「うおーっ!!!」」」
「「・・・」」
湧き上がるスタンド、沈黙する味方ベンチ。最初に口を開いたのはキャプテンのアボットさんだった。
「よくも悪くもこれが魔球ってヤツだ、魔法は使っていいルールだしな。打ちも打ったり捕りも捕ったりってとこか」
「そんな簡単な話じゃ・・・」
「ちょっと何落ち込んでんのよ!まだ負けた訳じゃないんだし、皆んなしっかりしなさいよ!」
暗黙のルールを破って姿を現したミーナがハッパをかける。
「そ、そうだよな・・・」
「ストライークッ!」
そうだ、1番のチコが既に打席に入っていたんだ、オレ達がしっかり応援してやらないと。
「まだまだ勝負はこれからだ、チコ、一発ブチかませーっ!」
聞こえているのか、チコはチラリとこっちをみてニコリと笑ったように見えた。
シュッ!
コンッ
チコのバットが初めてボールを捉えた。捉えた、と言うよりも当たっただけのピッチャーゴロ?
「いくっ!」
脱兎の如く猛ダッシュをするチコ。
「「「何だー?」」」
「回れ回れー!」
チコは50メートル5秒を切る王立1番のスピードスターだ。ピッチャーが捕球する頃にはすでにファーストベースを駆け抜けていた。
「セーフッ!」
「よっしゃー!」
「初ヒットがボテボテのピーゴロって・・・」
「何でもいいや、いいぞチコーっ!」
「よーし、フリッツ皇子、続いて下さい!」
一気にベンチの気勢が上がった。
「んじゃま、行ってきますわ」
なんか気合いのなさそうなフリッツ皇子だったが
キンッ!
初球を綺麗にセンター前に弾き返した。
「「うおーっ!!」」
「2者連続ヒットだ!」
「「「キャーフリッツ皇子ーっ!!」」」
最後のキャーはスタンドの皇子ファンの女の子達ね。
「凄いピッチャーだけど、さすがに3回りもすれば目が慣れてくるさ」
仮にも一国の皇子(の影武者)、身体能力は高い。
うん、ブーマー君はアウトだったけど、アレからこっちに流れが来ているんじゃない?
「よーし、キャプテン頼みます!」
「おう!」
キンッ!
ピッチャーの2球目を捉えた打球は、大きなセンターフライとなった。
捕球態勢をとるヌートバー君。
「これは犠牲フライになるぞ」
セカンドランナーのチコはクラウチングスタートの姿勢をとった。
パシッ。ヌートバー君がボールをキャッチすると全力でスタートする。
「レーザービームネー!!」
ヌートバー君の返球はまさかのレーザービームでダイレクトにキャッチャーのミットへ。
「「なにーっ!」」
回り込むチコ、思わずクロスプレーとなった。
「「「キャーッ!!!」」」
「「チコーっ!!」」
「セーフッ!」
「「やったーっ!!」」
チコの好判断で王立チームは1点を返す事ができた。
「よーし、キッド続けー!」
「おうよ!」
キンッ!
抜けたか!?
バシッ!!
キッドの打った強烈なライナーはファーストアルトマン君が横っ飛びにダイビングキャッチした。
「アウッ!スリーアウトチェンジ!」
「「ああ〜」」
「クソっ!」
「どんまい、次は打てるぞ!」
ここで異変が起きた。
「ううっ・・・」
「チコ、どうした?」
「さっきのホームインで足を捻ったみたいで・・・」
「見せてみろ!」
チコの足首は象のように腫れ上がっていた。
「これは出場は無理だな」
「こんなもん、オレのハイポーションで」
「ダメだ。薬物の使用は一切禁じられている」
「魔法は良くて薬はダメなのかよ!」
この世界、薬オッケーとなれば多分ドーピングだらけになりそうだもんな。
「ごめんねボーイ君」
「いいから棄権しろ!後はオレ達が何とかするから」
「うん、任せたよ」
「よし頼む、センターチコ君に代わりボーイ君」
「よっしゃー!」
守備固め?だけど、いよいよオレ様の出場だ!
お読みいただきありがとうございました。これからも毎週更新していきますのでよろしくお願いします!
また、ブクマ、評価等いただけるとメチャクチャうれしいです(*^_^*)




