170.学生冒険者、ベンチウォーマーとなる
学園長室に呼び出されたのは1年男子ばかり10人。A組3人、B組2人、何故か1組おいてD組5人という構成だ。
「毎年9月には、我が王立学園と国立学園との5対5の対抗戦が行われている。今年は3年生のキャプテンと、後は1年生でメンバーを組みたいと思っている。君達がその候補生だ」
王都には幾つもの学校がある。その代表格が貴族の子女のみが入園を許可されているエリート校の王立学園(今年から民間に門戸を広げたが)と、アカネのオヤジさんである先代アルンメリア王が平民の為に作ったマンモス校の国立学園だ。ふーん、そんな交流会があったんだ。オレはまだ見ぬ戦士と戦える事に、ちょっぴりワクワクしてきた。
「興味のある者は放課後グラウンドに集まってくれ。簡単な適性テストを実施して正選手4名と補欠3名を選出する」
「キッド、そんなのあるって知ってた?」
「ボーイ、もう少し学校行事くらい調べておけよ」
「ほんとソレな。お前、万能なくせにどっか抜けてんのな」
多分ギリギリ候補生になったと思われるダリル君にまで言われたよ。夏休み明けでどっか大人びたダリル君。彼なりに成長しているようだ。
「しかし、どういう人選なんだ、コレ?」
他の組はよーわからんが、D組に関して言えばいささか疑問が残る。呼ばれたのはオレ、キッド、ダリル君、ブーマー君、それにチコの5人。まあ、オレとキッドは当然として、チコなんて男の娘なんだぜ?一応冒険部で頑張っているみたいだけど最も対抗戦に向いてないんじゃないか?
「それなんだけどボーイ君」
「なんだチコ、実はオヤジさんが町道場の師範だとか?」
「ううん、普通の商人だけど」
「そっか。まああんまり無理すんなよ、人には向き不向きってのがあるんだからから」
「あ、ありがとう。でも・・・」
チコは何か言いかけたが、やめた。そうだよな、本人がチャレンジしたいなら好きにさせればいい。ピンチになったら助っ人に入ればいいか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
放課後集まったのはA組のフリッツ皇子(キッドの影武者)ともう1人、D組の5人だけだった。全員がメンバー確定だ。
そしてグラウンドでは、学園長の代わりに生徒会副会長のエリザベスさんが待っていた。
エリザベスさんはチラリとオレの方を見た。一瞬目が合ったが、直ぐに全員に向き直った。
「皆さん、ご協力感謝します。ここからは生徒会主導で進めさせていただきますわ」
オヤジさんから聞いてはいたけど、生徒会って何でもやらされてるんだな。
「不本意ながら参加させて頂きます。当然学園側からは何かしらの評価を頂けるのですよね?」
A組の子が言う。成程、その為の参加か。せっかく選ばれたんだからもっと楽しめばいいのに。
「当然ですわ。皆さんが将来志望先に就職できるよう、目一杯内申に加点させて頂きます」
「平民でも?」
「もちろん」
「獣人もだろか?」
「アルンメリア王国は身分や種族で人を差別するような事はありません。辺境伯の娘であるこの私が誓います」
キッドがオレに耳打ちする。
「彼女、凛としてザ・貴族令嬢って感じだな。超美人だし。ボーイの知り合いなんだろ?」
「まあね」
「もう少し早く知り合っていればちょっとは興味があったかもな」
「アカネに言っておく」
「やめれ」
確かにエリザベスさんは魅力的な女性だ。第2王子のフィアンセなのも頷ける。ただ、何となく疲れているように見えるのはオレだけか?
「適性テストは不要になったので、今日は王立学園チームのキャプテンと、これから対抗戦迄の2週間余り皆様を特訓して頂く臨時コーチをご紹介します事よ」
「第5騎士団団長、アキラだ。短い間だがよろしく頼むぜ!」
「「おおおおーっ!!」」
現役の騎士団長きたよ!しかもアキラさんて。
「アキラさん!」
「よっ、ボーイ久しぶり。元気してっか?」
「アキラさんこそ」
ここで知り合いに会えるとは、超嬉しい。アキラさんなら教え上手だから、素人集団の学生チームでも上手いこと能力を底上げしてくれるだろう。
「キャプテンも授業が終わり次第もうすぐ来ると思います。先にアキラ団長、一言ご挨拶頂けますか?」
「おう、まー何と言うかガキの頃似た遊びをよくやっていたくらいだが、実技の基本くらいなら教えてやれそうだ」
謙遜しちゃってるな。遊びって?チャンバラごっことかか?
「戦術面はからきしなんで、監督兼キャプテンからしっかり学んで欲しい。コレならいくらでも・・・いやすみません」
小指を立てたところエリザベスさんに睨まれ、慌てて引っ込めるアキラさん。女好きは相変わらずだ。
後はキャプテンだけど、オレより強い奴は無理として、やっぱり騎士団長子息で剣術部部長のバックランドさんあたりかな。ん、今アキラさん監督兼キャプテンって言ってたよな?当然監督は剣術部顧問のオグリビー先生だと思ってたけど、違うのかよ?
「ごめんごめんー。やっと授業が終わったよー」
駆けつけてくる1人の青年。うーん、少なくともバックランドさんじゃないなー。どこかで見覚えのあるような・・・
「紹介しますわ、王立学園チームの監督兼キャプテン、魔球部部長のアボットさんです」
「なんで魔球部やねん!」
あれ?ツッコミ入れたのオレだけ?
「アボットです。メンバー揃わなかったら棄権だって言われてたのでとても嬉しいです。やるからには学園代表として一生懸命がんばりましょう!」
そうか、部活の体験入学の時に会ったんだ。でも・・・
「なんで魔球部・・・」
「何言ってんだボーイ?対抗戦は剣術、魔術、魔球の3種目を3年のローテーションで実施され、今年は魔球だって学園長から聞いてただろ?」
「いや」
5対5の対抗戦と聞いた時点で、剣術、もしくは戦闘全般だと勝手に思い込んでいた。だって普通はそう思うだろ、普通は・・・
「オレ魔球なんてやった事ないのに・・・」
「大丈夫、ボーイ君ならなんだってすぐ出来るようになるって」
逆にチコから励まされた。そうか、学園長室でそれを言いたかった訳ね。
「あっ、ボーイ君だね、1年生イチの有名人の。君が来てくれて嬉しいよ、一緒に優勝を目指そう!」
「は、はい・・・」
成り行きで魔球の試合に出場する羽目に。まあ、やるからには全力を尽くすつもりだけど、しかし、こんな急造チームで大丈夫かいな?
それから2週間、オレ達は朝と放課後、猛特訓を続けた。
そしてあっという間に対抗戦当日を迎えた。
「よーし、やってやるぜーっ!」
「あ、ボーイ君はレギュラーじゃないから」
「え・・・」
オレはベンチスタートだった。




