167.学生冒険者、帰省する 2
降り注ぐ火球をすり抜け、駆け抜けるオレとコロ。
他の遠距離攻撃はない、魔法使いは1人だ。このまま接近して仕留めてやる。
ヒュン!ヒュン!
あらぬ方向から2本の矢が飛んできた。弓手の伏兵がいたようだ。
いい作戦だけど、オレ達には通用しない。
「バウッ!」
オレが叩き落とすよりも早く、コロはそれを噛み砕いた。
「コロ、そっちは頼む」
「バウバウ!」
コロは方向転換すると、バリバリと電撃を纏い弓手が潜んでいるらしい9時の方向へ突っ込んで行った。
「バウッ!」
「きゃっ」
弓手は瞬殺したようだ(多分本当に殺しちゃいない)。
先攻してきた黒衣の魔法使いまで後数メートルと迫ったところで、今度は物陰から複数人オレに斬りかかってきた。
「「ボーイ、覚悟っ!」」
本気で向かって来てはいるんだろうけど殺気がこもってないのが丸わかりだよ、タカさん。
「甘い!」
「「うわっ!」」
1人、2人・・・オレは止まる事なく叩きのめし、魔法使いの首筋に斬月を突きつけた。
さてと、お顔を拝ませてもらおうかな。
「ミカミの冒険者ギルドにも、いい魔法使いが来てくれたみたいだな」
「さすがね、ボーイ。C級冒険者が何人かかっても倒せる気がしない」
「あれ、もしかしてクラウディアさん?」
「ディディでいい」
魔法使いは、かつて共闘した事のある『爆弾3人娘』のクラウディアさんだった。
そして他のメンツは、ミカミの冒険者ギルドで世話になった『地を駆ける白狼』『シャープ兄弟』のメンバーだった。いや、手荒い歓迎もいいけど、オレ達じゃなきゃ死んじゃうから。
「「「お帰りなさい、ボーイ!!」」」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
異世界の人は暇なんだかアル中なんだか知らないけど、顔を合わせるとすぐ酒盛りをしたがる。
今日中に『最北の開拓村』まで行きたかったんだけど、昔馴染みの冒険者パーティーに捕まった以上、今夜は離してくれそうもないな。
『お帰りなさい、ボーイ君』
でっかい横断幕がギルド併設の酒場には掲げられていた。カウンターではギルド長のレイスさんと受付嬢のマリアさん(うちの娘のマリアとは別人ね)ニコニコしながらこっちを見ている。
「ボーイの凱旋帰国と、久しぶりの再会を祝って」
「「「かんぱーい!!!」」」
最年長の『シャープ兄弟』のベンさんの発声でオレの歓迎会が始まった。
「あの、オレまだ未成年なんで・・・」
「わーってるって。飲むのはオレ達、ボーイはどんどん食え」
「今日は私達のおごりよ。遠慮しないでね」
「はあ」
本日のスポンサーは冒険者ギルドらしい。オレがここで冒険者登録をしてあちこちで依頼を達成してきたおかげで、たんまりとマージンが転がり込んできたからだそうだ。
なるほど、そう言うコトなら名産のミカミ牛とピンクサーモンを嫌と言うほど食ってやる。
「しかしボーイは大したもんだ、ただの村の少年から実は第3王子、果ては巻き込まれ召喚された異世界転移者だったと、一体何人分の人生歩いてるんだ?」
「そー言われると結構激動ですね」
確かに、1年ちょっと前まではただの村の少年だったのに、うん、自分で自分を褒めてやりたくなるよ。
「タカさん達は変わりないようですね」
「そう見える?じゃーん、これを見てくれよ」
「おお、C級ライセンス!」
オレが主に小遣い稼ぎをさせてもらっていたE級パーティー『地を駆ける白狼』は同じくD級パーティーの『シャープ兄弟』と合併し『地を駆ける銀狼』と改名、更にクラウディアさんが新加入して7人パーティーとなり、C級にまで昇級していた。1年余りでここまで上がってくるとは大したもんだ。
「はは、最もディディが加入してくれたお陰で昇級が早まったんだけどな」
クラウディアさんは元々C級だったから引き上げてもらった感じ?
「ううん、みんなが努力した結果」
当のクラウディアさんは仔象程に大きくなったコロでモフモフしている。
「「癒される〜」」
「バウッ」
ジョディさんとサラさんもモフりまくっていた。うちの3人娘もそうだけど、女性はみんなモフモフ大好きだよな。
「そういや、オレの村ってどうなりました?ばあちゃん達は元気ですか?」
「『最北の開拓村』は解体されたよ。王女を護る、って目的を果たしたからね」
「そうなんですね」
「村の人達は、とは言っても王家の家臣なんだろうけど、それぞれ帰るべき所へ帰って行ったよ」
「サマンサ様だけは私に魔法の修行をつけながらずっとボーイを待っていた」
「ボーイがもう少し早く来てくれれば良かったのになあ」
「えっ、それって・・・」
「サマンサ様は村を焼け出されてから、ミカミの町はずれに一軒家を借りて住んでいたんだ。でも・・・」
「失礼します!」
ばあちゃんこと『稀代の大魔女』サマンサ・ハーマイオニーはオレの育ての親みたいなもんだ。まさかばあちゃんに限ってそんな・・・
オレは冒険者ギルドを飛び出し、町はずれへと駆け出した。
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