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16.駆け出し冒険者、村を焼け出される

「オレはアキラ、A級冒険者で()勇者だ」

「ゆ、勇者~っ!?」


オレは驚いた。めちゃくちゃ驚いた。シラヌイにチョッカイ出して平手打ちをくらい、ほっぺたを腫らしているくせにカッコつけて親指を立てているこのおっさんが元勇者だって?

すでに知っている他の冒険者たちはうんうんとうなづいている。


「おっさんすぎてびっくりしたか?まあ召喚されて10年もたっているんだ、しょーがない」


いや、年齢うんぬんよりもエロオヤジなのに驚いているんだが。それでも・・・


「さっきはおっさん呼ばわりしてすみませんでした。国の英雄に失礼な事を・・・」

「ま、お互い様だ、オレもボウズ、いや、ボーイのハーレムにチョッカイ出して悪かったな」

「ハ、ハーレムだなんてそんな」

「いいっていいって。英雄色を好む、ってな。ボーイは将来きっと大物になるぜ、アソコも、な」


すげー、下ネタが突き抜けてる。これが元勇者の実力なのか!?

勇者といえば異世界から召喚された伝説のヒーローだ。エロオヤジも世を忍ぶ仮の姿なんだろう(たぶん)。

オレの尊敬のまなざしに気づくと、アキラさんはガハハハと豪快に笑った。


「勇者にも序列があってな。オレは勇者第47席、下から2番目の勇者だったんだ。王国の中枢に残るのはさすがに肩身がせまくてな、自由な冒険者を選んだってわけだ」

「神魔大戦の時、アルンメニア王国は100人の勇者を召喚したそうです。うち52人は召喚に耐え切れず命を落とし、残った勇者は48人だけだったと聞いています」


シラヌイがフォローを入れてくれた。


「ねーちゃん、モノを知ってるねえ。やっぱりボーイにはもったいねえかな。ついでに言わせてもらうとその大戦で更に32人の勇者の命が失われ、現存する元勇者はわずか16人、だそうだ」


さらっと言ってのけるアキラさん。2人とも普通に言ってるけど、結構ヘビーな内容だよな・・・


「それはさておき、ちょうどよかった、ボーイ、オレを護衛に雇う気はないか?」

「護衛、ですか?」

「こんないい女達を引き連れてちゃどこへいっても悪い虫が群がってくるだろ、虫よけだよ、虫よけ。」

「私は反対です」

「ユキも」


アカネとユキは異議を唱えた。最初のエロオヤジのイメージが強すぎたせいだろう。


「とりあえずは大丈夫、かな」

「そうか、ま、オレの手を借りたくなったらいつでも言ってくれ。しばらくはこの町に居るから」

「こんな田舎町でA級向けの依頼(クエスト)なんてありましたか?」

「いやね、本当はジハーダの盗賊団掃討依頼(クエスト)に参加する予定だったんだが、途中で迷子になっちゃってさ。ようやくここにたどり着いたっていうか・・・」

「ガキの使いか、おっさん!」


あっ、元勇者に思わずツッコんじゃったよ・・・



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「バゥバゥ!!バゥバゥ!!」

「ギュピ~ッ!!」

「んーなんだよこんな夜中に・・・」


真夜中ホテルのベッドで、オレはコロとギュピちゃんの鳴き声に叩き起こされた。


「ボーイ、外、外っ!」


ミーナに言われるがままに窓を開けると、北の空が真っ赤に染まっているのが見えた。


「ボーイ、あの方角って・・・」

「オレの村だ!」


村が燃えている。一体何が・・・

遅くなってもいい、今夜のうちに帰ればよかった。でも今は後悔しているヒマはない。

オレは取るものも取りあえず部屋を飛び出した。

目の前にシュタッとシラヌイとアカネが現れる。


「ボーイ様、村が・・・」

「主・・・」

「ああ、行かなきゃ!」


そこでハッと思い出した。そもそも小さいユキがいたから今夜はミカミ泊まりにしたんだった。状況がわからない以上、ここにきて彼女だけ置いて行くのはあまりに危険すぎる。どうすれば・・・


「訳ありなんだろ、行って来いよ。子守は銀貨5枚でいいぜ。」

「アキラ、さん?」


大剣を抱えてアキラさんは壁にもたれるように立っていた。


「燃えているの()()()の村なんです。だからシラヌイとアカネも連れて行きたい・・・」

「でもあの娘だけを残すのは心配だってか。ボーイも大変だねえ、連れが揃いも揃って訳ありときたもんだ」

「ボーイ、行って来ていいよ!このおっさんが変なマネしないように私が見張っているから」

「ミーナ・・・」

「小さいレディ、そこまでオレのストライクゾーンは広くねえよ。10年後はわからないけど、な」

「私がレディ・・・」


相変わらずミーナはチョロい。でも助かる。


「悪い、2人とも後は頼む!朝までには帰るから!行こう!!」

「「はい!!」」

「バゥバゥ!!」

「ギュピー!」


3人と2匹は住み慣れた村を目指して駆け出した。




「さてと」


アキラはホテルのドアから出ると、ゆっくりと大剣を身構えた。


「まさか見かけ倒しじゃないでしょうね?」


傍らにはミーナ。


「さてどうだか」

「銀貨5枚分はきちんと働いてよね」

「厳しいねー、小さなレディ」


2人の周りを囲むように、数名の黒ずくめの男達が現れた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



オレは唖然とした。

村が燃えていた。家が、じゃない、文字通り村全体が炎に包まれていた。

自然災害ではあり得ない、誰かが故意に火を放ったのは明らかだった。


「ば、ばあちゃん達は?」


炎の勢いが強すぎる。


「ギュピちゃん、いける?」

「ギュピッ」

「シラヌイ、アカネは生存者救助を最優先に」

「「はい」」

「コロは敵の気配に注意してくれ」

「バゥ!」


ギュピちゃんはコロの上からピョンと飛び降り、ピョンピョンと2、3歩炎の前に近づいた。


「【君は1000%(オメガトライブ)】」


あれからギュピちゃんも成長していた。

全身が光り輝くと、ゴーッという大きな音とともに()()()()見る見る吸い込んでいった。そしてほんの数十秒で、村を包む全ての炎は消え去った。


「ばあちゃん!、みんな!」


オレは焼け落ちた家屋を隅から隅まで探してまわった。しかし、生存者はもちろん、死体の一体も見つからなかった。敵の死体も含めて。


「いったいどうなってるんだ・・・」


今頃になってポツポツと雨が降ってきた。


「焼け出されには辛い雨じゃな」

「どわっ!!」


不意に背後から声をかけられ、オレは思わず飛びのいた。そこにはいつの間にか、ばあちゃんを含む『最北の開拓村』総勢20名が立っていた。

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