157.学生冒険者、久々決めゼリフを言う
「チコ、ぶっちぎっちゃって構わないから」
「うん、がんばるよボーイ君」
最終種目は500メートルリレー。先頭ランナーのチコがスタートラインに立つ。見たところ対抗馬は3年A組のブロディ宰相子息くらいか。
「位置について、よーいスタート!!」
ぐしゃ。
各選手一斉にスタートする中、チコがいきなりコケた。
「痛っ」
「「チコっ!」」
チコの足には蔦のようなものが絡まっている。土属性魔法の一種か。
「大丈夫か!」
「待てボーイ、ランナーに触れると反則負けになるぞ!」
駆け寄ろうとしたオレをキッドが制した。
「魔法で妨害は良いのかよ!」
「ランナー同士なら何でもアリってアナウンスがあっただろ」
「そう、だっけ?」
ありゃ、全然聞いていなかった。大体全ての放送に聴き耳を立ててチェックするとか、分厚い説明書を隅から隅まで読む奴っているのかよ?
「大丈夫、ケガはないから」
チコは蔦を引きちぎると大幅に出遅れてスタートした。
魔法を仕掛けたのはおそらくブロディ先輩。何でもアリといっても走りながらの詠唱は素人には難しい。スタート地点でライバルチームを蹴落とすってのは悔しいが作戦勝ちかも。
「くそっ、先頭ランナーはオレが出てやればよかった」
「まだまだ出番はあるさ」
レースは3年A組を先頭に、同じくB組、C組、次いで2年A、B、C組、遅れて1年A、B、C組、大きく遅れてD組と順当すぎる展開だ。
「「「おおおっー!!!」」」
学生達を驚愕させたのはチコの走り。
1区間100メートルで5秒の出遅れはもはや致命傷、の筈が信じられないスピードで猛追する。チコをマークしたのは確かにいい策だったけど、50メートル走4秒台を甘くみていたようだな。スタート時点で最後尾と30メートル近くあった差が、あっという間に5メートル差まで縮まった。
「すげーぞ、チコ!」
「ムチャ!何とか喰らい付いて行け!」
「やってやるぜ!」
第2走者はムチャ君。チコからのバトンを握り締め懸命に走る。実はあんまり期待していなかったんだけど、前のランナーに必死に追いすがり、80メートル付近でなんとC組と逆転、最下位脱出に成功した。
「よーし、上出来だ。後はまかせろ!」
「頼むぞキッド!」
第3走者はキッド。バトンタッチから2秒でB組を抜き去った。このまま一気にゴボウ抜き・・・そんなキッドの前に立ちはだかったのはA組。なんとここでエースのフリッツ皇子をぶつけてきた。
「ここはホンモノに譲るってもんだろ!」
「こっちもA組背負ってるんで」
2人とも速い速い!
本物皇子と影武者2人は並走しながら、それでも器用に前のランナーを2人、3人と抜いていく。残るは3年生3チームのみだ。先頭まであと20メートル。上等!
「ボーイ、後は頼む!」
「おうっ!」
「「いっけー!!」」
キッドからバトンを受け取る。ここは自重はいらない。スタートダッシュでA組を完全に引き離し、3年生チームを追う。アンカーはいずれも最速ランナーだろうけど、所詮はお貴族様、20メートルならハンデみたいなもんだ。
「やっぱり来たね、D組」
先頭を行く3年A組のハンセン魔法相子息(あれ、アンカーは騎士団長子息じゃないんだ?)がニヤリと笑ったように見えた。
「地震」
「おわっ!?」
ハンセン先輩がボソッと唱えると、地面がぐらぐらと揺れ始めた。震度にして2?3?大した事はないんだけど、加速している最中なのでバランスを崩して思わずつんのめりそうになる。
(今のはヤバかった)
そういや魔法妨害有りだっけ。それを走りながらサラっと実践するのはさすがはサラブレッドだな。
先頭との差がまたちょっと開いたが、それでもまだ射程圏だ。
「終わりじゃないんだなあ、これが」
地面がグニャリと波打った。
「どわっ!」
足がズボッと地面にめり込んで、今度こそひっくり返った。これって液状化現象?こいつを狙っての地震だったのか。アンカーに学園随一の魔法使いを起用したのはこういうワケね。
3年B組、C組もひっくり返り、もはや3年A組の完勝・・・
「じゃないんだなあ、コレが。電撃」
バリバリバリバリ・・・
オレは液状化で濡れた地面に向かって電撃を放った。
「「「ばばばば・・・・」」」
ハンセン先輩含む、コース上の全選手が悶絶した。
使ってくれたのが土属性魔法で助かった。氷属性魔法でコースをツルツルにされてたら、オレの電撃は使えなかったから(氷は半導体)。
オレは1人、手を振りながらゴールテープを切った。
「1等はな、なんと1年D組です!!」
「っしゃーっ!!」
「「「うおおおお〜っ!!!」」」
仲間達が駆け寄ってきて揉みくちゃにされる。
こうして奇跡の大逆転で1年D組の総合優勝で体育祭は幕を閉じた。
魔力1のくせに強力な雷魔法を放ったオレは『ほら吹き大魔導士』の二つ名を手にした。いらんわ!!
「ふーん、ボーイ君ね・・・」
喚起に沸くD組の脇で物欲しそうにオレを見つめる女子、C組のサークルクラッシャー、クラリス男爵令嬢の視線にオレはこの時まだ気づいちゃいなかった・・・
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
3日後。
ダリル・フォン・スペンサーは両親と共に病床の妹に寄り添って待ち人を待っていた。
病気の名はボリーブ病。10歳位であろうか、ダリルの妹メリルの病状は重く、持って後数ヶ月と言われていた。不治の病ではない、ただダリル男爵家は、残念ながら高額の医療費を工面するだけの財力を持ち合わせていなかった。
「お兄ちゃん、お友だちまだ来ないの?」
「もうすぐだ、大丈夫、メリルの病気はきっと治るから」
「そのボーイ君と言う少年は本当にエクスポーションを持っているのかい?平民の子なんだろ?」
「クソ生意気だけど、スゲー奴なんだよ。あいつが嘘をつく訳・・・いや、そういやボーイはめちゃくちゃウソまみれの経歴だったな・・・」
余りに眉唾な武勇伝が多すぎて、ダリルは急に不安になってきた。
その時ドアをコンコンとノックして、老執事が顔を出した。
「ご主人様、坊っちゃまのご友人と言われる方がお見えになりましたが」
「構わん、通してくれ」
ドタドタドタと廊下を走る元気な音が響いてきた。
「パパ、こっちだよこっち!」
「おい、こら走るなって!」
ダンっとドアを開けると赤毛の幼女が飛び込んで来た。
「あ、あのコでしょ。ね、おともだちになろう、おともだち!」
「きゃあ」
「マリア、やめろって!」
寝たきりのメリルにダイブしてきたのはマリアだった。まだ幼いのでそんなに威力はないらしい。メリルは妹を見るように優しく微笑んだ。
「君がボーイ君かね?」
「あ、どうも、初めまして。うちの娘がなんかすみません」
マリアを追いかけてきたボーイは、スペンサー男爵の問いに申し訳なさそうに答えた。
「おい、ボーイ、うちの娘って一体?」
「訳あってオレが後見人になってるんだよ。オレが女の子の治療に行くって言ったらお友達になりたいってついてきちゃってさ」
「何なんだよ、お前は?」
少し遅れてそれぞれ年の離れた3人の少女が入ってきた。
「走っちゃダメだよマリア、ってこ、こんにちはユキです!よろしくお願いします」
「アリスです。お兄ちゃんがお世話にナってます」
「ボーイさんの依頼で神聖教会から参りましたアカネです」
驚く男爵一家。
「おい、ボーイ何度も聞いて悪いんだけど・・・」
「ああ、この娘達はオレの妹だ。アリスのお世話係ってとこかな」
「いや、神聖教会のアカネって言えば・・・」
「「アカネ王女殿下!!」」
一斉にひれ伏す男爵一家。それはそうだ、一国の王女が護衛も無しで下級貴族の家を訪問するなんてあり得ない。
「頭を上げて下さい。今は聖女として依頼を受けてきただけですから」
優しく微笑むアカネ。すっかり聖女の顔だ。
「そ言うコト。スペンサー男爵、早速御息女を診させていただいても?」
「あ、ああ、よろしく頼む」
まずはアカネがメリルを診察する。呪いの確認だ。
「普通のボリーブ病のようです。呪いは・・・かかっていません。ごめんなさい、ボーイ、私魔法はハイヒールまでしか使えなくて」
「いや助かったよ。解呪する必要がなければオレの薬でOKだから」
ボーイは懐から青色の液体を取り出した。見た目はハイポーション、しかしそれは大魔女サマンサ直伝のエクスポーション同等の効力を有している。
メリルは言われるがままボーイのクソ不味いハイポーションを飲み干した。そして
「えっ?」
メリルはゆっくりと立ち上がった。
「「メリル・・・」」
「パパ、ママ、なんか私、元気になっちゃったみたい」
「「おおおおっっっっ」」
何年も起きる事もままならなかったメリルが自力で立ち上がっている。スペンサー夫妻は号泣しながら娘をひしと抱きしめた。
「ありがとう、ありがとう。このご恩は一生忘れません」
「いや、友達が困ってたら助けるしかないっしょ」
「ありがとうボーイ、それから本当に何度も聞いて悪いんだけど、お前一体?」
「ん?オレは、オレ達はA級冒険者パーティー『最後の希望』さ」
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