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15.駆け出し冒険者、ゴブリンを殲滅する

「グルルルル・・・・」


コロが低い声でうなるのとほぼ同時に、シラヌイさんとアカネさんも身構えていた。まだ遠巻きではあるが、馬車の周りを取り囲む複数の気配がする。


「どうしたの、コロちゃん?」


心配そうにコロを見つめるユキちゃん。


「コロ、大丈夫。ユキちゃんに付いていてくれ」

「バウ!」


コロはオレの意を理解したのか、先ほどまでの穏やかな表情に戻ると、ユキちゃんの顔をペロペロなめて安心させた。


「ボーイ、いつの間にかゴブリンに囲まれているよー。すごい数、百匹近いかも」

「ゴブリン?人型の魔物なんてこの街道じゃ見たことなかったのに・・・もしかしてスタンピート・・・」

「主、その心配はなさそうです。おそらく昨日の盗賊団の討伐によりテリトリーに変動があったのでしょう」


大人なシラヌイさんは落ち着いて言った。

それにしてもたかがゴブリンとはいえ百匹はさすがに多いな。オレの【君は1000%(オメガトライブ)】で一気に叩くしかないか。


「ボーイ様、ここは私たちに任せていただけませんか?」

「えっ」


オレはアカネさんを見た。アカネさんだけではない、シラヌイさんに、ミーナまで「()らせてくれ」オーラ全開でこっちを見ている。


「シラヌイさん、アカネさん・・・」

「主、私たちが姿を現わすにあたっての約束をお忘れですか?」

「あっ、そ、そのシラヌイ、アカネ・・・」


オレは()()抜きで2人の名を呼んだ。影でなくても主従は主従、敬語は使わない事が条件だったんだっけ。でも呼び捨てって、別の意味で恥ずかしくないか?


「ボーイ君、大変だっ!いつの間にか馬車がゴブリンの大群に・・・」

「トムさん、大丈夫です。このまま進んでください」


普通の人のトムさんでも識別できるほどゴブリンの群れが近づいてきているようだ。


「主、ご指示を」

「ボーイ様」

「ボーイ!」

「・・・わかった。ミーナ、魔法は使えそう?」

「モチのロンよ!」

「ミーナは前方10時から2時の方角まで攻撃魔法で敵を牽制、シラヌイとアカネはそれぞれ左右からの敵を迎撃してくれ」

「「「はい!」」」

「コロはここでユキちゃんのガードを頼む!ギュピちゃんはオレと一緒に残った敵を各個撃破する!」

「ユキちゃんもユキがいい!!」

「はい?」


どうやらユキちゃんもみんなと同じく呼び捨てがいいらしい。かわいいんだけど今言う?


「じゃユキはコロと一緒に馬車の中まで敵が来たらやっつけてくれ。できる?」

「うん、わかった」

「よし、散開!!」




「「「ギャギャギャ!!!」」」

「うわ・・・」


乗合馬車の幌から出たオレは、思った以上にわちゃわちゃといるゴブリンの群れに若干引き気味になってしまう。これはギュピちゃんの出番かな・・・


「行っくよー、【風刃(エアカッター)】!!」

「ちょっ、ミーナ早っ」


ミーナは無詠唱で風の攻撃魔法を放った。無数の風の刃が、文字通り風を切ってゴブリン達に襲い掛かった。


「「「ギャギャギャギャ~~ッ!!!」」」


断末魔の叫びをあげながら次々と切り裂かれていくゴブリン達。


「すご・・・」


しばし唖然としていたオレは、ハッとしてあたりを見回した。


「シラヌイ!アカネ!」

「主、終わりました」

「ボーイ様、もう大丈夫です。上位種もいませんでした」

「はへっ?」


思わず変な声が出ちゃったけどしょうがない。左右後方にいたゴブリン達もすでに2人によって屍と化していた。


「いや、ちょっと・・・」


戦闘開始から1分足らず。百匹のゴブリンが3人の美少女?によって殲滅させられた。


「むふぅ」


自慢げに胸をそらすミーナ。うちの女子達、ぶっ壊れ火力過ぎないか?



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「トムさんいつもありがとう。またよろしくお願いします」

「おうボーイ君、でも次はトラブルを持ち込まないでくれよ」

「オレのせいじゃないっすよ」

「はは、冗談冗談」


ミカミの町に到着したのは夕暮れ時。オレはともかくユキは疲れたろうから今夜はここで泊り。とりあえず盗賊団討伐の依頼(クエスト)達成とゴブリンの事をギルドに報告しておかなきゃな。


「主、ご一緒します」

「ユキも行く!」


結局みんなでギルドのドアをくぐると・・・


「なあ、マリアちゃんいいだろ一杯付き合えよ。どうせ今日の仕事は終わったんだろ」

「困りますアキラさん。それにもう1人、乗合馬車で冒険者が帰ってくる予定ですので」


(誰や、あのおっさん?)


年の頃は30代くらいだろうか、ボロボロのマントを羽織ったガタイのいいおっさんが、受付嬢のマリアさんを口説いているのが目に飛び込んできた。流れの冒険者?


ギルドの反対側ではいつもの地を駆ける白狼(ホワイトファング)とシャープ兄弟の面々が、あきれたような表情で酒を飲んでいた。


「おっ、お帰り、ボーイ。無事だったか」

「ただいま戻りました」

「大捕り物だったそうね。お疲れ様」

「はい、ありがとうございます」


いつもの冒険者たちといつものように挨拶を交わす。あの夜の事があったせいか、一瞬恥じらいを見せるサラさんだったが、すぐにいつもの調子に戻ってくれた。帰って来たんだ、って感じ?


「あっ、ボーイさん、待ってたわ。お帰りなさい、初依頼(クエスト)クリアおめでとうございます!」

「んだあ?」


助け舟がきたとばかりにオレに手を振るマリアさんと、いいところを邪魔されて露骨に嫌そうな顔をするおっさん。


「おい、ボウズ!」


おっさんはゆっくりと立ち上がるとオレの方に近づいてくる。オレはオレをかばうように前に出たシラヌイとアカネを制すと、おっさんを睨みつけた。


「何だよ、おっさん。文句あるんか?」

「ボウズ、お前・・・いい女連れてるな。オレに紹介してくれ」

「「「ズコーッ!!」」」


もう一回言う、誰や、このおっさん?

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