143.学生冒険者、意外と有名人だった?
入学式の後、オレとミィは他人のフリをしつつも1年D組の校舎に入った。
(何コレ?お貴族様の学園なのにクソボロっちくない?)
(いわゆるテンプレっちゅーやつだな)
ミーナの言う通り、D組の教室は物置に毛が生えたような簡素な建物だった。
それもそのはず、今年から新設されたD組は教室の増設が間に合わなかったため本校舎の離れにある物置を改装して充てられたそうだ。
教室に入るとこれから同級生になろうという学生達がわちゃっと集まって・・・来なかった。どうやら入試トップ合格だったり、第2王子の婚約者と旧知だったり、史上最年少A級冒険者だったりと個人情報が多すぎて逆に敬遠されてしまっているみたいだ。まあ好都合と言えば好都合なんだろうけど、ちょっぴり寂しい。
座席は決まってないようなので、1番後ろの空いている席に着いて何となく教室を見回してみる。男女とも既に幾つかのグループが出来上がっているようだ。
最初はどうしても同じ種族同士で固まっちゃうみたいで、少数派のエルフ、ドワーフ、そして獣人は隅っこで小さくなっている。さすがに魔族はいないようだ。
「ボーイ君だっけ?凄いねキミ、トップ合格なんだろ?」
なんかスカした野郎がニヤニヤしながら話しかけてきた。既に取り巻きが2人、どうやら下級貴族のボンボンのようだ。オレに取り入ろうというよりはマウントを取りに来たって感じかな。
「おい、ダリルさんが話しかけてやってるんだ、返事はどうした?」
14歳のガキンチョ(オレもだが)にしてこの態度。これだから貴族は嫌われるんだよな。まあいい、こいつを利用してオレは無害なんだよアピールさせてもらおう。
「ど、どうもすみません。ダリル様を前に緊張しちゃって・・・ボーイと言います。姓はありません」
どの世界でも目下の者から自己紹介するのが常識だ。
「うむ、私スペンサー男爵の息子のダリルだ。それで、どうやって王女殿下よりも高得点をとったんだ?」
「祖母が村で教師をやっていまして、過去問を徹底的に叩き込まれました。後はマークシートだったので鉛筆を転がして解答を選んだら運よく当たったというか・・・ようはまぐれです」
「なんだまぐれか」
簡単に納得してくれたようだ。チョロいなコイツ。
「そ、それでエリザベス嬢とはどういう知り合いなんだ?」
「以前A級パーティーで荷物持ちをやっていた時に一度声をかけていただきました。素敵な方ですよね」
「そ、そうか」
「よかったっすね、ダリルさん」
「こんなチンケな奴がエリザベス嬢と知り合いな訳無いですもんね」
「そうだな」
わかりやすく嬉しそうな3バカトリオ。本当は〇〇までした仲なのは言わない方がいいな。
「じゃあA級冒険者ってのもエリザベス嬢の勘違いだったって訳だ」
「おかしいと思ったんすよねー」
こっちも上手い具合に勘違いしてくれたようだ。
「あ、冒険者なのは本当ですよ、13歳になれば誰でも登録できるから。ただ、オレ魔力ゼロだから・・・」
「何、魔力ゼロだと!」
ダリルはわざとらしく大声で言った。教室中に丸聞こえだ。
「これだから平民って・・・」
貴族の条件の1つに魔力持ち、というものがある。最もそれを魔法として有用化出来るのはほんの一握りの人間に過ぎない。そう言えば王族のアカネも聖魔法を発現させたっけ。
「お前も苦労してるんだな。まあなんだ、何か困った事があったら相談に乗ってやるぜ、このダリル様がな」
「よろしくお願いします」
オレが脅威じゃないとわかり自分達がこのクラスのカーストの頂点に立てると確信したのか、言いたい事だけ言うと3バカトリオは自分達の席に戻って行った。バカはバカでもそんなに悪いヤツらじゃなさそうだ。
(あーあ、これでカースト下位スタート確定ねー)
(それでいいんだよ、それで)
「へーA級パーティーの荷物持ちやっていたんだー。凄いんだねー」
「ほえっ?」
いつの間にかオレの隣の席に1人の少年が座っていた。ドワーフではないようだけどオレよりももう一回り小さい。それにしてもオレに気付かせないで近づくとは・・・
「ん?」
少年は目をキラキラさせてこちらを見ている。敵意は全く感じられない。純粋に冒険の話が聞きたいんだろう。小動物っぽいと言うか女の子っぽいと言うか。
「あ、ボクはチコ。よろしくね、ボーイ君」
「おう!」
差し出された手を握り返す。毎日素振り1000回しているオレの手と違い、女性と見紛うような柔らかな手。あれ?マジで女の子じゃないよね?よく見ると下半身はスカートを履いている。
「ええっ!?」
「ごめん驚かせちゃった?ボク、男の娘なんだ。やっぱりダメ?」
「いや、全然ダメじゃないけど・・・」
「よかったー、ボーイ君が初めての友達だよ♡」
「お、おう」
時代はジェンダーレス。色々なカタチがあっていいんじゃない?
(でもソッチの方に走らないでよね)
(そうなりそうになったら引き戻してくれよ、正妻サマ)
(やだ、正妻って!)
相変わらずチョロいミーナは置いておいて、オレとしても久々の同性の友達はうれしいな。
「どこのパーティーだったの?」
「『最後の希望』って言うんだけど、知っているかな?」
「『最後の希望』って勇者アキラがいるパーティーだよね。知ってるも何も超有名じゃん!凄いや!カッコいいよねアキラって。ね?」
「ま、まあそうかな」
カッコいいかは別として、その夢見る少女のような目付きからマッチョな男性が好みなのはよくわかった。
「「1番カッコいいのは聖騎士マルガリータ様よね!!」」
ハモって話に参加してきたのは双子(多分)のエルフの少女達。
「いや、『花鳥風月』の2人だろ、やっぱり」
「銀狼使いもいるんだよな」
銀狼じゃなくてフェンリルね。
次々に話題に参加してくる。えー、オレ達って意外と有名人だったの?
「おだ、ウマノスケさんに憧れるだ」
渋いところを攻めてきたのはクマの獣人の少年。やたらデカい。
「いやいや、大槌を駆る美少女トラ獣人のミィも捨てがたいニャ」
ミィ推しは・・・ってミィ、自分を推して何しとんじゃ。
名前が上がらないのが悔しかったのか、他人のフリをしつつもミィまで参戦してきた。
「美少女って言えば風の精霊ミーナかなー」
「えっ?今の誰?」
「誰が言ったの?」
とうとう認識阻害を使いながらミーナまで自分推し。ミィもミーナも負けず嫌いなんだから。
そーいうオレも実は負けず嫌いなんだけどね。
「みんな誰か忘れてない?」
「誰かって?」
「ほら、パーティーリーダーで剣士、エリザベスさんが言ってた史上最年A級冒険者の・・・」
「あれ?リーダーって勇者アキラじゃないの?」
「いや、影のリーダーは大聖女テレサ様だって言うぜ」
わいのわいのやってるがいつまで経ってもオレの名前が出てきやしない。なぜ?オレの知名度って・・・
ふと顔を上げると、全員が何だか楽しそうにオレをじーっと見ていた。
「うそうそ、1番カッコいいのはやっぱりリーダーだよな」
「すげーよ、同世代とは思えねー」
「あんな彼氏がいたらいいのになぁ」
「あれ?名前なんて言ったっけ?確かボ・・・」
「わーわーっ!!いいから、もうその話はいいから!ほら、もうすぐ先生が来るし!」
ヤバい、オレの正体バレそうだ。いや、でもこれって確信犯?元々バレてる?カマかけられてる?
ガラガラガラ・・・
ナイスタイミングで担任の教師が部屋に入ってきた。
「はいはーい、みんな席についてー!」
20代半ば?の普通の兄ちゃん先生だ。いわゆるモブって感じ?
「「じゃあまた後でねー」」
それぞれが何となく思わせぶりで自席に戻っていく。一体何だったんだよ。
(ボーイが1番チョロいって話よね)
(ミーナ、なんか言ったか?)
(別に)
納得いかん。
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