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13.駆け出し冒険者、ハイポーションを安売りする

地下牢のカギは壁に掛かっていたため、扉は簡単に開けることができた。

オレは牢に入りゆっくりと少年に近づいていく。少年は頭からぼろきれをかぶっていたが、布の間からのぞいた片目で、警戒しながらこちらをじっと見つめていた。


「怖かったね、もう大丈夫だよ」


剣を納めて目線の高さを少年に合わせて言った。よくみると全身傷だらけだ。余程ひどい目にあったのだろう。ポーションを持ってくれば良かった、って


「うわっ!」


ここにいるはずのないギュピちゃんが、(たぶん)ニコニコしながら足元からこちらを見上げていた。オレの影?、どんだけいい仕事してくれるんだろう。


「ありがとー!!」


オレはいないハズのそのヒトにむかって大声で叫んでいた。一瞬ぽかんとする少年。でもおかげで少しリラックスできたようだ。


「お、おにいちゃん?・・・」

「おう、ちょっと待っとれよ、すぐに楽になるから」


オレはギュピちゃんからポーションの瓶を3~4本取り出すと惜しげもなく少年に振りかけた。


「!?いたくない」

「だろ、ばあちゃん直伝の自家製ポーションだ。普通のハイポーション並みに効果があるらしいぞ」


どうやらポーションが効いたようだ。


「立てるか?」

「うん」

「よし、脱出だ!」



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「なんじゃこりゃー!?」


地下牢を抜け出し屋敷を出ると、外の世界は一変していた。大捕り物が片付き、後始末に走り回る騎士や冒険者や護衛兵達がいるそこは、町一面がうっすらと凍りついた世界だった。


「バウバウ!!」

「コロー!無事だったんだー!」


コロとも無事合流できた。あとは・・・


「ボーイ!よかった無事だったんだー」

「カールさん」

「ごめんよー、アダムス男爵までブッチャー盗賊団の一味だなんて知らなかったんだよー」


カールさんも脱出できたようで何よりだ。というか、たぶんカールさんを助けてくれたのも・・・


「カールさんこれは一体?」

「お、ボーイは初めての体験か?これぞデューク団長の宝具『氷結の魔槍』が作った『氷結結界』だ。半径2km以内のすべてを凍らせるって、まさに規格外の能力だぜ」

「すげ・・・」


すごいけど寒すぎる。オレはギュピちゃんからポンチョを取り出すと、少年にかけてやった。


「あ、ありがと、おにいちゃん」

「おう、まだ寒かったらコロにギューっとしてていいから。めちゃモフモフだぞ」

「おにいちゃんはまものつかいなの?」

「よく言われるんだけど違うよ。みんなオレの友達だ。ギュピちゃんも、コロも」

「私もね!」


ポンッとミーナが姿を現した。

少年はちょっぴりびっくりしたようだったが、すぐにニッコリほほ笑んだ。


(お、おい、ミーナ、この子も精霊が見えるのか?)

(隠してるみたいだけどけっこーすごい魔力をもっているもの)

(ただの人身売買の子供じゃないって事か・・・)


事情はデュークさんに聞いた方がよさそうだ。


「自己紹介がまだだったな、オレはボーイ、冒険者だ。君の名は?」

「ボクは・・・」


何故か言いにくそうだ。


「まあ、名前なんて後でもいいか。それよりオレと友達になってくれないか?そうすりゃ友達の友達はみな友達で、ここにいるみーんな友達になれるよ!」

「・・・うん!」


オレはカールさんを呼んだ。


「すみません、この子、屋敷につかまっていた要救助者です。オレ、ギルドでどうしたらいいのか聞いてくるんでちょっと見ていてもらえませんか?」

「おう、それぐらいまかしとけ!」

「すぐ戻ってくるから、それまでこのお兄ちゃんと一緒に待っててくれる?もちろん、()()と一緒に、ね」


少年はコクリとうなずいた。

オレはギュピちゃんだけ連れて冒険者ギルドへと走っていった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



冒険者ギルドはさながら野戦病院のようだった。今回の作戦は騎士団・冒険者連合の圧倒的勝利ではあったが、戦闘になる以上全員無傷と言うわけにはいかず、総員の30%、30人ほどがあちこちでケガの治療を行っていた。幸いにも死者は出ていないそうだったが・・・


回復士(ヒーラー)とか聖女とかは来ていないんですか?」


オレは近くにいた衛生兵さんに尋ねた。


「ダメダメ、正規の回復士(ヒーラー)はみんな王都で抱え込んでいるから派遣許可が下りるまで何日かかるかわからないし、それに教団とは・・・だしね」

「そうですよねー」


神聖教団は王国最大の宗教団体にして王国内において圧倒的な発言権を有している。そんな中でも王国騎士団と神聖騎士団とは犬猿の仲で有名だ。


「あ、よかったらこれ使ってください。オレの作ったポ、ハイポーションです」

「ハ、ハイポーションだって!!」


オレはギュピちゃんから20本ほどポーションの小瓶を取り出して衛生兵さんに渡した。どうやらオレがポーションだと思って作っていたものは市販のハイポーションクラスの治癒力があるらしいので、今度からは効能に合わせてハイポーションと言う事にした。買うと1本金貨20枚分の値段はする。


「あ、ありがとう、おかげでほとんどの奴は全快することができる!おーい、この少年がハイポーション持ってきてくれたぞー!みんな早く取りにこーい!!」

「「うおー!」」


歩けるケガ人や他の衛生兵がわちゃっと集まってきた。


「ほとんどの人って?」

「ああ、一人だけたぶんもう駄目な冒険者がいてな。全身傷だらけの上に背中から刺された傷が肺まで達していて、こいつが致命傷らしい。奥の個室で寝かされているよ」

「ありがとうございます」




「失礼しまーす」


衛生兵さんに言われた奥の個室では、包帯でぐるぐる巻きの大男がベッドで横たわっていた。


(やっぱり)


悪い予想通り、重体の冒険者とはベイダーさんのことだった。ベイダーさんは起きていたようで、顔を動かさずに眼だけでこちらをチラリと一瞥した。


「ボーイか・・・はは、ざまあねえぜ。『紅の赤(しゃち)』リーダーともあろうものが仲間内に裏切り者がいることも気づかないなんてな」

「いいからしゃべらないで」


やっぱりこの人が()()痛い『紅の赤(しゃち)』のリーダーだったんだ。

オレはベイダーさんの体を触診した。背中の刺し傷は肺を突き抜けて胸まで貫通している。普通なら助からないところだが


「しみますよー」


どぼどぼどぼどぼ・・・・

オレはハイポーションを惜しげもなくベイダーさんの全身にぶちまけた。


「痛ってー!」


シュウシュウと音を立てベイダーさんの傷が回復していく。でも命にかかわるケガまではハイポーションでは治せない。


(やっぱり使うしかないか・・・)


オレはばあちゃん直伝、ではなく、ばあちゃんお手製の青い液体の入ったひと瓶を取り出した。

とぽとぽ・・・

静かに胸の傷にかけてみる。


「なっ!!」


瀕死の重傷だったベイダーさんが飛び起きた。


「い、痛くねえ・・・って言うか傷が完全にふさがっている!?」

「よかったですね、助かって」

「ボーイ、これってエクスポーションじゃ」

「さあ、ばあちゃんがくれたからよくわかんないです」

「ばあちゃんって何モンなんだ一体?こんな凄いの作れるのは聖女様か大魔導士くらいしか・・・」

「ただの田舎のバアさんですよ。それよりも、傷はふさがっても流れた血は返ってこないからしばらくは安静にしていて下さいね」

「デカい借りができちまったな」

「じゃ治ったら今度こそ飯ご馳走して下さいね」

「おう、約束するぜ!」


ミーナがいたら(クサっ!)とか言いそうだけど、やっぱり男はこういう会話が好きなんだよなー。

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