129.運命の冒険者、ケリをつける
素晴らしき再生の会による最後の一斉蜂起は、事前に情報を掴んでいた王国軍に完膚なきまでに叩きのめされ決着をみた。
テロリストの親玉はマクダニエル司法相、何と現役の司法トップだった。王と3公に次ぐ王国ナンバー5の犯行に王都は激震した。実行犯のトップはオブライト第4騎士団長。どちらも王国中枢にいた人物で、まさに獅子身中の虫だった訳だ。
そしてオレは今、王都の冒険者ギルド地下鍛錬場でこのオブライト元騎士団長と対峙している。
「がはは、いきなりブタ箱から出されたかと思えば、このガキと決闘しろだぁ?しかも勝てば恩赦って、いいのか、そんな約束しちまって?ぶっ殺しちまうぜ?」
「騎士に二言はない。だが決闘の前に彼が幾つか質問をするので正直に答える事。嘘をつけばその場で斬り捨てる」
「おお怖いね勇者様は」
巨漢のオブライトに対して一回り小さく、そして若い騎士は勇者第1席、レッドフォード第1騎士団長だ。今回オレの無理が通ったのはこの人の力も大きかったらしい。同じ異世界転移者同士、通じるものがあったのかも。
「はーい、防護結界を張ったからレッドちゃんはギャラリーに出て下さいね」
立会人はオネエのギルマス、スティングさん。実は王国にたった3人しかいないS級冒険者だ。
「ボーイ君、オブライトは異能を持っている。気を付けて・・・」
「ありがとうございます、レッドフォードさん」
オレにそっと耳打ちすると、レッドフォードさんは壇上から降りて行った。その先ではオレのパーティーメンバー達が心配そうにオレを見つめている。
「はいはーい、両者位置についてー」
「久しぶりだな、偽王子。わざわざ死ぬ為に生き返るなんてバカなガキだ」
「あんたに聞きたい事は2つ。なぜ素晴らしき再生の会に入会した?そこに義はあるのか?」
仮にも第4騎士団長にまで登り詰めた男だ、それなりに正義があるのかもしれない。あとブアカーオさんのように止むに止まれぬ特別な理由があったのかもしれないし。
「はあ?なんだその質問は?素晴らしき再生の会に入会したのは、嫌な奴はどんどんぶっ殺しても構わないと誘われたからだ。最近平和過ぎて人殺しもままならないからなあ」
なんだこいつ、イカれた殺人狂か?
「それじゃ2つ目の質問、国王暗殺の場であんたはギュピちゃんを踏み潰した時一瞬笑っていたように見えたんだけど、何を考えていた?」
「ギュピちゃん?ああ、あのちょこまかしたスライムの事か。もちろん、ぞくぞくするほどうれしかったよ。嫌な奴を殺すのは楽しいが、弱い奴を殺すのはもっと楽しいからな。あのグチャッと潰れる感触、気持ちよかったぜ」
こんな奴の為にギュピちゃんは・・・
「キサマ・・・殺す!」
「返り討ちだ!」
「始め!!」
スティングさんの合図で決闘はスタートした。
「っせい!」
オレは一気に間合いを詰めてオブライトに斬り込んだ。
キンッ!!
オブライトは苦もなくこれを弾き返し、その剣圧でオレを弾き飛ばす。
(強い!)
さすがは元騎士団長様ってか。
「オラオラーっ!」
畳み掛けてくるオブライト。ガタイがいいだけあってその攻撃1つ1つが物凄く重い。
(でもっ!)
避けようと思えば避けられるんだけど、オレはその剣撃を全て受け切ってみせた。オレだって毎日1000本の素振りをしているんだ。パワー、スピード、そして動体視力。全てにおいてこのクソ野郎を完膚なきまでに叩きのめしてやらないと気が済まない。
「ガキが!」
「どうしたおっさん、息が上がってるぜ!」
実力があっても鍛錬を怠っていたオブライトはハァハァ言いながら距離を置いた。さあ、ここからはオレのターンだ。
「オレの勝ちだ!」
縮地で一気にオブライトの懐に飛び込む。完全にオレの間合いだ。
(いける!)
まさに斬り込もうとするその瞬間、オブライトと目が合った。そして・・・
「!!」
オレは固まった。いや、文字通り斬りつける姿勢のまま体がピクリとも動かない。もしかしてこれがあいつの異能なのか?ヤバいぞ。
「残念、オレの異能は相手1人を一定時間硬直させる能力だ。さてと、ガキにはお仕置きが必要だなあ?勇者は恩赦とか言ってたが、どのみち王族殺しは極刑は免れない。なら最後にたっぷり楽しむとするか」
「キサマ、何を」
ザクッ!
「ぐわーっ!!」
右掌に激痛が走る。オブライトがロングソードで貫いたのだ。どうやら動けないだけで痛みは感じるらしい。
「さてと、何箇所貫かれたらおっ死ぬかな?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ぐっ!・・・うぐっ!・・・っ!・・・」
オブライトは数秒おきにボーイの身体をその末端から貫いていく。左掌、右足甲、左足甲、前腕上腕、下腿大腿・・・
やがてボーイの苦痛のうめきは徐々に小さくなっていき、今では身体がピクピクと痙攣している事で辛うじて生きている事が確認できた。失血死目前だ。
「何だ、手応えがねえなぁ。所詮は巻き込まれ転生したオマケのガキってか?もっともっと悲鳴を上げてくんねえかなー、苦痛と恐怖に満ちた絶望の叫びをよ」
地方の下級貴族の三男坊だったオブライトは、もともと気性が荒く、両親も扱いに困っていた為『神魔大戦』では否応無しに連合軍に放り込まれた。そこで魔族を殺しまくっているうちに、弱きを蹂躙する快楽に目覚めてしまったのだった。
「これでどうだ?」
オブライトはロングソードをボーイの腹部の中心に突き立てると、グリグリと回転させた。
「っ、うがああああーっっ!!!」
気を失いかけていたボーイが断末魔の叫びを上げた。
「ひゃっはー、いいねえその声、思わずイッちまいそうだぜ!ん、おまえ・・・?オレ・・・?」
断末魔の叫びを上げたのはオブライトだった。目の前で血塗れになっているのは自分自身だった。
「何じゃこりゃーっ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「幻夢剣一ノ型【因果応報】」
最初に剣を交えた瞬間から勝負はついていた。
オレが放った幻夢剣一ノ型【因果応報】は、相手の深層心理に斬り込んで相手が自分で自分を殺す必殺技。そう、オレが散々削られたシラヌイの技の応用だ。多分オブライトは自分を呪い、絶望しながら逝った事だろう。今まで彼が他の者にしてきた事と同じように。
「「ボーイッ!!」」
ギャラリーにいた仲間達が鍛練場に飛び込んできて、オレは揉みくちゃにされた。
「ボーイ、大丈夫?なんか相手が勝手に自滅しちゃったんだけど・・・」
「あれはもしや必殺技なのか?」
「カッコよかったニャ」
「よかった、おにいちゃんかったんだね!」
「はは、まあな」
鍛錬場中央で全身傷だらけで息絶えているオブライトを見た。更正の余地があれば命だけはと思ったんだけど、とんでもないクズ野郎だったな。こんなやつにギュピちゃんは・・・
(終わったよ、ギュピちゃん・・・)
こうしてギュピちゃんの仇討ちは僅か数秒でケリがついた。
ギュピちゃんが遺していったスライムの涙をギュッと握りしめると一瞬だけど手の中でブルっと震えたように感じたのは気のせいかな。
お読みいただきありがとうございました。
次話で第一部が完結予定です。ぜひ最後までお楽しみ下さい。
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