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12.(閑話)ミーナの願い

「あ、私まだ生きてる・・・」


何度目かの冬眠から目覚めた私は、自分の第一声に思わず苦笑した。でもしょーがないじゃない、もうずっとこんな感じなんだから。


「よいしょっと」


寝床にしていた木のうろから這い出すと。大きなため息をついた。


「どうしてこんなことになっちゃったんだろう」


精霊は何処から生まれて何処へ行くのか、少し前まで誰も知らなかった。

だからこそ精霊は特別な存在であり、人間の大切な隣人だった。

そうあの『神魔大戦』までは・・・


戦局は混迷を深めていた。大連合軍は魔力で圧倒的に勝る魔王軍に対抗するため、あらゆる手段を検討し、模索し続けていた。勇者の召喚もまたしかり。

そんな中、誰かが気づいてしまった、精霊は死ぬと膨大な魔力を秘めた()()に変わるということを。


そこからは人間達による精霊の大虐殺が始まった。精霊単体では戦闘能力が低くとも、その魔力を魔道具に利用すれば火力は何倍にもアップする。兵士達は自分の契約している精霊を殺して魔石とし、民間人達も自分の精霊を軍に売り渡して報奨金をもらっていた。

殺された精霊にとってはまさに後ろから刺された気分だったと思う。


私はそんな大戦の中を生き延びてきた。

この世に生を受けたばかりで、まだ人間と契約していなかったのが良かったのだろう。

あっちでもこっちでも見つかっては殺されそうになったけど。


そうしてまた裏切りと失望の繰り返す今日の朝を迎えた。


「んっ」


私は羽根を広げると空へと飛び立った。

私の願い?

仲間を皆殺しにした人間達に復讐すること?まさか。そんなことしても誰も喜ばないだろうし、何より人間と蜜月を過ごしてきた同胞を否定するみたいじゃない。


「私の願いは・・・」


その時だった、南東の方角の山裾付近で、

ビシャーン!!

天から一筋の稲妻が打ち下ろされると同時に膨大な量の魔素が拡散された。


「な、何よ、これ・・・」


しかもここ数年、味わったことのない程の良質の魔素。

ついついよだれが出てしまう。これは絶対にゲットしなければ!


「とりあえず私の願いはおなか一杯魔素(ごちそう)をいただくこと、かな?」




魔素を追っかけて行った私は、ジハーダの町の宿屋で、ようやく一人の少年と一匹の銀狼に追いついた。

部屋に先回りしたはいいが腹ペコで飛び回ったせいでさすがに疲れ切っていた。


「な、何なのよあいつら・・・仲いいじゃない・・・」


私はウトウトと眠りに落ちていった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ちょいちょいちょい!あんた、いたいけな少女に何しとんねん!!」


窓からつまみ出されたらしい私は、目が覚めると思わず素で突っ込んでいた。あら失礼、思わず汚い言葉が出てしまいましたわ。


少年の名はボーイ、どうやら私の利用価値ってのをわかってないらしい。いいコなのか悪いコなのか、要観察って感じ?


 「コロに危害を加えるのならオレは容赦しない」


いっちょ前なコト言って・・・


 「たとえどんなにカワイイ()にだって」


わかっているじゃない・・・


 「悪かったな。オレはボーイ、見習い冒険者だ。」

 「ああ、そうだな。ありがとう」


素直なところもあるし・・・


 「ミーナさえよければオレたちと一緒に・・・」


やっぱり素直じゃないかも・・・


 「ま、なるようになるさ」


やっぱガキンチョだわー・・・

でも一緒にいると退屈はしないかも。このままついて行くのも悪くないかな。

だって私の願いは「精霊らしく人間に寄り添い、精霊の誇りを持って死んで行く」事だから。

それが最後の精霊としての生き様?死に様?だと思うから。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



前言撤回・・・


なんたら男爵の町長邸で執事のなんたらに捕まった私は考えていた。

私は別に死に急いでいる訳じゃない。

人間に寄り添いたいっていうのはホント。でもホントはやっぱり生きていたい。

今までずっとひとりぼっちだった。ずっと寂しかった。

だからお願い、助けてボーイ・・・ほっともっと、もとい、もっとずっとあなたのそばにいたい・・・


そしていつの日か、まあ本当に『希望の塔』なんてのがあればだけれど、私はそこできっとこう願う、

「人間になりたい」

と。

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