113.運命の冒険者、不夜城に籠城する
夏に向かっているこの季節は陽の落ちるのが遅い。まだ明るい夕方6時過ぎ、オレ達はローシマの町に到着した。
「なんか静かね」
「嫌な感じだな」
砂漠の中にあるローシマは、なんか大きな商会が運営しているローシマロイヤルホテルを中心とした観光都市だ。普段ならもっと町に出入りする旅人がいるはずなんだけど、どう言う訳か魔物避けの外壁の外には人っこ1人見当たらない。入場門も固く閉ざされていて、門番の姿もなかった。
チカッ!
見張り台の上で何かが光った。オレ達に向かってなんだろう。
「『希望の塔ウォッチングツアー』1号車です。誰かいるなら開けて下さーい!」
トカゲ車の御者さんが声を上げる。他の者は(オレを含めて)大声を出す元気がないからしょうがない。暫くすると見張り台の上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ボーイか!途中魔物に襲われなかったか?っていうかそもそもよくあそこから無事帰ってこれたな。ちょっと待ってろ、今開けるから!」
「ディックさん!」
A級パーティー『熱砂の帝王』リーダーのディックさんだ。どうやらツアーキャラバンもここまでは戻って来れたようだ。やがて重々しい門が開かれ、オレ達は町に入る事を許された。
通されたのはローシマロイヤルホテルの救護室。ホテルのオーナー兼町長のホーナーさん(ダジャレではない)とキャラバンの主要メンバーが出迎えてくれた。結局希望の塔から1号車で戻ってこれたのは『最後の希望』の4人とヒルマン子爵夫人他3人だけだった。
「そうか、まさかツアコンのスヌーカさんが『素晴らしき再生の会』の幹部だとはな」
「希望の塔もとんだ食わせモンだったなぁ。ほんと、ボーイ達じゃなかったら間違いなく全滅していただろうな」
今回の護衛依頼のリーダー、『砂塵の鷹』のオートンさんとディックさんが口々に言う。
「でも皆さんも大変でしたね。まさかベースキャンプの結界をぶち破ってデザートシャークの群れが襲って来るなんて」
オレ達が塔に登っている時、ツアーキャラバンがデザートシャークの群れに襲撃されたそうだ。しかしそこはA級を含む6組ものパーティーがいるだけあって最小の被害で迎撃、その後もデザートシャークの追撃をかわしながらローシマまで辿り着いたそうだ。
「それよ、悪かったな、約束の時間まで待ってなくて。恥ずかしい話、ほうほうの体でここまで逃げてきたって訳だ。貰ったハイポーションも使っちまった」
「すみません、殺気立ったデザートシャークとは会話になりませんでシタ」
元勇者のブアカーオさんが言う。ブアカーオさんの異能【野性の心】は魔物と会話できる力だけど使役できる訳じゃない。さすがにしょーがないよね。
「ところがローシマは既にサンドワームの大群の襲撃を受けた後だった。町の連中は災害対策マニュアル通りに全員このホテルに緊急避難したため、最悪の事態は免れた、と」
「いやー、町は荒れ放題で人っ子1人いやしない。焦った焦った」
「私どもも私兵による自警団はあるのですが、対魔物のプロでもある冒険者の皆さんが来て下さったので助かりました」
汗を拭いながら話すホーナーさん。時折町を襲って来る魔物はいたが、群れを成して攻めて来るのは初めてだったそうだ。サンドワームの大群は一通り町を蹂躙して嵐の様に去っていったが、いつまた第2波が来るとも限らない。取り敢えず町とキャラバンは共同でこの大型リゾートホテルで籠城してやり過ごす事にしたらしい。
「元々このホテルの外壁は風速50メートルの砂嵐でもビクともしない構造になっています。魔物や野党の襲撃に備え数全方位にバリスタも完備しており、外敵の侵入は不可能です。要塞ホテルと言っても過言ではありません」
だったら冒険者いらねーだろうが、とツッコミたいところだが、万が一にも外敵が侵入した場合に備え、急遽キャラバンの冒険者達に護衛依頼を発注して警備に当たってもらっている、との事。
「私の独断で丸抱えしてもらったのだが、まずかったかな?」
「いえ、大丈夫です」
結局オレ達も警護にまわるってか。
「よかった。有名な領都の英雄が護衛メンバーに入ってくれるとは心強い限りですな。あ、もちろん体力が回復するまではここでゆっくりしていて下さい」
「そりゃどうも」
(英雄って言われてニヤけてるんじゃないわよ)
(うっさいわ)
今日は血を流し過ぎた。なんでそんなに急に魔物達が牙を剥き出したのか気になるが、まずは体力の回復に努めないと。
「モグッ!」
「「うわっ!」」
そこに飛び込んできたのは爆弾はりねずみのモグ(仮)。オレに会いに来てくれたのか。
「お出でモグ(仮)!」
「あ、モグ(仮)チャん!」
「モグモグーッ!」
モグ(仮)はオレではなく、隣のベッドで横になっていたアリスに飛びついていった。おい!
「おい、モグ(仮)」
「かわいい。モグ(仮)ちゃん、大スき!」
嬉しそうにもふもふしまくるアリス。ま、アリスが喜んでいるんだからいいか。
「君達最後の希望は205号室に部屋をとってある。今夜は警備に付かなくてもいいから、治療が済んだら部屋でゆっくり休んでくれ。食事は24時間OKだから腹が減った時に食べるといい」
「ありがとうございます」
「モグ(仮)はお預けしますネ。かわいがってあげて下サイ」
ホーナーさん達は救護室を出て行った。オレ達も部屋でゆっくり休むとしよう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
深夜近くにオレは目を覚ました。変な時間に寝ちゃったからなあ。ミーナもアリスも気持ちよさそうに熟睡している。2人とも疲れたろう。
「親父、何処へ?」
「起きてたのか、ウマ。ちょっと館内を探検してこようかなって。2人を頼んだよ」
「うす。お気をつけて」
まだ貧血ぎみでふらふらするけど、子供ならやっぱこういうところ探検するよね?
部屋を出て1階に降りたオレは唖然とした。ホテルは普通に営業していた。さすがは不夜城、プールもカジノも、飲食街も。確かに手にブラックジャックを持った自警団があちこちで館内パトロールをしている事はしているよ、でも昼間に町が襲われたってのに、さすがにこれは・・・
「おう、ボーイじゃねえか。子供は早く寝ろよ」
「あ、はい」
ほろ酔いのおっさんに声をかけられた。えっと誰だっけ?
「おいおい『月の砂漠』のパリッシュだよ、忘れたのか?」
「あっと、そうでした」
おっさんってどうも覚えられないんだよなあ。
「で、パリッシュさん、警備の方は大丈夫なんですか?」
「自前の兵隊がいるから冒険者さん達は何かあるまでは自由にして下さい、だと。ここのオーナーはホテルのセキュリティに絶対の自信があるんだろうな」
「はあ」
商売に関してはやり手なのかもしれないけど、ホーナーさんは魔物を、素晴らしき再生の会を舐めている。
キンコンカンコーン
館内放送だ。
「業務連絡、業務連絡。3番です、よろしくお願いします」
なんか悠長だな。緊急連絡じゃないのか。
「ちっ、休憩時間終了だとよ。行こうぜボーイ」
「あの、3番って」
「何だ、聞いてないのか。1番が客のトラブル、2番が火災、そして3番は外敵あり、だ」
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