105.運命の冒険者、砂嵐に囚われる
雲行きが怪しくなったかと思うと、30分も経たずにもの凄い砂の嵐が襲ってきた。
「予想通り、スヌーカさんさすがですね」
「なに、多少旅慣れればボーイさんだって簡単にわかるようになりますよ」
実際、他の冒険者達は嵐の予兆からテキパキとテントを設営し、あっという間にベースキャンプが出来上がった。
「ただ、嵐がいつの過ぎ去るのかはわからないんですよねー」
「マジっすか?」
あたりを真っ暗にし、轟々と吹き荒れる砂嵐。残念ながら通り雨のようにすぐに収まる事はなく、結局この日の希望の塔探索は中止となった。
「しかしすごい風だな」
「うす」
「うるさくて眠れないじゃない!」
「それな」
そのまま夜になってしまった為、オレ達冒険者もこの夜はパーティーごと野営のテントで過ごす事になった。
「ピッピちゃん達連れてコなくてよカったね」
「ホント、正解だったよ」
ピッピ達影見習いの4人はローシマの町で待機してもらっている。あくまで見習い、実体はただのF級冒険者なのだから無理はさせられないよ。それに、もう1つお願いしてる事があるし・・・
「いつになったら過ぎ去ってくれるのかしら?」
「ってかミーナ、オマエ一応風の精霊だよな?風を読むとかできないのかよ?」
「一応ってなによ、一応って!」
「ケンカしなイで、お兄ちゃん、ミーナちゃん!」
オレとミーナの会話は日常茶飯事なのだが、アリスにはケンカしているように見えるらしい。子供の教育に悪いからなるべく仲良くしないとな。
「ごめん、言い方が悪かった」
「あれ、ヤケに素直ね。ま、まあいいわ。精霊って言ってもそこまで万能じゃないし、それにこの砂嵐はたとえ上位精霊でも先読みするのは無理ね」
「それってどういう・・・」
「ただの自然現象じゃないわよ、コレ。明らかに人工的なものだわ」
「まさか!そんな事できるワケ・・・」
いや、充分考えられるな。希望の塔?手前で道行きを妨害するように流れる流砂の河、罠のように配置された砂漠オオアリジゴクの巣穴。そして塔を発見したと思ったら突然の砂嵐。まるで塔に近づくなと言わんばかりに偶然が続く。そこに作為が働いていてもおかしくはない。それにしても・・・
「こんな大掛かりな砂嵐、人工的に発生できるものなのかな?」
「風の精霊でも大精霊クラスじゃないと無理ね。ヒトならば少なくとも王族クラスの魔力が必要」
「そんなの大が付く人くらいじゃないか?大魔女サマンサ、大聖女テレサ・・・」
ばあちゃんとテレサさんか。でもどっちもとうが立ってるし、って、テレサが聞いたら怒られちゃうな。
「大魔導士ダスティー」
久しぶりにウマノスケが呟いた。
「あー、大戦でも大活躍したって伝説の魔導士ね。確か生きてりゃ100歳は超えてるハズ。ないない」
いや、さすがにそれは・・・でも・・・もしや・・・まさかのラスボス?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
砂嵐は3日3晩続いた。
キャラバンは完全に足止めをくらい、食料も水ももはや尽きかけていた。集会場としている大テントに集められたオレ達は、スヌーカさんから残念な報告を受ける事になった。
「現在私達はかなり危機的状況に立たされています。断腸の思いではありますがこのまま天候が回復しないようならばツアーは中止とし、明朝ローシマの町まで撤退します」
「マジかよ!」
「塔が見えてんのにか!」
「責任とれや!」
「金返せー!」
ほとんどのツアー客は現状を受け止め諦めモードだったが、それでも一部の迷惑客達はスヌーカさんに怒号を浴びせる。
「オレ達冒険者は雇い主の命令に従うだけだ」
「残りたいヤツは好きにすればいいさ、砂漠のど真ん中から自力で生還する自信があればだけどな!」
護衛チームのリーダーのオートンさん、ケンカ番長のディックさんが言うと、さすがに客達も沈黙した。
「おい、そこの風の精霊連れているガキ、砂嵐を止めるとかできないのかよ!」
うわっ、こっちに矛先向けてきちゃったよ、オレと同じような事言ってるし・・・
「精霊なんてもんは魔石になるまで魔力を搾り取ればいいんだ!」
オレは斬月を抜いて立ち上がると、暴言を吐いた客に突きつけた。世の中には言っていい事と悪い事がある。
「ひっ!」
「まあまあボーイ、ここは大人の対応、な」
ディックさんにポンポンと叩かれ、オレは斬月を鞘に収めた。
「次言ったらオレブチ切れますから」
「ああ、今度は止めねーよ」
何かあってもこいつだけは助けてやらないからな。
スヌーカさんは続けた。
「今後の行程については明朝8時にここで正式に発表します。それまでくれぐれも単独行動は慎むよう、よろしくお願いします。それでは解散します、おやすみなさい」
それってフラグじゃないの?
オレは1番問題を起こしそうなヒルトン子爵夫妻を見た。一応うんうんとうなづいてはいる。一瞬子爵と目が合ったが、サッと目を逸らされた。さっきのを見てオレの事ヤバイ奴だと思ったかな?
(ボーイ、ありがと)
(当たり前だ)
いつになくしおらしいミーナに、オレは大サービスで頭をなでなでしてやった。
「帰って寝よっか」
「うん」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
次の朝。結局砂嵐が晴れる事はなかった。
オレ達は再び大テントに集合したが、ツアコン達が大騒ぎをしていた。
「大変だ、ヒルトン子爵夫妻がテントからいなくなってるぞ!」
「お供も全員いなくなってる!」
「1号車がないぞ!勝手に出て行ったんだ!」
「どこへ行ったんだ!?」
あー、やっちゃったんだ。どこへって、塔に向かったに決まってるでしょ。砂嵐の先にぼんやりと見える希望の塔。でも、素人があそこまで護衛もなしで辿りつけるか?
「おい、『砂上の楼閣』のメンバーが来てないぞ!」
「あいつら昨日子爵と何やら話し込んでいたな」
はい、護衛を引き抜いたってワケね。金と、あと希望の塔で願いを叶えられるかもって期待と、多分両方なんだろうな。どうみても契約違反だけど。C級パーティーだからそれなりに役に立つだろうけど、さすがに砂漠オオトカゲとか扱えないだろ・・・
「すみません、彼らがトカゲ車の操縦の仕方を教えて欲しいって言うから、ついトカゲの特性をレクチャーしちゃいまシタ」
申し訳なさそうにしているブアカーオさん。優しい人だから頼まれればそうくるよね。
「すまない、オレの管理ミスだ」
オートンさんがスヌーカさんに頭を下げている。
「いえ、責任は全て私と商業ギルドにあります」
「で、どうするんだこれから?みんな不安そうにしているんだが」
アリスも心配した表情でオレを見上げている。
オレは大丈夫とばかりに繋いだ手をギュッと握りしめた。
「ここでヒルトン子爵達が戻ってくるのを待つのは得策ではありません。今日中には間違いなく食料が切れてしまいます。でも、夫妻を置いて行くという選択肢もあり得ません。商業ギルドにとって全てのお客様は平等ですから。何より私のポリシーに反します」
暫し考え込むスヌーカさん。やがてゆっくりと口を開いた。
「ヒルトン子爵達は私が連れ戻します。昼まで待って戻らなかったら出発して下さい。他のお客様達を巻き込むワケにはいきませんから」
「トカゲ車は出せないぜ、全員を退避させる為には残りの4台でギリギリだ」
「大丈夫、歩いて行きます」
スヌーカさんはポケットから何やら魔導具のようなものを取り出し、スイッチを入れた。
ブーンと起動音が響くとスヌーカさんを中心に半径1メートルの小さな多面体の防護結界が張られた。何コレ?ミニミニ光○力バリアか?すげー。
「非常用に幹部社員が持たされている簡易結界です。6時間しか持ちませんが、移動も可能な優れものです」
「それにしてもだ、何が起こるかわからないんだぞ、護衛も付けないで行くのはリスクが高すぎる」
ん?この流れは・・・
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