01.見習い冒険者、密猟者を掃討する
長編初投稿です。よろしくお願いします。
「ボーイ、今日もありがとな」
「ボーイ君お疲れ様、これ今日の取り分。でも本当にこれだけでいいの?」
「そういう約束ですし。それにオレ、ほとんど何もしていませんから」
ニッコリ営業スマイルをしながら、オレは袋に入った銀貨3枚を受け取った。
F級冒険者パーティー『地を駆ける白狼』のメンバーは、1.5m級のワイルドボア討伐クエストに成功し、皆上機嫌だ。
ちなみにボーイとはオレの本名。
大人になったらどうすりゃいいんだ!とツッコミを入れたくなる。
「それにしてもボーイ君のスライム、ギュピちゃんだっけ?ホント便利よねー」
「そいつのおかげでワイルドボア一頭まるまるお持ち帰りできたもんな」
「ほぼコンテナ1棟分の収納能力って・・・そんな使い魔がいたら領都のC級冒険者のパーティーでも引っ張りだこだろ」
「ボーイ、お前来年13歳の誕生日だろ?正式に冒険者になったらやっぱり領都に行っちゃうのか?まあボーイの実力なら王都でも十分やっていけそうだけど」
「王都には興味ありません。こいつと一緒に田舎でのんびりと生きていきたいです」
「「「おっさんか!」」」
膝の上のスライムを撫でていると『地を駆ける白狼』から総ツッコミを食らった。
あと訂正してもらおう、ギュピちゃんは使い魔ではなくオレの大切な相棒だ。
「じゃ、オレはそろそろ帰ります。遅くなるとばあちゃんが心配するので」
「おう、またよろしく頼むわ」
「気をつけて帰ってね」
「皆さんも調子こいて飲みすぎないでくださいね」
「「「ほっとけ!!!」」」
オレは笑顔で小さく手を振る受付嬢のマリアさんにペコリと頭を下げ、冒険者ギルドを後にした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ここは辺境の小さな町ミカミ。
オレは冒険者ギルドで今日もこっそり?冒険者たちの荷物持ちをして日銭を稼いでいた。
10歳の頃から毎日のように通っているため、受付嬢のマリアさんもギルド長のおっちゃんも半ば公認なんだけどね。
「ギュピちゃん、わりぃ、ちょっと寄り道してから村に帰るから」
ギュピちゃんは肩の上でいつものように何にも言わずにニコニコしている。
オレは冒険者の必需品である薬草類を補充すべく、田舎道をはずれ森の奥へと入っていった。
見習い冒険者だって、いや、だからこそ仕事はきっちりしておかないと。
ちょっと前までミカミの森は『シンカータ領の北の森』として迷宮認定されていた。
高ランクの魔物がほとんど討伐された今では、アルメリア王国直轄の狩り場となっている。
オレ?
森を管理しているのはオレの住んでいる『最北の開拓村』だから入場自由、だと思う・・・
「こんなもんかな」
30分ほどでザル山盛分の薬草や毒消草が採集できた。
その時だった。
ビシュッ!
キャイーーーーーン!!!
一瞬風を切る音がしたかと思うと、耳をつんざくような獣の咆哮が森の中に響いた。
それを合図にしたかのように、どこに居たのかワーッと言う複数の男たちの叫び声も聞こえてきた。
(な・・・なんだ?まさか、密猟!?)
密猟者の存在は聞いてはいたが、これまで実際に出くわしたことはなかった。
森全体が騒然としている。
(と、とにかく・・・)
状況がつかめないまま、それでもオレは声のした方へ走り出していた。
仕事終わりで疲れていたとは言え、その気配に気づかなかったのは油断しかない。
茂みを抜けるとそこには白い大きな魔物が血を流してうずくまっていた。
密猟者はまだのようだ。
数本の矢が体に突き刺さっている。
こいつは白狼?
だとしたらCランクの大物だ・・・しかもデカい!!
「グルルルル・・・」
白狼はオレを睨みつけ、無理にでも立ち上がろうとする。
「大丈夫、何もしないよ」
オレは手にしていたハンティングナイフを地面に置くと、ゆっくりと白狼に近づいて行った。
敵意がないのがわかったのか、白狼は再び身を横たえた。
「なんてことを・・・ヒドイな」
刺さった矢は全部で5本、1本は左の眼球に、残り4本はいずれも左の胴体に突き刺さっていた。
待ち伏せを食らったのか、それとも何かをかばったのか。
「我慢してくれよ!」
オレは5本の矢を無理やり引っこ抜いた。
矢に毒でも塗ってあったのか、白狼はビクッとしただけで声は出さなかった。
傷口に薬草をすり潰して塗りたくり、大きな口を無理やりこじ開けて毒消し草を食べさせる。
(効いてくれるといいんだけれど・・・)
「ボウズ、そこまでだ!!」
オレは両手を上げてゆっくりと振り返った。
いつの間にかオレと白狼を遠巻きにして4人のむさくるしい男たちが立っていた。
奴らのエモノは2人は弓矢、2人はナイフ。どうやら密猟者でビンゴのようだ。
(っく・・・)
密猟者の1人は1匹の小さな白狼を抱きかかえていた。
おそらくは母子、母親のケガは子供をかばってつけられたものだろう。
そうでもなければCランクの魔物がこんなクソ野郎どもにやられる訳がない。
「クーン・・・」
傷ついた母親を見て不安そうに鳴く子供。
先に切り出したのは密猟者の方だった。
「おいボウズ、こんなところで何やってる?まさか密猟者って訳じゃないよな」
「オレはこの先の開拓村に住んでいる。あんたらこそ見慣れない顔だけど、ここで何やってるんだ?」
「見ての通りの密猟者さ。この森でバカでかいオオカミを見たって聞いてな。3日かけてようやく仕留めることができたって訳だ」
「悪いことは言わない、その子を放して引き上げてくれないか?そうすれば今回だけは見逃してやる」
「そいつはお優しい事で」
密猟者たちは話しながらもジリジリと間合いを詰めてくる。
どうやらオレの事も無事に帰してくれる気はないらしい。
奴らから見れば目撃者は丸腰のガキンチョただ1人、無理もないか。
クソはどうやってもクソだな・・・
(いくよ、ギュピちゃん)
オレはギュピちゃんにそっと目で合図を送った。
「ギュピ~~~!!」
不意にギュピちゃんが雄たけびをあげる。
スライムなら鳴き声は「ピキー」だろうって?
ウチの子は特別なのだよ、ウチの子は(大事なトコだから2度言った)
「どわっ」
思わぬ伏兵にびっくりした密猟者が子供の白狼を抱えていた手を放した。
「ワゥワゥ!」
子供の白狼は一目散に母親の元に駆けてくる。
「やっちまえ!!」
密猟者たちも一斉にオレたちに突っ込んできた。
(ごめんよ、後でかわいがってやるから)
オレは子供の白狼を捕まえ、抱きかかえ、そして大地にひれ伏して叫んだ。
「【君は1000%】!」
瞬間、ギュピちゃんの体が光輝き、ゴーッというもの凄い音と共に周りにある物質を猛烈な力で吸い込んでいく。
大きさはもはや関係ない、普段のギュピちゃんとはケタ違いの収納能力ですべてを吸い尽くしていった。
「うわっ、な、なんだ」
「助けてくれー!」
密猟者どももなすすべもなくあっという間にギュピちゃんに吸収されてしまった。
吸収されたモノがどうなるかなんてオレは知らない、知ったこっちゃない。
やがて小さな嵐が過ぎ去り、あたりは静けさを取り戻す。
そこに残っているのはオレとギュピちゃんと白狼の母子だけだった。