山岸先輩の誘惑
「ちょっと何の音?」
母さんがダイニングからぱたぱたと走って来た。
「あ」
階段の下で僕達が軽く密着しているを見られた。母は少しニヤけて、
「ちょっともう。若いからって激しくし過ぎよっ」
「違うよ母さん。これは……」
「お邪魔様ーっ」
母さんはほほほと笑いながらそそくさと奥へ戻って行った。
「何かお母様に変な勘違いされたわね」
「……」
そして香織はさっさと僕の家を出て行った。軽く災難なんだけど……。
翌日。昨日と同じように香織が家の前で待っていた。相変わらずの重箱だ。しかし二段になっていたので(昨日は三段だった)量は配慮してくれたみたいだ。重箱を受け取ってから訊く。
「体は大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫よ」
「そうか」
「貴方こそ大丈夫なの?」
「少し痛い……」
「え!? 大丈夫なの!?」
「いやまあ、大したことないさ」
「そう……」
少し申し訳なさそうな顔になっていた。
「僕も無理に引っ張ったとこはあるから、もう少し考えて行動すべきだった」
「……」
彼女は何も答えなかった。
「頭は痛くない?」
「え?」
心配そうに言う。
「頭よりも背中だな」
「そう……」
香織はほっとしつつも落ち込んでいた。
「昨日はその私も意固地になりすぎてたわ。今日は行動を慎む……」
そう言ってから僕達は静かに学校まで登校した。クラスに入ると、自分達のいつものメンバーで集まった。
「また重箱かっ」
「まあな」
「今日は一段少ないな」
「量を多いって言ったら少なくしてくれたみたいで」
「そうか」
そして昼休み。重箱の中を見ると、上の段はニンニク料理と焼いたチキンで、下の段は卵料理と野菜の炒め物とご飯だった。ニンニク料理は豚肉の細切り炒めだった。ニンニクと豚肉が丁度良く絡んで美味しい。焼いたチキンもニンニクの風味が移っていた。これは酸味が利いている、なるほどレモンである。そして卵料理は卵とアスパラガスと切ったウインナー絡めた料理で、食べてみるとコリコリという食感があった。この味はクルミのような感じがする。ふむ。美味い……。
「おい小谷」
「?」
「孤独のグルメの五郎さんみたいな顔になっているぞ」
「まじか?」
「友達の前で食事を一人で堪能するな」
「悪い悪い」
「それにしても美味しそうだな」
「あぁ、美味いよ」
「うちのおかんは面倒くさくなると半分冷凍食品だから、あまり料理は凝らないんだ。いや、別に悪くはないがな」
「まぁ、手作りが良いわな」
「同年の女子となると尚更なっ」
僕はその言葉にドキッとする。昨日、彼女を異性として見たことを思い出す。
「それは別に関係ない」
「そうか?」
「まぁ、彼女なら別だけど……」
「え? 何だって?」
「何でもない。さっさと食べるぞっ」
そして一時間後、またしても体が熱くなる。熱い、熱い……。最近以前とは違う火照りが明確に感じるようになる。熱くて勉強に集中出来ない。体の内部から徐々に体温の上昇を感じる。何でだろうか。授業に集中出来ないのでキョロキョロしていると、香織と目が合う。じーっと見つめてくる。ドクンと鼓動が上がり、下の方からムラッと来た。あ、まただ。これはまずい。僕は彼女に目配せする。
『じゅ・ぎょ・う・に・しゅ・う・ちゅ・う・し・ろ』
伝わったのか彼女は黒板の方を見た。良かった……と思っていたら、またこっちをちらちら見返して、僕から見える右側の髪を左手でゆったりと右耳にかきあげてその髪を綺麗に纏めてポニーテールにした。そんな行動だけなのに鼓動が激しくムラムラする。やばっと思って目線を逸らすがちらっとつい見たら、ふっと笑った。
(あいつ~っ、笑いやがったーっ!)
僕は何となく顔が暑く感じながらしっかりと目線を逸らした。そして放課後。にやにやしながら香織が来た。
「弁当」
「あ、あぁ……」
重箱を香織に渡した。
「どうだったかしら?」
「美味しいよ?」
目線を合わせずに言う。
「そう、それは良かったわっ!」
いつものことながら嬉しそうだ。
「それよりさ~っ」
「?」
僕の耳元に近づいて囁く。
「私の方を見てドキドキしてたでしょ?」
ギョッとして少し体を反らして彼女の方を見る。ニマニマしている。気恥ずかしさのあまり目線を反らす。
「別にっ!」
「あらそう、ふーん」
まだ何か含みのある言い方だったが、
「私部活あるから行くね」
「え? あ、僕も……」
そして部活へと向かった。男子更衣室を出て体育館に行くと、大会が近いので皆ユニフォームを着ている。
「お、小谷君」
「あ、先輩ちわ~っす」
ユニフォームのせいか山岸先輩の体のラインが良く分かるので見入ってしまう。胸のそこそこ豊満な膨らみに引き締まったくびれ、そして丸い尻に少しムチッとした太ももに少し膨らんだ股か……。
「そんなに色々じーっと見られるのは恥ずかしいのだが」
僕ははっとした。しまったついっ……。
「済みません。ついその~っ、お綺麗なので看取れてしまって」
そして彼女は笑みを浮かべ、そっと彼女は僕に近づいて来て耳元で囁く。
「そんなに見たいなら家に来る?」
え!? もしかして甘いお招きですか!? 僕は背中と腰が疼いた。
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