まだまだか……
「おい、何かやけにニンニクの匂いがするなっ」
僕と一緒に食べているのは高校からの友達である美馬純一だ。
「なんか香織の奴が弁当作ったんだ」
「え!? そうなのか?」
美馬は軽く叫んだので近くにいたグループがこっちを見る。
「おい、馬鹿。声でけーよっ!」
「いや、悪い悪い」
彼は軽く謝った。
「しかし良いなぁ。校内美女でかつ高嶺の花の望月さんに弁当を作って貰って。俺もそんな幼馴染みが欲しいなー」
「まぁ、良い幼馴染みとは思っている」
「それにしてとやけに卵が多いなっ」
「そうなんだよ……」
「一つ頂きっ!」
「あ、おいこらっ!」
「美味しいけど甘っ!」
「僕は甘い卵焼きが好きだからなっ」
「それにしても甘過ぎる」
「おい、勝手に取って文句を言うなっ」
「それにしてもニンニクと卵かーっ。まだ少し残暑だから精が付きそうだな」
「え? あぁ、まあな」
僕は美馬に言われて始めてニンニクと卵の多い謎が分かった。なるほど。精の付く料理かーっ。滋養強壮。部活で大変だから元気でいるためにということかな? そう思い香織に感謝の念を持った。
授業を終え放課後。
「おーい、香織ーっ」
「?」
「弁当美味しかったありがとう」
「それは良かった」
彼女は笑顔になった。
「僕部活頑張ってくるから」
「え? えぇ。頑張ってらっしゃい」
そして僕は颯爽と笑顔で部活に向かった。
部活終了後。山岸先輩が僕に声をかけて来た。
「今日は一段とよく頑張っていたなーっ小谷君」
「あ、先輩。ありがとうございます」
「何か良いことでもあったのかい?」
「いや、良いことというか食べ物が良かったんですかね?」
「昼の弁当そんなに沢山入っていたのか?」
「まぁ、量はそこそこありましたが、それ以上に卵料理やニンニク料理が入っていて」
「なるほど、それでか……」
「?」
「それよりよくそんな料理をお母さんが作るね。普通は夫に作りそうなもんだが」
「いえ、弁当は幼馴染みが……」
「? 君の幼馴染みって……もしかして女子なの?」
「えぇ、まぁ」
「同い年?」
「はい。そうですけど?」
「そうなのか、弁当を作る程の幼馴染みが小谷君にはいるのか」
「えぇ、そんなに大したことないですけど……」
「名は何と言うの?」
「え? 望月ですけど?」
「もしかして一年なのに弓道のレギュラーに入って成績優秀でしかも可愛らしいあの望月さん?」
「えぇ、まぁそうですけど、それはあくまで学校でのみの話で……」
「……」
「先輩?」
「そうなのか。その上弁当を作ってくるのは凄いな」
「そうですかね?」
「私はなかなかそこまで出来るかどうか……」
「いやいや、先輩は生徒会も入っているし学校でのお仕事が大変じゃないですかっ」
「……しい」
「え?」
「あ、いやっ何でも無い。そうか、分かった。まぁ小谷君。バレーをその調子で頑張ってね」
彼女は口角を上げニッとして、ぽんぽんと僕の肩を叩いて体育館を出て行った。僕は学校の裏の出口に向かっていると、手前の弓道場で香織が友達と話していた。僕はすーと見て見ぬ振りをして歩こうとしたら、洋平と声がかかる。
「待って。一緒に帰ろう」
「え? あ、あぁ」
「じゃあね、さつきちゃん」
そして香織と一緒に帰る。互いの家は100mしか離れておらず、ほとんど帰る道は同じだ。
「どうしたんだ? 朝はともかく夜は珍しいな」
「まぁ、そういう時も必要かなって」
「そうか」
「どうだった? 青椒肉絲の味は?」
「え? そりゃあ油控えめだったけど冷えてたら油が具にバランスよく絡んで丁度良かったぞ」
「そう、それは良かった」
しかしそれ以上の言及はなく、ニンニクと卵の話がない。
「明日も洋平の好きな料理作って上げるから」
「あ、あぁ。ありがとう」
何しようかな~っとワクワクしている香織を見ながら、さっき山岸先輩の言葉を思い出す。
──凄いな
──私はなかなかそこまで出来るとは……
僕はふっと笑う。
「どうしたの洋平?」
「今日さ、部活終わりに山岸先輩と話たんだけど」
「うん……」
「お前の話になってさ、大したことないって話になった」
「はぁ、そんなこと誰が言ったのよっ!?」
彼女は少し口調を強めに言う。
「いや、僕がさ」
「はぁ? 何よそれーっ」
彼女の口調は少し和らいで、そして少し不服そうに言った。
「けどお前のお陰で元気に部活が出来たよ。ありがとう」
「え?」
不思議そうな顔になり、少ししてから理解したのかうんうんと頷いた。
「そう、それは良かったわっ」
香織は僕の方をじろじろ上から下まで見てくる。
「何だよ?」
「え? いや別に。ところで体は熱くならない?」
「え? そりゃあまだ外が暑いから暑いさ」
「……そ」
彼女は少し考え込む風な感じで歩く。
「まだまだか……」
そうボソッと聞こえた感じがした。
何がまだまだなのだろうかと気にはなったが、深くは考えなかった。そして翌日。家を出ると香織が待っていた。
「はい。これ弁当」
「あ、あぁ、え? けどこれって……」
彼女が渡した弁当箱は明らかに量のある重箱だった。
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