宣戦布告
最終回にします
振り返ると、ハンチング帽子にグラサンをしている地味めの女子が僕を引っ張る。
(だ、誰!?)
そして山岸先輩は耐えられなかったのか、ぱっと手を離した。
「わっ!」
僕はその女子の上に乗っかる形で倒れた。彼女がクッションになってくれたお陰が痛くなかった。
「痛たーっ」
しかし彼女は少し唸っていた。彼女の方を見ると帽子が脱げサングラスだけ……、
「か、香織!?」
僕は彼女に向かって叫んだ。彼女は香織だった。
「え、いやその……」
彼女はあははと笑いながら立ち上がり、さっとここから走り去った。僕は急いで下着コーナーから出て香織を追いかけて手を持って捕まえた。
「何やってんだ香織っ?」
「え……」
彼女は振り返り僕を見ると片目から涙がこぼれていた。僕はギクッとした。
「か、香織……?」
「はは、どうしてだろう……いや、別に大したことじゃないんだけど……」
彼女は頬から流れる涙を腕でぐいっと拭う。僕はどうしたら良いか分からず彼女の手を離さずに呆然とした。香織に握っている手を離さなかったのは彼女が逃げるんじゃないかと思ったからだ。そしてしばし無言でいると、山岸先輩が買い物してこっちに来た。
「あら、望月さん来ていたの」
「!」
「山岸先輩……」
先輩は余裕綽々の声で香織に言った。
「貴女、私達の後を付いてきたの?」
「……」
香織は何も言わない。山岸先輩はふふと笑い、
「小谷君が望月さんの幼馴染みだからって小谷君のストーカーをしては駄目よ」
「ち、違……」
「ならストーカー以外に何て言うの?」
「……」
香織は下を向いて応えない。僕は二人を取り持てば良いか分からず、ただ呆けてしまった。そして香織は、私は……と言う。
「……私は洋平を取られたくないの!!」
大きな声だった。周りの客が振り向いた。
「あらどうして?」
「それは……」
香織は僕の方を見て言う。
「た、大切な幼馴染みだからよ!」
「それだけの理由でそこまでのことをするの?」
「う……」
彼女は言い淀む。また俯いた。そして、
「……て」
「ん?」
「もう離して!!」
彼女は子供のように泣け叫びながら、体を左右にぶんぶんと揺らす。
「は、離したらここから逃げるだろ!?」
「離してーー!」
こんな彼女の我が儘は始めてみる。
「周りの客もいるからとりあえず落ち着けって!」
「ぐず……」
目を真っ赤にして、とりあえず静かになった。
そして僕達はこのモールから出て近くの公園に向かった。三人とも始め無言だったが、香織が口を開く。
「私は貴女が嫌い」
僕はギクッとする。でも……と彼女は言葉を続ける。
「相手として不足はないわっ」
だから、と口角を上げながら言う。
「……だから私は貴女に負けない!」
最後まで読んで頂きありがとうございました。
今回はここで終わらせて頂きます。
読んで下さった皆さんありがとうございました。




