香織と蕎麦
翌日、土曜日になる。昨日の夜なかなか寝付けないまま朝を迎えた。部活が終わり僕は家に帰ろうすると山岸先輩が、
「一緒に昼ご飯も食べないか?」
と誘ってきて僕はギョッとした。どうしよう、昼は香織と食べるのに……。
「一緒に食べてそのまま買い物しようと思ったんだけど、どうしたの小谷君。何か都合でもあるの?」
彼女は少し不安そうに言う。
「あ、はいえーっとご飯はか……そうですね。ちょっと都合がありまして」
「そうか……それは仕方ない。買い物の時間と場所はまた連絡するから」
そう言って彼女は体育館を去った。そしていつものように颯爽と帰っていると香織と目が合う。チャットでは謝ったが、リアルで会うのは謝って以降始めてだ。少し気まずい。そのまま過ぎ去ろうか迷いながら歩いていると、
「じゃあねっ、さつきちゃん。またね」
「うんまたー」
香織はこっちに来た。なにやら少し不機嫌そうだ。
「何よ?」
「いや、こっちに来るのかと思って」
「いつも通りしないと『何かあった?』って、周りが気にするから」
「あぁ……」
なるほど、そういうのも確かにあるな。集団行動の大変さである。一緒に帰るというものの、まだ気まずさが残っているせいか無言で帰る。
「……」
「……」
しばらくそうしていたが僕はこの空気に耐えきれず、
「深く考えず悪かった!」
と謝った。
「もう良いって言ったでしょ?」
香織は優しい声で言った。
「う、うん……」
「とりあえず今日行くそば屋さんなんだけど……」
「うんうん」
とりあえず気持ちを切り替えて家から自転車で5分のそば屋に行くという話になった。
「よしそれで決まりだなっ」
「そこのお蕎麦美味しいのっ」
「行ったことあるのか?」
「下見に家族にね」
「灯台下暗しだなーっ。近くにそんな美味しいそば屋があるのかっ!」
二人で笑いながら楽しく話す。
「……ところでさ洋平」
「ん? どうした?」
「どこのお店で買い物するの?」
僕はギクッとする。せっかくわだかまりが消えたと思ったのになんでその話を蒸し返すんだ?
「なんでそんなこと訊くんだ?」
「それは……」
その時バイブでスマホが揺れた。見ると、山岸先輩からだった。
『14:30に自転車で校門前に来て頂戴』
「何か校門に自転車で集合だって」
「買い物行く場所は?」
「さぁ、そこまでは知らないなーっ」
「……」
香織を見ると何か思案しているような顔だった。そして家に着き支度をして外に出ると彼女はまだいない。そして少ししてから自転車が近づく音が聞こえる。
「ゴメン遅くなって」
「香織遅……」
僕は彼女を見てびっくりした。彼女は膝丈まである白のワンピースを着ており、髪はポニーテールで少し恥ずかしそうに自転車を持って歩いて来る。僕は彼女の女性らしいその格好にどきどきしてしまう。一言で言うとまさに清楚と言った感じだ。
「どう……かな?」
恥ずかしそうにちらちらと目をこっちに向けてくる。粗野気味のあの香織が、可愛い!!
「まぁ、ええんでないか?」
ちらちらと彼女を見ながら言った。気恥ずかしい……。
「そ、そう……」
彼女も躊躇いがちに言う。
「それで自転車漕ぐの大丈夫か?」
「ええ、それくらいどうってことないわっ」
そして僕達はそば屋に向かう。その店は13:00を越えていたが、まだ人はちらほらいる。
そして僕はざる蕎麦を彼女はきつね蕎麦を頼む。その店はそば屋らしい日本建築の建物だった。そんなに遠くない所にこんな店があるなんて。落ち着く場所だ。そして注文の品が来たので、それぞれ食べる。つゆに蕎麦を1/3ほどつけて蕎麦の味と風味を感じながら、濃いめのつゆと絡める。当たり前だが麺とつゆの相性が抜群に良いのでとても美味しい。
「美味しいなここ」
「そうでしょ、雑誌に載ってたから来てみたの」
「なるほど」
「きつね美味しいから食べてみる?」
「いや、大丈夫」
彼女は少し頬を膨らます。そして僕は先に食べ終えた。
「あー、美味しかったーっ」
彼女はまだズズズと蕎麦を啜っている。時間を見ると、13:30頃になっていた。そろそろ行けるかと思い、彼女を見ると後ちょっとだったので食べ終わるのを待った。その間にネットを見たり、山岸先輩に了解と返信したりした。
食べ終わりお金を支払い店を出ると、日差しが上から照ってきて暑い。そして家に帰る。時間を見ると14:00前だった。
「じゃあ香織、明日」
「えぇ、分かったわ」
やたら素直な声で香織は言い彼女と別れた後、僕は学校へと自転車で向かう。そして学校に着くと15分早く着いたせいか山岸先輩はまだ来ていなかった。そして5分前になると、おしゃれな格好の人が自転車を漕いで来る。うす茶色のTシャツにショルダーベルトみたいなのが付属しているズボンを穿いていた。まだ残暑が残る夏らしいコーデだった。
「ゴメン遅くなって」
僕は見惚れてしまった。
「……小谷君、小谷君?」
「は、はい!」
「大丈夫? ぼーとして」
「あ、大丈夫です」
「ど、どうかな服は?」
「とても良いと思います」
「あ、ありがとう」
僕は照れてつい俯いてしまった。
「す、少し早いけど行こう」
「は、はいっ!」
そして僕は山岸先輩に付いていった。始めて彼女と二人で出かけるので結構どきどきしてしまい、尾行されているのを全然気づかずにいた。
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