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魔王の日記

作者: コロ

この作品は同作者の『魔王日記』の続編です。

作者的には出来ればそちらから見ていただきたいのですが、まぁその辺のことは読者さまに任せたいと思います。


これは前作と違って完璧なコメディです。

魔王もいろんな意味で印象が激変します。ご了承ください。

東洋暦2045年 7月8日 天気:青空!


 今日私は愛しい人に日記帳をプレゼントした。


彼女にプレゼントしたのは割と高級な感じの日記帳だ。

つい私もおそろいのを買ってしまった。くふふ……。

ただし彼女のは赤い表紙に黒と金の刺繍がしてあり、私のは黒い表紙に青と銀の刺繍がしてある。

まぁ柄は一緒だがな。ふふふふふ……♪


税金の無駄遣いだと言われても私は何も言わんぞ? 私は王だからな。しかも【魔王】だからな?


 私が執心なのも彼女を見れば万人世界共通にわかると思う。


 何と言うか、彼女はもう最高に美人なのだ!


私の側近と言うか秘書官をしているのだが、彼女のそのしぐさ一つひとつがもう可愛らしいのなんのってホントにもう! ばかぁ! そんなに私をいぢめたいのか? くはははっ……、………スマン妄想だ。


 しかし彼女の美しさはそんな言葉で形容できるようなものではないのも確かだ。

流れる黒い髪、煌めく瞳、花弁のような唇……、どれをとっても彼女は綺麗なんだよなぁ。


だから彼女にプレゼントを渡すときも、恥ずかしくてついぶっきらぼうになってしまったがそこは仕方あるまい。

好きな人の前じゃ誰だって無口になってしまうものだろ?


ん? 違うの?


ごほんっ!

そ、それはさておき今日は綺麗な月が出ている。真っ暗な中にひときわ目立つ月。


まるで彼女のようだ。



はぁ、やっぱり愛しいなぁ。


 +  +  +


東洋暦2045年 7月21日 天気:うざい雨が時々降ってくる。つーかジメジメしててキモイ。


ヤバい、マジやばいって。

なんか彼女が私の贈った日記帳使ってくれてたんだけど。

優しい顔してさらさらなんか書き込んでたんだけど。

もう仕事にならんわ、ホント。


しかも時々こっち見てなんか書くんだよ。好きな人がそんなことしてたら、どうにかならん方がおかしいって。

マジで。


まぁ視線をかわすため、ずっと外を眺めてたかな私は。

もちろんその辺は魔王なので見なくても彼女が何してるか分かってたけど。


もういっぱいいっぱいな訳よ。

泣きたくなった。


いやしかしな、いくら暇だからって仕事中はやっちゃいかんよ仕事中は。


ってなわけで注意しようと思ったのだが………。


無理!

私には絶対無理だ。


あんな可愛く困った顔されて注意できるヤツいるか。

まぁそこは私だって男だし、覚悟を決めて彼女の方を向くと……。


そしたら彼女ったら可哀想にビクッと震えると固まっちゃって、顔を赤くした。


女の子だ。

普通に女の子だ。

時々ならこういう姿も見たいなぁ。


不純? うるさいな。私は魔王だぞ? 何か文句あるのか?


ともかく、私はかすかに残った勇気を振り絞って彼女をいさめることを決心した。


「どうかしたか?」


あーあー私を情けないヤツとののしればいいさ。


だから無理だっつーの!

かわいすぎるの! 可愛らしすぎるの!

ちっちゃく「……なんでもありません。」とか答える姿が愛くるしすぎるの!


だから私だって「そうか、ならいい」とか言っちゃうの――――!


うぅぅ、泣きたい。

ていうか、胸の奥がほろ苦いよ。


まぁそれでちゃんと反省したのか以降はきちんと仕事してたが。


ちなみにその後は彼女が仕事に集中してたから、私は彼女をじっくりと見ていた。

やっぱり自分の目で彼女を見るのが一番だからな。


お返しだよ、こいつぅ。


んんっ! ごふんごふんっ!

い、いずれにせよなんか知らんがいつもより仕事が早めに進んで楽勝を気取ってたら、彼女も自分の仕事が終わったようで手元の書類をトントンとキレイにまとめる。


残った書類を手早く片付けると、彼女は私の方を向いて、こう首をいい感じに傾けて私に

「書類はあと何枚残ってますか?」と訊いてきた。


…………………~~~~~~~~~~~~~~~~~//////////////


ああもう白状します! 

小首をかしげて上目遣いで私を見上げる彼女はサイコーに可愛かったです!


油断してた! こう来たか! みたいな?


あわてて

「三枚だ」ってぶっきらぼうに答えた私も悪かったです!

ごめん!

でもカワイすぎてキミを直視できなかったの!


で思わず目をそらして言った言葉がコレ。


「特に手伝うこともない、下がれ」


あ――――――っ! もう私のバカ!

素直に手伝ってもらえよ! 三枚でも手伝ってもらえばいいじゃん!


もちろん従順な彼女はそれを聞いてすっと席を立った。


素直なのはいいことだよ? いいことだけどさ、裏を返せば物分かりがよすぎるんだよ!

いや、確かに私は魔王だからイコール上司ってわけで、命令を聞くのが普通なんだけど!

私が魔王だからいけないのか?

いやいや、魔王じゃなかったら彼女には会えなかったわけだし……


っていうかそんなこと考えてるうちに部屋出てこうとしてるよあの子!

とっさに私はそれを止めようとした。


「エル」


なんか思わず出たにしては静かな声がでた。

彼女はいきなり自分の名前を呼ばれ驚いたように振り返った。

てかむしろ私の方が驚いた、自分の声に。


で。


「私が贈った物を使ってくれるのは嬉しいが、仕事中は自重しろ」


これだよ。

何やってんだよ私。

厳しすぎるよ。


確かに注意しようとは思ったよ。

でもこれはない。


彼女も顔をカッと赤くして出てっちゃったし。

大丈夫かな、怒ったのかな。


どうしよう心配だな。

あとで訊きに行ってみようかな。


いやぁでもそれじゃあ魔王としての威厳が……。


とりあえず、彼女の明日の反応を見よう。

ことはそれからだ。


うわぁ、今日不安で眠れなさそ…………。


 +  +  +


東洋暦2045年 8月14日 天気:めっちゃ雨降って雷が庭の杉の木に落ちた。正直ビビった。


 今日、隣の国から宣戦布告を受けた。


 訳がサッパリわからない。

突然使いの者が来て、文書を渡したら逃げるように帰っていった。


雨にぬれてびっちゃびちゃだったから私は風邪をひくと思いタオルで体を拭いてから帰るよう言ったのだが断られた。

 ちなみに私の城の中もびちょびちょだ。掃除してから帰ってほしいと心底思った。


どうでもいいか。


で、宣戦布告のことなのだが、どうやら隣の国の王様は私のことを相当嫌っているらしい。


初めて会ったときもあの人は「ひぃいぃぃいいい! まっ魔王?!」と盛大に悲鳴を上げて、7メートルくらい後ずさって壁に激突して気絶した。


あほかと思ったのは内緒だ。


私より三〇も年上らしい。

アホではなくボケてるのだと気づいた。


ちなみにその時に叫ばれた【魔王】がそのままあだ名になったのは知る人ぞ知る。

割と気に入ってるからそのまま呼ばせてるけど。

最近じゃあ自分で名乗ってるし。


良くない? なんか強そーで。


ん? 私か?

私はまだ二十代だ。


彼女とはみっつ違いだ。

好ましい年齢差だと思わないか?

いい感じに頼られる歳の差。


理想的だ、やはり彼女とは結ばれるべきなんだ、くっふふぅ……♪


………スマン、またどこかへ飛んでいた。

インクで書いてるから消せんしなぁ……、困ったもんだ。


そうそう、その彼女だが。

彼女はその可愛らしい瞳に似合わない憎しみの炎を燃やして手を思いっきり握っていた。(てかその炎がドス黒くて怖かったんだけど)

このままでは血が出てしまうと思い、あわてて手をほどいてやった。


のだが。

…………ああ、どうして私の行動は思った通りに見えてくれないのだろう。


後になってドアの外で見ていた兵士が教えてくれたのだが、彼曰く私のやっていたことは

『ゆっくりと落ち着かせるようにやさしく手をほどいてやっていた、まるで恋人がそうするように。まるであわてていたようには見えなかった。』

だそうだ。


ああ、だから彼女は顔を赤くしてたのか。

突然手を握ったりして怒らせてしまったのではないかと内心ヒヤヒヤしていたのだが。

ていうか嫌われたんじゃないかと心配で心配でたまらなかったのだが。


うー、でもこれで私の気持ちが伝わっただろうか。

それならそれでありがたいんだけどなぁ……。



書き加え。


まぁすんならってことで受けてやった、宣戦布告。

私としてはどうでもいいっていうかむしろ持病がキツイし面倒なんだけど、彼女が悪く言われるのは気に入らない。

いくらココロの広い私でもね。


ああ、子供だと笑わば笑え。

私はそれくらい怒っているんだ。


好きな人を傷つけるような奴はキリンかなんかに蹴られて死んでしまえ。


 +  +  +


 東洋暦2045年 8月26日 天気:そこそこ晴れ


危なかった。


私が部屋で寝てたら、なんか殺されかけたっぽい。

無意識に思いっきり突き飛ばしてやったらそいつは廊下まで弾き飛ばされた。

やりすぎたかなんて思ってたら、彼女が来た。


殺し屋さん(仮名)は彼女に襲い掛かったが、彼女は持っていた小型拳銃で脅しをかけ追い払った。

ついでに言うとすごい格好良かった。


逃げようとする殺し屋さん(仮名)を彼女は追おうとした。


私は彼女を止めた。

とにかく必死に。


下手をすれば彼女が殺されてしまうと思ったから。


あまりに必死すぎて腕を強く握りこんでしまったか彼女は痛そうに顔をゆがめこっちに振り向いた。


「なぜ止めるのです!今あの下郎を追わねば、また陛下の身に危険が及ぶかもしれないのですよ?!離して下さい!!」


耳元で叫ばないでほしかった。

正直耳が痛かった。


彼女に行って欲しくなかった、心配で逆に死にたくなるから。言い訳に


「誰も傷つかぬ道をゆきたい」


なんて言っちゃった。

わ、恥ずい。


ちなみに手はぶるぶる震えていた。

怖いんじゃない。


いや、確かに怖かったというべきか。


私自身の命なんて結構どうでもよかった。

命なんて後継者争いや病のせいで、とうに無いようなものだ。

後継者争いなんてしていない、ただ自分を守るためだけに身につけた護身術でたまたま生き残った自分が玉座に座っただけだ。


だけど、彼女を失うことが怖かった。


だから、止めた。


彼女は怒っただろうか。

彼女は、私のことが嫌いになっただろうか。


もし嫌われたとしても彼女や民たちにはできるだけ傷つかず生きて欲しいと言うのも本音だ。

私が死ねばよいのなら死んでもいい。


でもあンの痴呆じじぃにだけはぜってー殺されん。

殺されてなるものか。


ボケじじい許すまじ。


神様なんてすねの毛の先ほども信じていないが、彼女が信じてるっぽいのでせめて祈りくらいは捧げてやらんこともない。


我が身が死に、腐り、朽ちたとしても

我が国の民たち、そして我が愛する女性に幸多からんことを。


 +  +  +


東洋暦2045年 9月3日 天気:雨かなと思ったら氷が落ちてきて冷たかった。てか痛かった。


 勢いで始めた戦争。

どうしようもなく状況は悪くなっていった。


敵はどんどん私を襲ってくるようになるし、国民は城の前で泣くし、私の体は重い てかゆーことを利かんし、ああもうごっちゃごちゃだ!


カオス。混沌。

うん、今の状況にはぴったりの言葉だ。


私はお得意の護身術があるから殺されやしないっつーのに、彼女はもぅ警戒しまくりの警護付けまくりよ。

近衛隊も減るどころか、だんだん増えてきている気がする。

平気だって言ってるのに。


私は困ってるときは困ってるって言うし、泣きたいときは泣くのに。


でも


国民が泣くのはいやだ。

不愉快だ。


皆には泣いて欲しくない。


彼女にも、国民にも。


私が全部背負ってやるから、誰にも泣いて欲しくない。

背負えるならばすべて私に押し付けてくれ。


 +  +  +


東洋暦2045年 9月12日 天気:空見てる余裕とか、マジなかった。つか正直今もキツイ。


 あー、今日はほとんど真っ白だ。

なーんにも覚えてない。


 体が重い。頭も重い。

血がうまく回ってないのが分かる。


……どうやら私は倒れたようだ。

なんだ? 疲れか?

それともちまたで噂のストレスというやつか?


ま、戦争してるんだし無理ないか。


正直こうやって起き上がって日記を書くのも億劫だ。

じゃあなんで書くのかって?

そりゃあれだ、習慣?


持病も悪化するし、悪いこと尽くめだ。


まぁ彼女がおかゆを作って持ってきてくれたのが唯一のいいことかな。

それのおかげでだいぶ体が軽くなった。

この調子だと一週間もせんうちに具合は良くなりそうだ。

前よりも体調が良くなるかも知れん。

彼女のおかゆのおかげで♪


愛の力は強いのだ。


 +  +  +


東洋暦2045年 9月20日 天気:曇り


 やばい。


 どうしよー、やっちゃったよ。

私、ついにやっちゃったよ。


ああ、これじゃ何が何だかわからない。

とりあえず整理しよう。深呼吸すーはーすーはーって何で書いてるんだ私は。

どんだけ混乱してんだよ。


とりあえず、ひとまず、なんとか、そこそこ冷静さを取り戻した、はず。


よし、では最初から整理してみよう。


まず今日の朝、私はすこぶる体調が良かった。

だから、軽く城内を散歩していたんだ。


ここまではおっけー。


で、執務室の前の角を曲がったところで彼女に遭遇した。

いやそれだけなら、幸せな一日だった~で話は終わるんだけど、今日はそれだけじゃない。


ちょっと前、

一か月くらい前に来た殺し屋さん(仮名)が彼女の背後に近づこうとしていたのだ。

彼女はそれに気づいていない。

そして、今まさに剣を抜こうをしているところだった。


私はダッシュした。


城の廊下が長いのを恨んだことは、まぁなくはないが、少なくともこれほど恨めしく思ったことはない。

息が切れる、苦しかった。


殺し屋さん(仮名)が剣を振りかぶった瞬間、彼女は後ろの人物に気付きその麗しい顔に衝撃と恐怖の表情を浮かばせた。


その表情を見るとなんか言い知れぬチカラが湧いてきて、瞬間、私は彼女と殺し屋さん(仮名)の間に割って入ることに成功いた。


火事場の馬鹿力ってヤツかね。


片手で愛刀を振りかざしもう片方の腕でしっかりと彼女を抱きしめた。


「陛下!?」


ああ、もうあなたは耳元でしか叫べないのか、 と言ってやりたかったがそんな余裕はなかった。


ていうか耳が痛かった。

今も結構じんじんしてる。


で、殺し屋さん(仮名)は思ったよりもだいぶ弱かった。

少なくとも、後継者争いで命を落としていった兄上たちの方が数倍強い。

軽くいなすだけで、相当あわててたし。


そしたら早々に退散してった。

実力の差を思い知ったらしい、えへん。


愛しい人がいるから今回は見逃してやったけど、次は殺すから。

二度と来んなバーカ。


逃げるにしても、窓を割らずに行ってほしかった。

なんであそこの国の人たちはこう無駄な掃除の手間を掛けさせるかな。

お母さんに「立つ鳥跡を濁さず」って習わなかったのか?


で、その殺し屋さん(リンチ候補)が去った後、彼女は蒼い顔をして「陛下、お怪我は?」と訊いてきた。

むぅ。

可愛くないわけではないんだが、彼女に暗い顔は似合わんな。


そう訊かれて私は、なんと言うか馬鹿に出来ないほど疲れていたのだが、愛しの彼女の問いかけだ。答えんわけにもいかん。


「ない、お前は?」


怪我はね。

今にもとろけだしそうなほどに疲れてるけど。


「私のことなど……」


「エル!」


その言葉に私は激昂した。


疲れてたし、

今も相当疲れてるけど。


けど、怒ってもいいよな。

彼女は自分がどれだけ大切な存在か気付いてないし。


「私はお前に傷ついて欲しくはないのだ。 なぜわからない? どうして気づかない? 私は………。」


 とくとくとくとく


うわーうわーもう最悪!

プロポーズの言葉を最後まで言えないって。

どんだけヘタレだよ私。


しかもこういう時に限ってさ、体は正直っていうか、心臓は正直っていうか、もうありえない!

私のバカ、バカ!


顔は熱いわ、心臓は飛び出しそうだわ、彼女の吐息は聞こえるわ。


はぁ、もうしょうがない。

ここまで追い詰められたら、告白するしかないだろう。



「……惚れた女を抱きしめていたら誰だってこうなる。」



愛の告白。です。



ギャ―――――~~~!

なにこれ、なにこれ!

ぶっきらぼうすぎるし、何が惚れた女よ!

女って! おんなって!

女性って言うべきだよね失礼極まりないよね!

やっちまった――――――――――!



とか心の中で慌てるやら呆れるやらの私を見て、彼女は口を金魚みたいにパクパクさせていた。


あまりのことに声が出ないらしい。

これをみてちょっと落ち着きを取り戻した私は、くすりと笑って


「お前はさっき何を聞いていた?」


と訊いた。

 

しかし彼女の口から出る言葉は「いや、あのえっとその……」ばかりだ。

仕方がない、ここは強引にいっちゃおう。


これからしようとしていることを想像すると頬がまた熱くなる。

私はもう一度落ち着きを取り戻すためゆっくりと息を吐き


 「もういい…………黙れ。」


 彼女の唇を奪った。




うわぁぁぁぁあああああああぁぁあああぁぁああぁぁあああ!!



おっおちつけ!

落ち着け私!


そのあとはどうだった?

えーとえーと。

そうだ

思い出した。口付けした後彼女は真っ赤な顔をして

「……もしこれからも私をおそばにおいてくださるおつもりなら、エルではなくエルシーとお呼びください。私と親しいものは皆そう呼びます………。」と小さく、本当に小さく呟いた。


そのあと彼女はほわんとした顔をして後の言葉が続かないようだったから「わかった」とそれだけ言って私はまた彼女…じゃなくてエルシーの額にキスを落とした。


愛しさがあふれ出てきたのだ。

もう止まらない。


私の自慢の広いココロの中はキミへの愛でいっぱいになった。

ずっとずっと一緒にいてくれ。


エルシー。

エルシオン・マヴロート

私の最愛の人よ。


  *  *  *

 *  *  *  *

  *  *  *


東洋暦2048年 10月10日 天気:狐の嫁入り。おっきい虹が出てて綺麗だった。


ああ嬉しいな。

今日私の部屋に可愛すぎるマイスイートエンジェル、エルシーが引っ越してくる!

うっふふー♪

舞い上がるさ、そりゃもう!

魔王だもの!

あれ? 違うか? 間違うこともあるさ! 人間だもの!

くっふふー♪

もうハイテンションでゴー! だよ今の私は。

男にあるまじきテンションの高さだよ!


ふふふふふふふ………

やっとこれで彼女とあんなことやこんなことやそんなことができる。

キスキスキスキス………好き!みたいな見てて恥ずかしいこともできる!

だって恋人だもん! 付き合って数年だけどカップルだもん!

ああ、朝が楽しみだな。

(ちなみにこれは今日の午前2時30分に書かれたものである)



夜です。

ついに彼女が引っ越してきました。

まだ多少荷物は残っているけど、大体おっけー。


いま彼女は最後の確認をするため自分の部屋に戻ってます。


で、暇つぶしにこの日記を読んでたんだけど、

さっき書いた、まいすうぃーとえんじぇるって実に的を得てると思う。

私の恋人の天使、わーいい響き♪

うむ、まさに言いえて妙だ。

てゆーか魔王と天使のカップルってすごいよね?

むしろありえないって言うか?


ま、関係ないか恋人だし☆


てゆーかこのまえ戦争のこと城下に謝りに行ったついでに婚約発表しちゃった♪

国民も許してくれたし肩の荷が下りたよ。

これで堂々とイチャイチャできる!


キスもここ最近してないし

抱きしめるのも随分とご無沙汰な気がする。

エルシー早く来ないかな。


あ、足音が聞こえる。

来たみたいだ。


続きは後ほど。



ぅあ~……、よかった。

可愛かった。

やっぱ寝顔とかサイコーだよね。


どーも【魔王】と呼ばれる男です。

何かいてんだろう私。


なんてゆーか、そうですね。

あの後会ったこと書こう、うんそうしよ。


あのとき、扉が開くとそこにはまさに天使然とした My Sweet Honey が立っていた。


「あ、あの、陛下。失礼します。」


ハイストップー!

もうこの時点で可愛すぎるぞ、まいえんじぇる。


失礼なんかじゃないぞ、ハニー♪

って思ってても、口から出る言葉はコレよ。


「気にするな。いいから、ここに来い。」


………、まぁ以前のに比べればマシになった、かな…?


「は、はい。」


告ってから数年経った今でも、彼女は付き合って間もない女の子のように初々しい反応をする。


可愛いよ。

限りなく可愛いんだけどひとつだけ、ね……。


「陛下じゃないだろう。」


彼女は俯くと、小さく呟いた。



「……くろさま。」

「上出来だ。」



初期に比べると大分進歩した方か。

みるみる紅く染まる頬があまりにも愛らしくて、思わず抱き締めてしまった。


うわ、柔らか。


こっちまで顔が熱くなる。

しばらく抱き締めていると彼女の暖かさが伝わってきた。


この暖かさをずっと感じていたいな……。


「くろ…さま……、くるし…。」


あ。


「す、すまない。」


名残惜しいが、離れる。

だが、そこで終わるほどヘタレでもないぞ、私は。


自然な動きで軽く屈み、たおやかな膝をすくい上げると……。

あら不思議、あっという間にお姫さま抱っこの出来上がり。


でもまぁやっぱりヘタレなので出来るのはまだここまで。

エルシーをベッドにぽすっと置く。


するとエルシーはずっと手に抱えていたものを私に差し出した。

あ、これは……


「あ、の、へい…じゃなくてクロ様、えっと……」

「なんだ?」

「これ、さっき部屋で見つけたんです」


それは私がいつかに贈った日記帳だった。


「……まだ、もっていてくれたのか」

「もちろんです! それであの、あのときはお礼が言えなかったので……、ありがとうございました。」


赤面最高潮。

可愛いったらありゃしない。


もう一度、ギュッと抱きしめ彼女をベッドに寝かせた。

もう一度書くが私に度胸は皆無だ。


寝息が聞こえるまで横で髪をなでていたが、今はこれを書くため机に向かっている。

日記もこの辺にしておこうか。

私もベッドに眠る彼女の隣にもぐりこんで横になるとしよう。


愛しいハニーが待っている。



―――はしがき――――


私は【魔王】だ。

そう呼ばれているし、自分でも名乗っている。

後悔なんぞしたことはない。


私は【王】だ。

民のため

そして彼女のために

よりよい国をつくりたい。


それがたとえ

この寝顔がいつまでもなくならないように。

という非常に自分勝手なものだったとしても。


王というのはそれくらい我がままでいいのだ。

自分勝手を貫き通してこそ、良い王になれると私は思う。


自分勝手は過ぎると破滅をもたらすことを忘れなければ、だが。


民を愛し、

妃を愛し

自分を愛してこそ

立派な王になれるのだ!


そう私は信じている。


  (───7代目国王【魔王】クロ・ネロニュイの日記より ネロニュイ王国国史)

どうでしたでしょうか。


魔王の印象は変わりましたか?

見る目によって側近も変わるもんですね、作者もびっくりです。


ご意見ご感想、心からお待ちしています。

ご読了本当にありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 声を出して笑わせてくれる作品に出会ったのは ほんっとーにもう!久しぶりです。 魔王様の情けなさ(でも時々かっこいい)にはまりますね。 スカっとする読み終わり、幸せな気分です。
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